幼馴染に捕まるお話

下菊みこと

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婚約者を捕まえるお話

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私はレリアナ・クロッカス。子爵家の令嬢です。そんな私の婚約者はオネスト・リーリウム公爵令息。身分違いだとは自分でも思うけれど、親同士が仲が良く生まれながらの婚約者なので仕方がない。見た目も爵位も平凡な私と、見た目も爵位も最高な婚約者。幼馴染とはいえ、気後れするのは仕方がないと思う。そんな私達はこの国の貴族の子供の義務である貴族学院に通っている。が、成績優秀なネストとは違い、私は割と不真面目に学生生活を楽しんでいる。

「やったー!勝ったー!」

男友達数人との賭けポーカー。負け続けていたけれど、ようやく勝った。全額取り戻せたどころか大勝ち!やったね!

るんるん気分でさあもう一戦、というところで後ろから声がかかる。

「おやおや、僕の婚約者は浮気者だなぁ。こんな時間まで男友達と賭け事かい?」

「…はいはい、帰りますよーだ!」

男友達数人も、私の婚約者の顔を見てそそくさと退散した。私も帰る準備をする。

「そういえば、僕の可愛いリアはテスト勉強は捗っているかな?」

「…えーっと」

「やっぱり。今日はこのまま一緒に寮の僕の部屋に行こう。お泊りで勉強会だ。今日からテストまでの数日は続けよう。寮長には僕の方で許可を得ておくよ」

「…はーい」

不貞腐れる私に微笑むその姿は、まさに理想の王子様。だからこそ、劣等感が刺激される。

宣言通り、寮長にも許可を得てお泊りでテスト勉強。根気強く教えてくれるネストのおかげで、授業を受けてもちんぷんかんぷんだった部分もなんとか理解できた。少しずつ進む勉強。いつのまにか集中出来ていたのはネストの手腕だろうか。これなら赤点は免れるだろう。

「よく頑張りました。ご褒美のお茶とお茶菓子だよ」

「ネストありがとう!大好き!」

「調子がいいなぁ、もう。さあ、これを食べたらもう一息だよ」

「はーい…」

ネストに頭を撫でられる。ネストのことは、嫌いじゃない。けれど、婚約者というだけでネスト以外の選択肢がないのはなんだか窮屈で。しかも完璧な理想の王子様なのがいけない。女子から嫉妬されるし、何より私が劣等感に苛まれる。だから、男友達数人とつるんで鬱憤を晴らしている。それを知ってか知らずか、ネストはいつも私を放課後に迎えに来る。本当、なんで私なんだろう。もっと素敵なお嬢様がネストには相応しいのに。

ー…

テストが終わって、ようやく解放された。テストの結果はいつも通り、ネストは一位、私は真ん中から少し上くらい。ネストのおかげである。

なのに、私はネストに呼び出され寮のネストの部屋にいた。

「ネスト、テストも終わったんだし、勉強は良くない?」

「うん、そうだね。よく頑張りました。今日はご褒美のケーキを用意したんだ。よかったら食べていかないかい?」

「え!?ケーキ!?食べる!」

「ふふ。じゃん、リアの好きなお店のケーキだよ」

「わあ!これ食べたかったやつ!ありがとう、ネスト!いただきます!」

これだけのためにわざわざ呼んでくれたのか。なんて優しいんだ。

私は黙々とケーキを食べる。その様子を微笑んで見守るネスト。食べないの?

