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旅立ち編
004 一番弟子、王都に立つ
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「ここが王都……の城壁!」
デシルは目の前にそびえたつ巨大な壁を見上げる。
彼女は馬車の旅を終えついに王都にたどり着いた。
ここに目的地のオーキッド自由騎士学園はある。
「高いなぁ……。強化魔法なしでよじ登ったらいい修行になりそう」
王都自慢の城壁を初めて見てこんな感想を抱くのは彼女だけだろう。
普通の人はただこの大きさに圧倒されたり、こっちに倒れてきたらどうしよう……と想像するくらいだ。
「それにしても門には人がいっぱいだ!」
王都に入るためのチェックを受けている人で城門はごった返していた。
普段から人通りが多いのに、今はオーキッド学園の入学試験が数日後に控えているせいでさらに人が多い。
デシルはなんとなく並ぶのもおっくうで少し様子見をしていた。
ちなみにデシルはいま感知系の魔法を使っていない。
人の位置や持っている魔力、展開している魔法などを知ることができる感知魔法だが弱点もある。
自分よりも熟練の使い手にはバレるうえ、逆探知される可能性もあるのだ。
王都には自分以上の使い手がたくさんいるはずだから、やたら探っていると他の人の気分を害するかもしれない。
それにいつでも全力で警戒しなければならないほど人々は危険ではないと彼女は学んでいた。
普段から魔法を使ってない人もいるが、それでも世の中は信頼で回っている。
とりあえず、試験まで初めて訪れる王都をリラックスして楽しむ!
それがデシルの当面の目標だ。
とはいえ、流石に丸腰は怖いので防御魔法だけはいつも通り重ねがけしてある。
その数は実に五つ! 五重結界である。
不可視で頑丈だが薄く感知されにくい高度な魔法だがデシルには大して負担にならない。
この結界を常に展開して日常生活を送ってきたからだ。
結界の数は減るものの寝ている間も発動している。
「オーキッド自由騎士学園を受験するために王都に入りたい方はあちらにどうぞー! 通常の方とは別で対応してまーす! 受験票をご準備の上お並びくださーい!」
簡単な地図と赤い矢印、そして『ここ!!』と大きな文字が描かれた看板を掲げた女性がやってきた。
拡声魔法を使っているのでその声はどこにいてもよく聞こえる。
(おっ、ラッキー! 待っててよかった! 急いては事を仕損じるって師匠もよく言ってたなぁ)
デシルはてくてくと受験生用の受付に移動する。
そこにもすでに何人も並んでいて、通常の受付ほどではないものの長い列を作っていた。
(ここにいる人みんな私とおんなじオーキッドの受験生……つまりライバル!)
受験生は性別も体格もさまざまで、髪の色も違えば肌の色もそれぞれ違う。
その服装や持っている武器も多種多様だ。
大剣を背負って鎧を着こんでいる青年、ゆったりとしたローブと杖を持った若い女性、遊びに来たのかというくらいラフな格好の少年……。
ただ、共通していることがあるとすればみな目を輝かせているということだ。
オーキッド学園に入学するために毎日努力をし、自分に自信がある者が揃っているのだとデシルは思った。
(私だって努力では負けていないつもり! 胸を張って並ばないと!)
