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第一章 出会い編
第39話 父と娘 皇帝と王と騎士団長③
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※前半シェイラ、後半ロイド視点でお送りします♪(´ε` )
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お父、様…」
『何故お前は生きている?』
甦るのは母の葬儀の険しい顔。
絶望と憎悪を宿して私を睨んでいたあの眼差し。
あれから9年経った今再会した父は………かなりやつれていた。
そしてその眼差しは、眩しく懐かしむような。それでいてどこか困っているような、そんな曖昧なもの。
「本当に。……本当に、大きく、なっ……ッッ」
「っお父様!?」
突如がくりと床に崩れ落ちた父に慌てて駆け寄るシェイラだったが、次いで告げられた言葉に再び息を呑んだ。
「すまなかった……っっ!!」
「ッッ……え」
「私は…私はあの時お前を置いて、逃げてしまったっ!!
エリーシェが死んで、苦しくて悲しくてそのことばかりでお前のことを気にかけるどころかあんな言葉まで……。
他ならぬエリーと私の最愛の娘であったはずのお前に!!
……最低な父親だ」
「それは」
両手を床について涙を流して土下座する父の姿は長身であるはずの彼を酷く小さく見せていた。
何度も頭の中で反芻しては苦しくなったあの時のことを必死になって謝る彼に。
恨まれているとさえ思っていた彼から最愛の娘と言われたことに。
シェイラ自身酷く戸惑い、また、心の奥から温かいものが込み上げてきて言葉に詰まる。
「9年だ。9年もの間領地を、屋敷を、一人娘であるお前を
どうして放って置けたのかっっ。
こんな不甲斐ない男に父と名乗る資格すらもはや無いのだろう…だからシェイラ。
どうか私を、許さないで、くれ」
魂が悲鳴を上げているかのような苦渋と後悔に満ちた父の言葉に、姿に。シェイラは心に刺さった棘が抜けていくのを感じていた。
何故9年も会いにきてくれなかったのか。
自分の話を聞いてくれなかったのか。
自分はあの時、あそこまで責められなければならない事をしてしまったのか。
私のことが、嫌いなのか。
王都で会えたなら
沢山沢山、言いたいことがあったのに。
そんなことよりも自分は、ただ父に、会いたかったのだと気づいた時。
気がつけば同じくしゃがみ込み、父の痩せた肩を両手で支えて抱きしめていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
side:ロイド
部屋に娘が入ってきた時一瞬、エリーシェが帰ってきたと思ってしまった。
すぐに思い違いに気づきシェイラ、と名前を呼ぶことができたものの。
髪の色以外、妻と瓜二つに育ったシェイラの姿に酷く驚き。
また、それほどまでに育った事を、その年月を、まざまざと見せつけられ。
言いかけた当たり障りのない挨拶をする自分の口は突如詰まった。
激しい後悔と自責の念がぶり返し、床に頽れながら必死に動かした口からこぼれ出た言葉の数々はただひたすらに自分の心を楽にするための懺悔の言葉。
こんな自分勝手で浅はかな最低の人間である自分が彼女に許されて良いはずもないし、彼女も自分を父などと心から認めてくれることはないだろう。
寧ろ、決して許されてはならない。そう思い地に伏して恥も外聞もなく泣きながら告げた言葉をどう思ったのだろう。
『!!』
彼女は、シェイラは、
徐に私の肩に手を置きそして、抱きしめたのだ。
そんな筈はない。
長年に渡って不義理と苦痛を強いてきた人間を、自分を、抱きしめるなど。
暖かなその手で触れてくれるなど
……許してくれることなど、あろうはずがないのに。
現実をちゃんと見ろ、と目を見開き、それでも離れることのない温もりがこれは現実だと自分に囁くのだ。
「お父様」
びくりと身体を跳ねさせれば、キュッ………と自分を包む腕に力が入る。
「お父様は、何か思い違いをされていらっしゃいますわ。
お父様は私に、貴方を許すなと仰ったけれども、許されなければならないことがどこにありまして?
