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始まりの学園生活編
017 一番弟子、ちょっと本気を見せる
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胸を張ってデシルはルチルと対峙する。
すでに空気は張りつめ、これからただならぬことが起きるであろうということは誰でもわかった。
生徒たちは自主的に二人から距離をとる。
「やったれー! デシルちゃん!」
オーカもその雰囲気を感じ取っていたが、あえて声を出してデシルを応援する。
彼女なりの強がりだ。
「私自身が本気でお相手願いたいのだけど、一応これは授業でみんなにもゴーレムの相手をしてもらった。だから、今回もゴーレムと戦ってもらうよ。ただし……本気のね!」
ルチルは教鞭を振るった風圧で地面に魔法陣を描き、詠唱を開始する。
聞き取れないほど早く洗礼された詠唱はすぐに終わり、魔法陣を破壊するように走った地面の亀裂から十メートルはあろうかという巨大ゴーレムが姿を現した。
「ひぃーーーッッ!」
「流石Aランクのゴーレム……とんでもねぇ!」
「授業で出すもんじゃないわよ!」
「やっべ、詠唱早すぎて聞こえなかったわ」
他の生徒たちはもはや怖がっている。
オーカですら声が出ない。
この光景を事情を知らない他の教師に目撃されるとルチルはまた学園長室行きだろう。
それほどまでに本気だった。
「準備はいいかいデシルくん! ダメそうだったらいつでも言ってくれたまえ! そこまででストップする!」
「大丈夫です! 問題ありません!」
「これを見て問題ない……か。心底肝が冷えるよ」
ルチルは先手を切った。
巨体の割に素早い動きでゴーレムを前進させるとデシルに殴り掛かったのだ。
(体から風を噴射させて加速してるのね! 受け止めてもいいけど……ここはよける!)
デシルの姿がその場から消え、ゴーレムの側面を取った。
しかし、ルチルはギリギリその動きを捉えていた。
「大嵐の吐息!」
ゴーレムの顔だけをデシルに向け、口からオーカに使ったのとは比べ物にならない突風を浴びせる。
体重の軽いデシルは風に吹かれて空高くへと舞い上がった。
「もらった!」
ルチルは落下中にパンチを加えて勝ちにするつもりだ。
しかし、デシルもまた風に吹かれて空を舞いながら勝ち方を選んでいた。
(最初のパンチへのカウンターに雷の剣を使って一刀両断でも良かったけど、ルチルさんは本気だ。なら、こっちだって本気の技の一つを見せないと!)
技を決めたデシルは空中で姿勢を整え、真下で拳を構えるゴーレムを見下ろす。
そして、両手を天に掲げた。
雷が空へとほとばしり、どこからともなく雷雲を呼ぶ。
「空が……暗く……」
「て、天候操作だとでも言うの!?」
「雷こっちに落ちないよね?」
「ぴかぴかし過ぎであの子を見失った……」
生徒たちは自然とオーカの方に身を寄せる。
近くにいる一番頼れる人間は彼女だと無意識のうちに判断したのだ。
オーカもみんなを守るため慣れない結界を張りつつデシルを見つめる。
(直撃したらこの結界じゃ意味ないだろうなぁ……。でも、デシルちゃんが無差別攻撃なんてするはずないって!)
オーカの思う通り、デシルは身にまとった雷を放つ場所を絞り込んだ。
自然の雷が落ちるように真下のゴーレムへ!
