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二章 総統閣下の探し人
7 「これからは逃げても必ず見つけ出す」
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「あの夜って――んっ」
あの夜ってまさか俺がレインの童貞を奪ったあの夜のことじゃないよな、と目を白黒させていたら、むにゅっと唇が塞がれた。
視界いっぱいが埋まるほど近いレインの顔。
薄く柔らかい感触には覚えがあった。
思い出すのは、体が繋がっている間に何度も与えられた、レインの唇。
「ん!? んんん!? んー!!」
腕を突っぱねて離そうとするのに、レインの手ががっしりと俺の頭を掴んで離さない。
しばらく全力で抵抗してみたが体格も異能も勝るレインと俺では力の差は明確で。
それでも流されてはいけないと頭がガンガン警鐘を鳴らすものだから、目を血走らせて抵抗した。
「……クク」
そしたら、レインが苦笑して。
「ん……っ!!」
ぬるり、と舌が入ってきた。
唇を閉じようとしてももう遅く、奥に逃がした舌が捕まり絡め取られる。
「ふ……、は……ぁ……」
レインの舌が俺の舌を引き出し、絡め、舐めあげる、その直接的な刺激に意識が蕩けた。
潤んでいく視界の中で、レインは目を閉じることなく俺をじいと見つめている。
「……は、ふ……やり、直しって、なんでだ、よ……。これが、若い体だから……?」
「次に同じことを言えば、あなたのものを切り取って、その尻にぶち込むからな」
「ヒッ……優しくして……」
「やられる前提の慈悲乞いをするな。まあ、本当にやるが」
「やるつもりなんじゃん……」
「馬鹿なことを言わなければいい」
唇が離れても頬や額を擦り付け合いながら、互いに視線は離さない。
会話の内容は物騒なのに、レインの目には煮込んだばかりのジャムのように、火傷しそうな熱と甘さが籠もっていた。
見つめているだけで、そして見つめられているだけで、キスしている時と同じくらい思考が蕩けていく。
「優しくされたいのなら大人しくしていろ。――もう、ベッドを血で染める気はない」
「う……」
レインが言っているのは俺がレインに乗っかって童貞を奪った時のことだ。
一応勉強したし慣らしはしたのだが俺も後ろは初めてで、しかもレインのものは体格に見合って立派だった。
それでもまあいけるだろうと勢いで飲み込んだら、俺の尻が切れたのだ。
さすがにセックスにベスの卵を持ち込まなくてもいいだろうと楽観視していたせいでベッドもシーツも大惨事になった。
そして終わった後、大惨事をそのままにして逃げ出したのである。
嫌われるつもりだったとはいえ中々にひどいことをした。
――だから、そうだ、だからだ。
レインは初体験がひどかったから、禊のために同じ相手とやり直そうとしているだけだ。
そうだと思おう。いや、そうに違いない。
「刹那、俺は――」
「レイン」
何か決定的なことを紡ぎかけた顔を引き寄せ唇を重ねる。
レインは少し驚き何か言いたげな様子だったが、俺から舌を入れれば吸い返してくれた。
「……レイン、俺本当に、終わったら帰るからな」
「……ああ、それでいい。居所は掴んだ。これからは逃げても必ず見つけ出す」
「有能だなあ……」
「ああ。だから」
レインが俺の頬を大きな手のひらで撫でる。
ひやりと冷たい指先で、形を確かめるように触れられた。
「もう、消えないでくれ。本当に――生きていて、よかった」
「……ありがとう、優しい子」
――かつて俺は、嫌われようとしてレインを襲ったが、その程度では駄目だったみたいだ。
俺もどこかでそうとわかっていたから、朝を待たずに逃げ出したのだと今にして思う。
レインを拾ってから別れるまで13年。
短くはない年月は、俺たちの間にちょっとやそっとでは揺らがない感情を育んでしまったみたいで。
(それでも、どうか、お願いだ)
レインを見つめ、心の中で祈る。
