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前世のこと、今世のこと

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「けど、これから明日の朝になるまで何をして過ごそうか」

「兄様といられればそれでいいよ」

兄様は可愛いことをと言って私をぎゅっと抱きしめる。

兄妹でイチャイチャしていたらふと部屋の外が急に騒がしくなり、かと思えば静まり返った。

あ、これは完全にバレたなと悟る。

けれど予想通り、教徒たちは私の捕獲を早々に諦めたらしい。

あとでごめんなさいしなくては。

「バレたみたいだね、キュー」

「あとでごめんなさいする」

「兄様も一緒に行くね」

なんと優しい兄様だろうか。

「ところで、多分嫌だとは思うんだけどいいかな」

「なに?」

「前世と今世の、オレと出会うまでのお話を聞かせて欲しいんだ」

兄様からのお願いは少し意外で驚く。

とはいえ、こんな機会でもなければそうそう話すこともないだろう。

完全に二人きりの今だから話せるというものだ。

「…うん、いいよ」

「じゃあ、お願いしようかな」

私は、まず前世の話から始めた。

「前世のキューの両親は、教育熱心だったの」

「うん」

「お勉強しなきゃいけなくて、友達と遊ぶのもダメだった」

兄様はそれを聞いて悲しそうな顔になる。

「お家では成績が悪いと暴力もあったし、お外では付き合いの悪い子だって浮いてた」

「そっか…辛かったね」

「誰からも愛されなくて、限界で、家を飛び出して…その先で、とある工場に就職したの」

兄様は真剣に聞いてくれる。

「その工場は寮付きだったから暮らしていけた。そこでは色んな先輩がいたから可愛がってもらえた。深入りもされなかった。キューは初めて自由を得て、楽しかった」

「うん」

「でもそんな人生を謳歌し始めた時に通り魔に刺されたの。知らない人に殺されたの。痛かったし悔しかった。もちろん怖かったし…」

そう語る私をぎゅっと抱きしめる兄様に、ほっとする。

「話してくれてありがとう。辛いことを思い出させてごめんね」

「ううん。自分で思い出す分には怖いけどなんとかなる」

フラッシュバックはあれ以来ないけど、あれはさすがにキツかった。

ただ、普通に思い出す分には過呼吸にはならないので大丈夫。

「目が覚めたら赤ちゃんになってて、今世の見た目はこんな色だから忌み子扱い。でも、喋れるようになるとこんなだからもっと嫌われた」

「キューに嫌われる要素なんてないよ。見る目のない連中だっただけだよ」

兄様は優しい。

大好き。

「弟が生まれたら、弟が普通の子だから余計に嫌われた。弟は後継だったし、私は要らないから捨てられた」

またぎゅっとされる。

「ごめんね、もういいよ。辛かったね」

「兄様、ありがとう」

でも、兄様に聞いてもらえてスッキリした。そう言えば、兄様は微笑んでくれた。
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