最後尾に並んで背筋をピンと伸ばすデシル。
列が前に進んだら一歩前進しまた背筋を伸ばす。
その姿に周囲の受験生はデシルがどこかの軍隊からやってきたのではないかと思った。
実際、条件を満たしていれば過去に軍に所属していようが学園には入れるのだ。
しかし、デシルが軍隊よりももっと恐ろしいところから送り込まれているとは、この時誰も思っていなかった。
(もうそろそろ私の番だ! えっと受験票は封筒にまとめてあったはず……)
リュックから受験に必要な書類がまとめられた封筒を取り出すデシル。
この書類はすべて師匠が用意したものでデシル自身内容は知らない。
ただ、この書類について尋ねられた時は書類に書いてあることがすべて正しいと思って答えろと言われている。
「次の方どうぞー!」
デシルの番がきた。
カチコチの歩き方でおそらく学園関係者と思われる女性の前まで歩いていく。
「そ、そんなに緊張しなくてもいいのよ。これから試験ってわけでもないからね」
「は、はい! これ受験票です!」
「はい確認させていただきますね」
女性職員はパラパラと書類をめくって目を通す。
その後、いくつかの確認作業を終え晴れてデシルは王都に入って良いことになった。
「王都は初めて?」
「はい、そうなんです」
「うふふ、そうよねぇ。まあ王都は比較的治安がいいけど、それでも地方から出てきた人を狙った詐欺とか窃盗、ぼったくりもあるからあまり人通りの少ない道は歩かない方がいいわ。店も最初のうちはガイドブックに載ってる有名店を選ぶのが無難よ」
「はい、ガイドブック持ってます!」
デシルが背中のリュックを示す。
「そのリュックいっぱい物が入るのね」
「はい、いっぱい入るようになってます! よくわかりましたね! やっぱり学園の人はすごいです!」
「ん……? そ、そう? 見たとおり言っただけなんだけど……。じゃあ、その自慢のリュックはちゃんと見張っておいてあげてね。そこらへんに置いとくと盗られちゃうから。では、改めて王都にようこそ! デシル・サンフラワーさん」
女性職員が右手を差し出す。
デシルは名前を呼んでもらえたことと握手を求められたことが、なんだか自分を認めてもらったようで嬉しくて勢いよくその手をとった。
「うっ!!」
握手をした途端、女性職員がふらついた。
デシルの怪力で手を潰されたわけではない。流石の彼女も握手に全力は出さない。
ただ、喜びが強い魔力のオーラとなって放たれ、一時的に女性の意識を乱したのだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うん、ちょっとふらっとしただけ。ふふっ、あなたの若い力に気おされちゃったかな?」
「す、すいません……オーラ出ちゃいました……」
何度か職員に頭を下げたのち、デシルは城門をくぐった。
この日、デルフィニウム王国の王都ミストラルに最強の一番弟子がやってきたのだ。
デシルは目の前にそびえたつ巨大な壁を見上げる。
彼女は馬車の旅を終えついに王都にたどり着いた。
ここに目的地のオーキッド自由騎士学園はある。
「高いなぁ……。強化魔法なしでよじ登ったらいい修行になりそう」
王都自慢の城壁を初めて見てこんな感想を抱くのは彼女だけだろう。
普通の人はただこの大きさに圧倒されたり、こっちに倒れてきたらどうしよう……と想像するくらいだ。
「それにしても門には人がいっぱいだ!」
王都に入るためのチェックを受けている人で城門はごった返していた。
普段から人通りが多いのに、今はオーキッド学園の入学試験が数日後に控えているせいでさらに人が多い。
デシルはなんとなく並ぶのもおっくうで少し様子見をしていた。
ちなみにデシルはいま感知系の魔法を使っていない。
人の位置や持っている魔力、展開している魔法などを知ることができる感知魔法だが弱点もある。
自分よりも熟練の使い手にはバレるうえ、逆探知される可能性もあるのだ。
王都には自分以上の使い手がたくさんいるはずだから、やたら探っていると他の人の気分を害するかもしれない。
それにいつでも全力で警戒しなければならないほど人々は危険ではないと彼女は学んでいた。
普段から魔法を使ってない人もいるが、それでも世の中は信頼で回っている。
とりあえず、試験まで初めて訪れる王都をリラックスして楽しむ!