口に出せばきっとお前は怒るだろうから。
(どうか――俺のことを好きだなんて言わないで)
レインのためになんでもしてやりたい。
俺はおそらく比喩でもなんでもなく、レインのためならなんでもできる。
――俺が許せないのは自分自身だ。
レインを好きだという感情だけは許すわけにはいかないし、叶えるわけにもいかない。
(他のことならなんでも叶えるから、どうか――俺の願いだけは絶対に叶えないでくれ)
祈りを込めて、レインの頭を強く強く抱きしめた。
「よし! じゃあ、ヤろう!」
「……あなたはムードというものを学べ」
「いや男同士だとムードだけだとどうにもならないだろ……その、ヤるなら腹の中洗わないと」
「それなら問題ない」
「え?」
部屋にはレストルームもついていたから準備をしようとベッドを降りると、レインが腕を引いて引き止める。
手のひらの上にコロンと丸い桃色の錠剤を乗せられた。
「なにこれ?」
「『悪の組織』が去年から販売している"お腹を綺麗にする薬"だ。一応整腸剤という区分だがアナルセックス専用薬だな。これさえ飲めば問題ない」
「はぁー便利な時代になったなぁ……。じゃあ早速」
「効果が出るまで約6時間。昨夜眠っている間に飲ませておいたから今丁度良い頃合いだ」
飲もうとしたら止められて、再びベッドに押し倒される。
あまりにもシレッと言われたものだから流しかけたが、聞き捨てならないことを聞いた気がした。
「……眠る俺に? 薬を飲ませた?」
「眠るあなたに、薬を飲ませた」
「……合意とか……倫理とか……道徳は……?」
「はは」
頬杖をついたレインが笑いながらムニ、と俺のほっぺを摘む。
「俺を育てたのは『悪の組織』の総統だぞ?」
「……阿僧祇くんは悪い人だなあ……」
目を逸らした先で阿僧祇がスヤスヤと眠っていたので、とりあえず罪をなすりつけた。
レインはそんな俺をニヤニヤと見つめている。
『悪の組織』第13代総統、阿僧祇刹那。
レインを育てた方針は――欲しい物は手段を選ばず全て手にする者になれ。
(理想通りに育ったなあ……!)
あの夜ってまさか俺がレインの童貞を奪ったあの夜のことじゃないよな、と目を白黒させていたら、むにゅっと唇が塞がれた。
視界いっぱいが埋まるほど近いレインの顔。
薄く柔らかい感触には覚えがあった。
思い出すのは、体が繋がっている間に何度も与えられた、レインの唇。
「ん!? んんん!? んー!!」
腕を突っぱねて離そうとするのに、レインの手ががっしりと俺の頭を掴んで離さない。
しばらく全力で抵抗してみたが体格も異能も勝るレインと俺では力の差は明確で。
それでも流されてはいけないと頭がガンガン警鐘を鳴らすものだから、目を血走らせて抵抗した。
「……クク」
そしたら、レインが苦笑して。
「ん……っ!!」
ぬるり、と舌が入ってきた。
唇を閉じようとしてももう遅く、奥に逃がした舌が捕まり絡め取られる。
「ふ……、は……ぁ……」
レインの舌が俺の舌を引き出し、絡め、舐めあげる、その直接的な刺激に意識が蕩けた。
潤んでいく視界の中で、レインは目を閉じることなく俺をじいと見つめている。
「……は、ふ……やり、直しって、なんでだ、よ……。これが、若い体だから……?」
「次に同じことを言えば、あなたのものを切り取って、その尻にぶち込むからな」
「ヒッ……優しくして……」
「やられる前提の慈悲乞いをするな。まあ、本当にやるが」
「やるつもりなんじゃん……」
「馬鹿なことを言わなければいい」
唇が離れても頬や額を擦り付け合いながら、互いに視線は離さない。
会話の内容は物騒なのに、レインの目には煮込んだばかりのジャムのように、火傷しそうな熱と甘さが籠もっていた。
見つめているだけで、そして見つめられているだけで、キスしている時と同じくらい思考が蕩けていく。
「優しくされたいのなら大人しくしていろ。――もう、ベッドを血で染める気はない」
「う……」
レインが言っているのは俺がレインに乗っかって童貞を奪った時のことだ。