「破壊の雷撃!!」
まばゆい光が空を走って大地に落下した。
轟音と共にゴーレムは雷に包まれ、その体は崩壊していく。
そして、数秒後には跡形もなく消え去っていた。
「手で触れずとも雷を使っての魔法分解も出来るということだね、デシルくん。ふふっ、怖いね……」
冷や汗を流すルチル。
あの雷をその身に受けていれば死んでいただろうと本能が叫ぶ。
暗雲が消えつつある空からゆっくりと降下してくる存在を正直に怖いと思った。
しかし、彼女は誰よりも先生でもあった。
最後には「どや?」と言わんばかりのやり切った表情で地上に降り立ったデシルを愛おしいと思う気持ちが勝った。
「デシルくん、完敗だよ。あのゴーレムでは相手にならなかったようだね」
「確かにあのゴーレムなら私は負けないと思います。でも、ルチル先生が本当に得意な魔法って……風魔法ですよね? あくまで地魔法はサポートで」
「その通りだよ。でも、さっきのゴーレムにも風魔法はかなり使わせたからやっぱり勝つ自信はない! それにしても魔法分解はお手の物のようだね。いったいどうやって使っているんだい?」
「うーん、どうやってと言いますと……イメージですね。電気って物を伝っていくじゃないですか? それって物の中を自由に駆け巡っているような感じがするんです。だから、魔法の中だって自由に駆けて行って、中から壊せる……みたいな。ごめんなさい、上手く言えなくて……」
「電気のイメージを分解と絡めているのか……。それって水でもよさそうだよね。染み込むイメージがあるし。それに炎も行けそうだ。熱は伝わる。風も風化とかでボロボロになるイメージが……」
「そうです。なんでもいいんです。正直こじつけを信じ込めれば魔法です。私が試験の時にやった分解からの吸収はご飯を食べるイメージです。相手の魔法を理解して噛み砕いて、自分の栄養になるように消化、つまり分解して自分の魔力にして吸収といった具合です」
デシルの説明を聞いてルチルは腕を組んで考え込む。
なんとなく言いたいことやその理論、理屈はわからんでもない。
しかし、そのイメージがどうやって魔法として現れるのかはまったくわからなかった。
ご飯を食べるイメージはわかるが、そもそも他人の魔法という料理の食べ方がわからないので口に運べないのだ。
「うむむ……言ってることはわかる気がするよ。でも、そもそもどうやったら魔法分解できるようになるのかわからない。きっかけがあればイメージを膨らませてマスターできそうだけど……」
「普通にやったらとてつもなく長い時間がかかります。イメージが簡単に現実になったらとんでもないことになりますから。それでも比較的てっとり早い習得方法は誰かに魔法を分解されまくったり、吸収されまくることです。嫌でも感覚を覚えちゃいます! 私も師匠に自慢の魔法をバラバラにされまくりましたから……」
「デシルくんにも師匠がいるのかい?」
「当然です! 私なんて一人では強くなれません! 私が強くなったのは大体師匠のおかげです! 私も少しは頑張ってますけど……」
「自由騎士として、そして教師としてぜひ会ってみたいよ! お名前はなんていうんだい!?」
「あっ……名前は言っちゃダメって言われてるんです……」
「そう……か、それは残念だ……。まあ、デシルくんの強さを見ればとんでもない人だってことはわかるさ。何か事情があるのだろう。これ以上デシルくんからは聞かないよ」
「わかってくださってありがとうございます」
「さて、授業に戻らないと……って、デシルくんで最後だったね」
デシルとルチルの周りにはOクラスの生徒たちが集まっていた。
みな、二人の話を聞いていたようで目をキラキラと輝かせている。
ここにいるのは能力差はあれど、みな更なる飛躍を求める向上心のある者たちばかりなのだ。
「魔法は実際に食らって体感してみるのが一番か……。実践あるのみだな」
「俺もあの雷を食らえば同じ魔法が撃てるようになるのか?」
「その前に死ぬわよ! 加減を知りなさい!」
「ねえ、デシルさん。今度私とも戦ってくれない? も、もちろん手加減してね?」
生徒たちはデシルの強さより深く知ると同時に、彼女の優しさや人当たりの良さも知った。
