神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました

下菊みこと

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さようなら、世界

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思えばつまらない人生だった。

やれお受験、お勉強。友達と遊ぶことも許されない毎日。学業の成績が少しでも落ちれば容赦なく叩かれて。

学校でも、付き合いの良くない私は当然良く思われない。イジメられこそしなかったが孤立はしていた。

どこにも居場所なんてなかった。

ある時急に吹っ切れて、これ以上は親の言いなりになりたくなくて…高校を勝手に中退して家を飛び出した。

「それが正解だったかはわからない。けれど間違えていたとも思っていない」

ぽつりと溢れた独り言に、嗤う。

そう、間違えていたとは思っていない。

思いつくまま家出して、結果的に幸運にも寮付きの工場に就職できたのだから。

そこでの人生は、三年しか続かなかったが楽しかった。

先輩方は優しくて可愛がってくれて、色々な出自を持つ人が集まっていたから詮索もされない。

「本当に、良い人たちばかりだった…」

衣食住は寮生活なので大体保証されていて、お金も入るので貯蓄もしつつだけど散財も楽しんだ。

自分で自分の人生を決めるのはこんなにも楽しい…というとさすがに大げさかもしれないが、工場に勤務してからの三年は本当に我が人生において一番幸せな時間だった。

もちろん大変なこともあった。仕事について先輩方にアドバイスを求めにいくことも多くて、先輩方にとっては手のかかる後輩だっただろうなと思う。

それでも構ってくれて、指導してくれる先輩方が大好きだった。

「遺書くらい、事前に用意しておくべきだったかぁ…」

残念ながら、遺書は用意していない。

だって、毎日が楽しかったから。

こんなに急に、死が訪れると思っていなかった。

「はは…通り魔に刺されて死ぬとか…」

せっかくこれからだったのに。

親の呪縛から解き放たれて、煩わしい学校という閉鎖空間から逃れて。

仕事もバリバリこなせるようになって、衣食住は保証されてお金も好きに貯蓄して散財もして。

これからきっと、恋だってしたかもしれない。そのまま結婚したかもしれない。子供を授かることもあったかも。なんて言っても…イマイチその辺りはピンとこないけど、でももしかしたら本当にそんな未来もあり得たかもしれない。

それら全てを、私は今この瞬間奪われたのだ。

「あ…」

これ以上はもたないだろうとなんとなくわかる。もう独り言さえ口から出てくれない。

漏れるのは掠れた呼吸音だけ。

情け無いとは思うけれど、抗うのを諦めて目を閉じる。

願わくば。

どうか。

『次の人生では、愛を教えてくださいませんか』

そんな祈りさえ、言葉にならず空気に溶けた。

さようなら、世界。
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