それがデシルの当面の目標だ。
とはいえ、流石に丸腰は怖いので防御魔法だけはいつも通り重ねがけしてある。
その数は実に五つ! 五重結界である。
不可視で頑丈だが薄く感知されにくい高度な魔法だがデシルには大して負担にならない。
この結界を常に展開して日常生活を送ってきたからだ。
結界の数は減るものの寝ている間も発動している。
「オーキッド自由騎士学園を受験するために王都に入りたい方はあちらにどうぞー! 通常の方とは別で対応してまーす! 受験票をご準備の上お並びくださーい!」
簡単な地図と赤い矢印、そして『ここ!!』と大きな文字が描かれた看板を掲げた女性がやってきた。
拡声魔法を使っているのでその声はどこにいてもよく聞こえる。
(おっ、ラッキー! 待っててよかった! 急いては事を仕損じるって師匠もよく言ってたなぁ)
デシルはてくてくと受験生用の受付に移動する。
そこにもすでに何人も並んでいて、通常の受付ほどではないものの長い列を作っていた。
(ここにいる人みんな私とおんなじオーキッドの受験生……つまりライバル!)
受験生は性別も体格もさまざまで、髪の色も違えば肌の色もそれぞれ違う。
その服装や持っている武器も多種多様だ。
大剣を背負って鎧を着こんでいる青年、ゆったりとしたローブと杖を持った若い女性、遊びに来たのかというくらいラフな格好の少年……。
ただ、共通していることがあるとすればみな目を輝かせているということだ。
オーキッド学園に入学するために毎日努力をし、自分に自信がある者が揃っているのだとデシルは思った。
(私だって努力では負けていないつもり! 胸を張って並ばないと!)
最後尾に並んで背筋をピンと伸ばすデシル。
列が前に進んだら一歩前進しまた背筋を伸ばす。
その姿に周囲の受験生はデシルがどこかの軍隊からやってきたのではないかと思った。
実際、条件を満たしていれば過去に軍に所属していようが学園には入れるのだ。
しかし、デシルが軍隊よりももっと恐ろしいところから送り込まれているとは、この時誰も思っていなかった。
(もうそろそろ私の番だ! えっと受験票は封筒にまとめてあったはず……)
リュックから受験に必要な書類がまとめられた封筒を取り出すデシル。
この書類はすべて師匠が用意したものでデシル自身内容は知らない。
ただ、この書類について尋ねられた時は書類に書いてあることがすべて正しいと思って答えろと言われている。
「次の方どうぞー!」
デシルの番がきた。
カチコチの歩き方でおそらく学園関係者と思われる女性の前まで歩いていく。
「そ、そんなに緊張しなくてもいいのよ。これから試験ってわけでもないからね」
「は、はい! これ受験票です!」
「はい確認させていただきますね」
女性職員はパラパラと書類をめくって目を通す。
その後、いくつかの確認作業を終え晴れてデシルは王都に入って良いことになった。
「王都は初めて?」
「はい、そうなんです」
「うふふ、そうよねぇ。まあ王都は比較的治安がいいけど、それでも地方から出てきた人を狙った詐欺とか窃盗、ぼったくりもあるからあまり人通りの少ない道は歩かない方がいいわ。店も最初のうちはガイドブックに載ってる有名店を選ぶのが無難よ」
「はい、ガイドブック持ってます!」
デシルが背中のリュックを示す。
「そのリュックいっぱい物が入るのね」
「はい、いっぱい入るようになってます! よくわかりましたね! やっぱり学園の人はすごいです!」
「ん……? そ、そう? 見たとおり言っただけなんだけど……。じゃあ、その自慢のリュックはちゃんと見張っておいてあげてね。そこらへんに置いとくと盗られちゃうから。では、改めて王都にようこそ! デシル・サンフラワーさん」
女性職員が右手を差し出す。
デシルは名前を呼んでもらえたことと握手を求められたことが、なんだか自分を認めてもらったようで嬉しくて勢いよくその手をとった。
「うっ!!」
握手をした途端、女性職員がふらついた。
デシルの怪力で手を潰されたわけではない。流石の彼女も握手に全力は出さない。
ただ、喜びが強い魔力のオーラとなって放たれ、一時的に女性の意識を乱したのだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うん、ちょっとふらっとしただけ。ふふっ、あなたの若い力に気おされちゃったかな?」
「す、すいません……オーラ出ちゃいました……」
何度か職員に頭を下げたのち、デシルは城門をくぐった。
この日、デルフィニウム王国の王都ミストラルに最強の一番弟子がやってきたのだ。
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