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二章 総統閣下の探し人

6 「色気が無いな……」

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「……なんだここ」

 一通り部屋の中を見て回ったが外に出る方法は見当たらない。
 大きな木製の扉には外から鍵がかかり、ノブをガチャガチャしても叩いても返事は無し。
 窓ははめ殺しで外にシャッターのようなものがあり風景も見れない。
 空調は高い天井に設置されており、足場になるようなものもなく手は届かなかった。

 大人が5人は悠々と眠れそうなベッドには阿僧祇俺の体がスヤスヤと眠っている。

 部屋に時計は無かったが、阿僧祇が眠っているということは21時以降のはずだ。
 阿僧祇は特に命令が無ければ21時を過ぎると眠ってしまう良い子なのである。
 決しておじいちゃんだからとかではない。まだそんな歳じゃない。絶対に違う。

「家具の趣味はいいな……」

 阿僧祇の眠るベッドも、広い部屋に配置されたテーブルやチェアも、俺好みのものばかりだった。
 分厚い一枚板で作られたテーブルとか、木を曲げた優美なデザインのチェアとか、正直めちゃくちゃ居心地が良い。ここに住みたい。

 窓は塞がれているが壁紙が華やかで圧迫感も無く、モデルルームのように美しい部屋でありながら、人が心地よく暮らせるようにとよく考えられているのが伝わってくる。

「ここまで俺の趣味を知り尽くしているとなると、ベスとモリノミヤ、あとはもちろん――」
「起きたか」
「やっぱりお前だよなレイン~~~~」

 お前じゃなかったらどうしようかとと、感動のあまり飛びついてしまった。
 扉を開けて入ってきたレイン越しにチラッと外を見る。

「二重扉だと……!」
「抜け目のない人だな」

 扉の向こうにはもう一枚扉があり、そちらは網膜認証錠のようだった。抜け目無いのはどっちだ。

 レインはワゴンを押しており、上には見事なアフタヌーンティーセットが並べられている。

「紅茶はいかがか、親父どの」
「ずるい……! 喜んで!!」
「阿僧祇も起こすか」

 色々聞きたいことがあるのに、飲みごろの紅茶が目の前にあっては喉から出かけた言葉が押し戻された。飲みごろの紅茶はすぐさま飲むべきなのである。

 あたたかみのあるチェアに身を預け、ロケーション以外は完璧なお茶会が始まった。

「スコーンにクロテッドクリームたっぷりつけて……あっ阿僧祇は少なめにしとこうな。胃もたれするから」
「胃もたれするのか?」
「お前も35過ぎればわかるよ……あーいやどうかな、俺は人より貧弱な方だからなあ……」

 異能が強いと身体能力も高くなり、内臓機能も上がると聞く。
 "ランクSSS"のレインなら35歳過ぎても平気で家系ラーメンアブラマシマシとか食べられそうだ。食べるかどうかはともかくとして。

「――ところで、何なんだこの部屋。閉じ込められてるんだけど俺」
「見事に飲み尽くしてから聞いたな」
「ごちそうさまでした。めちゃくちゃ満足……眠くなってきた」
「ベッドならそこにある」
「んー、でもベスが待ってるから早く帰らないと……なのに、なんだこの眠気。一服盛った?」
「今日は何も盛ってない。疲れていたんだろう」
「そうか……確かに最近めちゃくちゃ忙しかった……」

 阿僧祇の手を引きベッドに向かう。柔らかいがしっかりと体を支えてくれるマットレスにばふっと倒れ込むと、レインが抱え直して仰向けに横たわらせてくれた。
 遠ざかる意識の中、水音がして体を起こされ、背後から抱きしめられた状態で口に歯ブラシが突っ込まれる。

(レインお前だったのか、俺が激務でぶっ倒れた時に寝る準備させてくれていたのは……)

 悪の総統時代、夜にへろへろで帰宅しても朝にはさっぱりしていることがあった。
 てっきり無意識で整えて寝ていたのかと思っていたが、レインがやってくれていたらしい。

「ちょっと……恥ずかしい」
「いいから寝ろ」
「んー……」

 こんな心境で眠れるかー!と思ったが結局疲れには抗いきれず、気絶するように眠ってしまった。


***


「……んがっ」

 目覚めたら、阿僧祇と俺とレインで川の字になっていた。俺が真ん中で、レインに後ろから抱きしめられている。
 阿僧祇はムニャムニャいっているが起きてはいない。ということは朝6時より前だ。
 ちょっと早い時間に起きてしまった。

「レインくーん……」

 片腕で腕枕され、片腕がしっかり腹に巻き付いていたから、軽く身を揺すってみる。そしたらぎゅうと腕の力が強まった。

「レイン、俺ちょっとトイレに行きたいんだけど……」

 寝入っていても抱き枕よろしく俺を抱きしめる癖があるレインだから目を覚ましているかはわからなかったが、抜け出そうともぞりと動いてみたら明らかに阻止される。
 これは起きているな。

「レーイーンー……」

 下手に動こうとするとぎゅうぎゅう締め付けられるため俺は内心で焦っていた。
 実は、股間で息子が元気になっている。
 朝勃ちというやつだ。最近は疲れて抜いていなかったツケが今来た。

 レインに過去にしたことを考えると、今勃起を悟られるわけにはいかない。
 何より俺はレインが好きなのだ。今ならまだトイレに行けば収まるのに、このままじゃ収まりがつかなくなる。

 それなのに抜け出そうともがけばもがくほど腕は強まり――もがいた拍子にレインの手がそこに触れてしまった。

「……」
「んひっ」
「色気が無いな……」

 気まずい……と動きが止まると、ふいにうなじを吸い上げられる。
 まさかキスされると思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
 しかもそのまま股間を弄られそうになり、必死に両手でかばう。

「レイン、やめて……」
「帰らないと、と言ったな」
「んぇ……? みみ、耳噛むなよぉ……」
「帰してやってもいい。ただし――」

 耳を食みながら超至近距離で囁かれ、俺の心臓がうるさく跳ねた。
 俺に伸し掛かってきたレインが、真剣な顔で見下ろしてくる。



「あの夜のやり直しを要求する」
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