「ネストは食べないの?」

「ああ、うん。よかったら僕の分もお食べ」

「いいの!?ありがとう!」

そしてそれも食べ終えた。…特に話があるわけでもなく。暇になる。

「ありがとう、ご馳走さまでした!」

「お粗末さま。ねえ、今から劇でも見に行かないかい?」

「ええ…私あんまりそういうの興味ないかな」

「じゃあ、何か食べに行く?」

「今食べたばかりだし」

「そうだ、動物園にでも行ってみるかい?」

「それも興味ないなぁ…」

やっぱり私とネストって根本的に合わないよね。…などと思っていたら、使い魔が窓をコンコンと叩いた。窓を開けて使い魔を入れると、手紙が。
 
差出人は男友達数人。賭け麻雀をやるから来ないかとのお誘い。もちろん行く。

「ネスト、ごめん!今から友達と遊びに行くからまた今度ね!」

「…友達って、男?」

「うん、本当ごめん!」

私は逃げるようにネストの部屋を飛び出し、雀荘に行った。呼び止める声は、聞こえなかったことにした。

翌日はせっかくの休みだったが、ネストに呼び出された。こんこんと説教をされる。

「前々から思っていたけれど、結婚前から男遊びはいただけない」

「みんなとはそういうのじゃないよ…そりゃあ、ネストより優先して悪いとは思うけど、これから先ずっと一緒にいるネストと違って、みんなとの時間は学生の今だけだし…」

「君はそう思っていても、相手は違う」

「そんなことないって。私女の子らしいところなんてないし!ネストだって、私のこと婚約者だから心配してるだけでしょ?婚約者じゃなければそんな心配してないでしょ?」

「…」

ネストが珍しく怒った顔をした。何に怒ったんだろう、どうしよう。

「リア」

「なに?…っ!?」

いきなり触れるだけのキスをされた。初めてのことにどうしたらいいかわからなくなる。

「僕はずっと、リアのことを好きだった。婚約者だからじゃない。ひとりの女の子として愛してる。リア、返事を聞かせて」

「私…あの、えっと…ネストのこと、幼馴染兼婚約者とは思っているけど…大切だけど…それだけっていうか、それ以上には思えないっていうか…」

私がそう答えると呆然とするネスト。そんなネストから逃げ出すようにネストの部屋を出た。

が、次の日、私はネストに攫われた。なにかの薬品を嗅がされ、寮のネストの部屋に監禁された。手足を魔法で拘束されて逃げられないし、魔法で防音もバッチリなようだ。助けを呼んでも誰も来ない。

「ネスト、なんで、こんな…」

「分からず屋のリアにはお仕置きが必要だろう?」

「…ごめん、この間のことは謝るから」

「うん。許してあげる。けれど、解放はしてあげない。ああ、ちゃんとこの間のテストでリアは卒業に必要な単位をギリギリ取れてたし、ももちろん卒業には十分な単位を取っているからね。このまま卒業までずっと一緒にいられるよ。寮長にもお泊りの許可を得てるし、先生も単位を取った以上後は好きにしていいと言ってくれたよ?」

「そんな…」

「大丈夫。何も乱暴なことはしないよ。ただ、卒業するまでの間に、俺を好きになって貰いたいだけ。婚約しているとはいえ、他の男に靡かないとも限らないしね。リアの気持ちが完全に俺に向いたら、解放してあげる」

ああ、私、こんなにネストを傷つけてたんだ。

ー…

ずっと好きだった。いつからかはわからない。婚約者だと紹介された、初めて会ったあの日から愛していたのかもしれない。

俺の可愛いリア。リアはちょっと出来が悪い子だった。けれど、そこも可愛らしい。手取り足取り教えてあげれば、なんだかんだでちゃんと頑張る素直ないい子でもあった。

そんなリアは最近俺から逃げるようになって、他の男とつるむようになった。本当は男達を排除したいところだが、リアにバレると面倒なので行動に移せなかった。

だが、俺は昨日リアに振られた。俺はリアを自室に監禁した。どうせ単位は取ってある。後は形だけの寮生活さえ送っていればいいのだから、楽なものだ。どうせリアに好かれていないなら、最早何をしても構いはしないだろう。リアを誘惑した男達全員、二度とリアに近付けないように徹底的に潰す準備をした。

…大好きで大切な、愛するリア。どうかもう、こんな思いはさせないで。
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