あれほど私とお母様を愛してくださっていたお父様が。初めは感情の整理がつかずに逃げたとしても、9年もの間お母様の墓参りにすら顔を出さないはずありません。
きっとこちらに戻って来れない事情があったことは、とっくに察していますもの。
私は私で、そのことに対して手紙の一つも出さなければ、王都まで来ることもなかった。
きっとそれでおあいこですわ」
「っしかしそれは!」
「それも何もありませんわ。
……でも。それでも気持ちの整理がつかないと、自分自身を許せないと、そうおっしゃるのなら。
「………。」
もう一度、いえこれから何度でも、私の名を呼んでくださいお父様。
そして…私が確かに貴方の娘であると、……っ言って下さいましな!!」
「!!っシェイラ!!」
本当にこの子は……なんて娘なんだろう。
私の罪をなかったかのように振る舞うばかりか、情けなく泣く私と目を合わせて笑い、あまつさえ私が間違いなく父であると。
自分の名を呼んでくれと私に言うのだ。
自分こそが今にも泣きそうなほど綺麗な両瞳を潤ませているくせに。
「シェイラ!!シェイラッ…!」
「はいっ、お父様…っ!」
「すまなかった……ありがとう」
ああ、エリーシェ
私はなんて、幸せ者なのだろうね
君と似て美しく、可憐で
そうしてこんな芯が強くも優しく育った娘を、再びこの手の中に抱きしめられるなんて。
本当なら不甲斐ない私の事を君が真先に怒ってくれたはずだけれど
死んだら真先に謝りに行くから だから待っていてくれるかな
もう少し 彼女の元で名を呼び見守る事を許してくれ
ー… なぁ 私の唯一愛した 私のエリー
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※その頃のガド
(………。
…………。
俺は空気、俺は空気、俺は空気………。
くそっ!なんで俺はあの時侍女たちと一緒に部屋を出なかったんだ!?完全に場違いじゃねぇかよこれ!!
頼む、もうなんでもいいから早く終わるなり誰か乱入するなりしてきてくれ、
そして孤独な俺を救ってくれ~!!)
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「お父、様…」
『何故お前は生きている?』
甦るのは母の葬儀の険しい顔。
絶望と憎悪を宿して私を睨んでいたあの眼差し。
あれから9年経った今再会した父は………かなりやつれていた。
そしてその眼差しは、眩しく懐かしむような。それでいてどこか困っているような、そんな曖昧なもの。
「本当に。……本当に、大きく、なっ……ッッ」
「っお父様!?」
突如がくりと床に崩れ落ちた父に慌てて駆け寄るシェイラだったが、次いで告げられた言葉に再び息を呑んだ。
「すまなかった……っっ!!」
「ッッ……え」
「私は…私はあの時お前を置いて、逃げてしまったっ!!
エリーシェが死んで、苦しくて悲しくてそのことばかりでお前のことを気にかけるどころかあんな言葉まで……。
他ならぬエリーと私の最愛の娘であったはずのお前に!!