一応勉強したし慣らしはしたのだが俺も後ろは初めてで、しかもレインのものは体格に見合って立派だった。
それでもまあいけるだろうと勢いで飲み込んだら、俺の尻が切れたのだ。
さすがにセックスにベスの卵を持ち込まなくてもいいだろうと楽観視していたせいでベッドもシーツも大惨事になった。
そして終わった後、大惨事をそのままにして逃げ出したのである。
嫌われるつもりだったとはいえ中々にひどいことをした。
――だから、そうだ、だからだ。
レインは初体験がひどかったから、禊のために同じ相手とやり直そうとしているだけだ。
そうだと思おう。いや、そうに違いない。
「刹那、俺は――」
「レイン」
何か決定的なことを紡ぎかけた顔を引き寄せ唇を重ねる。
レインは少し驚き何か言いたげな様子だったが、俺から舌を入れれば吸い返してくれた。
「……レイン、俺本当に、終わったら帰るからな」
「……ああ、それでいい。居所は掴んだ。これからは逃げても必ず見つけ出す」
「有能だなあ……」
「ああ。だから」
レインが俺の頬を大きな手のひらで撫でる。
ひやりと冷たい指先で、形を確かめるように触れられた。
「もう、消えないでくれ。本当に――生きていて、よかった」
「……ありがとう、優しい子」
――かつて俺は、嫌われようとしてレインを襲ったが、その程度では駄目だったみたいだ。
俺もどこかでそうとわかっていたから、朝を待たずに逃げ出したのだと今にして思う。
レインを拾ってから別れるまで13年。
短くはない年月は、俺たちの間にちょっとやそっとでは揺らがない感情を育んでしまったみたいで。
(それでも、どうか、お願いだ)
レインを見つめ、心の中で祈る。
口に出せばきっとお前は怒るだろうから。
(どうか――俺のことを好きだなんて言わないで)
レインのためになんでもしてやりたい。
俺はおそらく比喩でもなんでもなく、レインのためならなんでもできる。
――俺が許せないのは自分自身だ。
レインを好きだという感情だけは許すわけにはいかないし、叶えるわけにもいかない。
(他のことならなんでも叶えるから、どうか――俺の願いだけは絶対に叶えないでくれ)
祈りを込めて、レインの頭を強く強く抱きしめた。
「よし! じゃあ、ヤろう!」
「……あなたはムードというものを学べ」
「いや男同士だとムードだけだとどうにもならないだろ……その、ヤるなら腹の中洗わないと」
「それなら問題ない」
「え?」
部屋にはレストルームもついていたから準備をしようとベッドを降りると、レインが腕を引いて引き止める。
手のひらの上にコロンと丸い桃色の錠剤を乗せられた。
「なにこれ?」
「『悪の組織』が去年から販売している"お腹を綺麗にする薬"だ。一応整腸剤という区分だがアナルセックス専用薬だな。これさえ飲めば問題ない」
「はぁー便利な時代になったなぁ……。じゃあ早速」
「効果が出るまで約6時間。昨夜眠っている間に飲ませておいたから今丁度良い頃合いだ」
飲もうとしたら止められて、再びベッドに押し倒される。
あまりにもシレッと言われたものだから流しかけたが、聞き捨てならないことを聞いた気がした。
「……眠る俺に? 薬を飲ませた?」
「眠るあなたに、薬を飲ませた」
「……合意とか……倫理とか……道徳は……?」
「はは」
頬杖をついたレインが笑いながらムニ、と俺のほっぺを摘む。
「俺を育てたのは『悪の組織』の総統だぞ?」
「……阿僧祇くんは悪い人だなあ……」
目を逸らした先で阿僧祇がスヤスヤと眠っていたので、とりあえず罪をなすりつけた。
レインはそんな俺をニヤニヤと見つめている。
『悪の組織』第13代総統、阿僧祇刹那。
レインを育てた方針は――欲しい物は手段を選ばず全て手にする者になれ。
(理想通りに育ったなあ……!)
応援ありがとうございます!
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