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忌々しい

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ゴッドリープ様との逢瀬が、今日に限っては残念な終わりを迎えた。

いつも、るんるん気分で帰るのに。

今日はとても悲しい。

そして境内に出て。

忌々しい娘を見つけた。

「兄様、喜んでくれるかな」

「はい、キューケン様。ゴッドリープ様はきっと今日もお喜びになりますよ」

飾り気のない、どこにでも生えているような草花をかき集めて。

恐れ多くもゴッドリープ様と同じ色の短い髪を風に靡かせて。

ゴッドリープ様とは違う、気持ちの悪い黄金色の瞳を柔らかく細めて。

ゴッドリープ様を兄様、などと馴れ馴れしく呼んで。

ゴッドリープ様とは違い、気色の悪いその生き物は…笑った。

「…こんにちは」

気付いたら私はそれに話しかけていた。

「こんにちは」

「貴女、お名前は?」

「キューは、キューケンです」

キューとは、可愛子ぶって。

「貴女、恐れ多くもゴッドリープ様の妹を名乗っているのですってね」

「む、ムーンリット様…」

ゴッドリープ様が付けたのだろう。

この忌々しい娘を見守っていた教徒が私を制止しようとする。

この教徒だって、総本山に来てから短い間とはいえ私のゴッドリープ様への献身を知っているというのに。

しかし、生意気にもこの忌々しい娘自身がそれを止める。

「いいの。…そうです、キューは兄様の妹です」

「血の繋がりはないのでしょう?」

「でも、兄様はキューを妹と言ってくれました」

「貴女のことを憐れんでの処置よ」

「ムーンリット様、お言葉が過ぎます!」

ついに口を挟む教徒に、忌々しい娘が告げる。

「兄様が、大事な教徒だって言ってたから意地悪しちゃだめだよ」

…ゴッドリープ様が、私を大事な教徒だと言ってくれたの?

嬉しくてにやけてしまう。

でも、どうせなら大事な将来のお嫁さんと言って欲しかった。

…ともかく。

「貴女、ゴッドリープ様の妹を名乗るならせめてもっとしっかりした言葉遣いを身に付けなさい」

「…えっと、それは」

「周りの大人を見習って、ゴッドリープ様をもっと敬うのよ」

馴れ馴れしくも兄様と呼ぶのをやめて、敬語も使いなさいよと言外に伝える。

忌々しい娘は、きちんとわかったのかは怪しいが頷いた。

「気をつけます」

「わかればいいのよ」

そして私は忌々しい娘に背を向けて、下山した。

少しお灸を据えるくらいなら、ゴッドリープ様だって許してくださるわよね。
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