……最低な父親だ」
「それは」
両手を床について涙を流して土下座する父の姿は長身であるはずの彼を酷く小さく見せていた。
何度も頭の中で反芻しては苦しくなったあの時のことを必死になって謝る彼に。
恨まれているとさえ思っていた彼から最愛の娘と言われたことに。
シェイラ自身酷く戸惑い、また、心の奥から温かいものが込み上げてきて言葉に詰まる。
「9年だ。9年もの間領地を、屋敷を、一人娘であるお前を
どうして放って置けたのかっっ。
こんな不甲斐ない男に父と名乗る資格すらもはや無いのだろう…だからシェイラ。
どうか私を、許さないで、くれ」
魂が悲鳴を上げているかのような苦渋と後悔に満ちた父の言葉に、姿に。シェイラは心に刺さった棘が抜けていくのを感じていた。
何故9年も会いにきてくれなかったのか。
自分の話を聞いてくれなかったのか。
自分はあの時、あそこまで責められなければならない事をしてしまったのか。
私のことが、嫌いなのか。
王都で会えたなら
沢山沢山、言いたいことがあったのに。
そんなことよりも自分は、ただ父に、会いたかったのだと気づいた時。
気がつけば同じくしゃがみ込み、父の痩せた肩を両手で支えて抱きしめていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
side:ロイド
部屋に娘が入ってきた時一瞬、エリーシェが帰ってきたと思ってしまった。
すぐに思い違いに気づきシェイラ、と名前を呼ぶことができたものの。
髪の色以外、妻と瓜二つに育ったシェイラの姿に酷く驚き。
また、それほどまでに育った事を、その年月を、まざまざと見せつけられ。
言いかけた当たり障りのない挨拶をする自分の口は突如詰まった。
激しい後悔と自責の念がぶり返し、床に頽れながら必死に動かした口からこぼれ出た言葉の数々はただひたすらに自分の心を楽にするための懺悔の言葉。
こんな自分勝手で浅はかな最低の人間である自分が彼女に許されて良いはずもないし、彼女も自分を父などと心から認めてくれることはないだろう。
寧ろ、決して許されてはならない。そう思い地に伏して恥も外聞もなく泣きながら告げた言葉をどう思ったのだろう。
『!!』
彼女は、シェイラは、
徐に私の肩に手を置きそして、抱きしめたのだ。
そんな筈はない。
長年に渡って不義理と苦痛を強いてきた人間を、自分を、抱きしめるなど。
暖かなその手で触れてくれるなど
……許してくれることなど、あろうはずがないのに。
現実をちゃんと見ろ、と目を見開き、それでも離れることのない温もりがこれは現実だと自分に囁くのだ。
「お父様」
びくりと身体を跳ねさせれば、キュッ………と自分を包む腕に力が入る。
「お父様は、何か思い違いをされていらっしゃいますわ。
お父様は私に、貴方を許すなと仰ったけれども、許されなければならないことがどこにありまして?
あれほど私とお母様を愛してくださっていたお父様が。初めは感情の整理がつかずに逃げたとしても、9年もの間お母様の墓参りにすら顔を出さないはずありません。
きっとこちらに戻って来れない事情があったことは、とっくに察していますもの。
私は私で、そのことに対して手紙の一つも出さなければ、王都まで来ることもなかった。
きっとそれでおあいこですわ」
「っしかしそれは!」
「それも何もありませんわ。
……でも。それでも気持ちの整理がつかないと、自分自身を許せないと、そうおっしゃるのなら。
「………。」
もう一度、いえこれから何度でも、私の名を呼んでくださいお父様。
そして…私が確かに貴方の娘であると、……っ言って下さいましな!!」
「!!っシェイラ!!」
本当にこの子は……なんて娘なんだろう。
私の罪をなかったかのように振る舞うばかりか、情けなく泣く私と目を合わせて笑い、あまつさえ私が間違いなく父であると。
自分の名を呼んでくれと私に言うのだ。
自分こそが今にも泣きそうなほど綺麗な両瞳を潤ませているくせに。
「シェイラ!!シェイラッ…!」
「はいっ、お父様…っ!」
「すまなかった……ありがとう」
ああ、エリーシェ
私はなんて、幸せ者なのだろうね
君と似て美しく、可憐で
そうしてこんな芯が強くも優しく育った娘を、再びこの手の中に抱きしめられるなんて。
本当なら不甲斐ない私の事を君が真先に怒ってくれたはずだけれど
死んだら真先に謝りに行くから だから待っていてくれるかな
もう少し 彼女の元で名を呼び見守る事を許してくれ
ー… なぁ 私の唯一愛した 私のエリー
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※その頃のガド
(………。
…………。
俺は空気、俺は空気、俺は空気………。
くそっ!なんで俺はあの時侍女たちと一緒に部屋を出なかったんだ!?完全に場違いじゃねぇかよこれ!!
頼む、もうなんでもいいから早く終わるなり誰か乱入するなりしてきてくれ、
そして孤独な俺を救ってくれ~!!)
応援ありがとうございます!
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