まだ恐ろしいと思うところはあるが、それでも信頼するに値する人物だと思ったのだ。
「デシルちゃん! 私も手合わせお願いね!」
「オーカさん! ええ、もちろんです!」
「うすうす気づいてたんだけどさ。あたしもまだまだ弱いんだよ。強い人と戦ってもっと学ばなきゃ! だから、ルチル……先生もこれから頼むよ! 改めて言うのも恥ずかしいけど!」
「うん! 私も生徒諸君のために全力を尽くすよ。それに一個人としてもまだまだ強くなる……!」
「じゃあ、みんなで強くなりましょう!」
「おー!!」
まだ入学二日目だが、一年Oクラスはひとまずの団結を見せた。
これからこのクラスがどうなっていくのかは誰にもわからない。本当に。
すでに空気は張りつめ、これからただならぬことが起きるであろうということは誰でもわかった。
生徒たちは自主的に二人から距離をとる。
「やったれー! デシルちゃん!」
オーカもその雰囲気を感じ取っていたが、あえて声を出してデシルを応援する。
彼女なりの強がりだ。
「私自身が本気でお相手願いたいのだけど、一応これは授業でみんなにもゴーレムの相手をしてもらった。だから、今回もゴーレムと戦ってもらうよ。ただし……本気のね!」
ルチルは教鞭を振るった風圧で地面に魔法陣を描き、詠唱を開始する。
聞き取れないほど早く洗礼された詠唱はすぐに終わり、魔法陣を破壊するように走った地面の亀裂から十メートルはあろうかという巨大ゴーレムが姿を現した。
「ひぃーーーッッ!」
「流石Aランクのゴーレム……とんでもねぇ!」
「授業で出すもんじゃないわよ!」
「やっべ、詠唱早すぎて聞こえなかったわ」
他の生徒たちはもはや怖がっている。
オーカですら声が出ない。
この光景を事情を知らない他の教師に目撃されるとルチルはまた学園長室行きだろう。
それほどまでに本気だった。
「準備はいいかいデシルくん! ダメそうだったらいつでも言ってくれたまえ! そこまででストップする!」
「大丈夫です! 問題ありません!」
「これを見て問題ない……か。心底肝が冷えるよ」
ルチルは先手を切った。
巨体の割に素早い動きでゴーレムを前進させるとデシルに殴り掛かったのだ。
(体から風を噴射させて加速してるのね! 受け止めてもいいけど……ここはよける!)
デシルの姿がその場から消え、ゴーレムの側面を取った。
しかし、ルチルはギリギリその動きを捉えていた。
「大嵐の吐息!」
ゴーレムの顔だけをデシルに向け、口からオーカに使ったのとは比べ物にならない突風を浴びせる。
体重の軽いデシルは風に吹かれて空高くへと舞い上がった。
「もらった!」
ルチルは落下中にパンチを加えて勝ちにするつもりだ。
しかし、デシルもまた風に吹かれて空を舞いながら勝ち方を選んでいた。
(最初のパンチへのカウンターに雷の剣を使って一刀両断でも良かったけど、ルチルさんは本気だ。なら、こっちだって本気の技の一つを見せないと!)
技を決めたデシルは空中で姿勢を整え、真下で拳を構えるゴーレムを見下ろす。
そして、両手を天に掲げた。
雷が空へとほとばしり、どこからともなく雷雲を呼ぶ。
「空が……暗く……」
「て、天候操作だとでも言うの!?」
「雷こっちに落ちないよね?」
「ぴかぴかし過ぎであの子を見失った……」
生徒たちは自然とオーカの方に身を寄せる。
近くにいる一番頼れる人間は彼女だと無意識のうちに判断したのだ。
オーカもみんなを守るため慣れない結界を張りつつデシルを見つめる。
(直撃したらこの結界じゃ意味ないだろうなぁ……。でも、デシルちゃんが無差別攻撃なんてするはずないって!)
オーカの思う通り、デシルは身にまとった雷を放つ場所を絞り込んだ。
自然の雷が落ちるように真下のゴーレムへ!
「破壊の雷撃!!」
まばゆい光が空を走って大地に落下した。
轟音と共にゴーレムは雷に包まれ、その体は崩壊していく。
そして、数秒後には跡形もなく消え去っていた。
「手で触れずとも雷を使っての魔法分解も出来るということだね、デシルくん。ふふっ、怖いね……」
冷や汗を流すルチル。
あの雷をその身に受けていれば死んでいただろうと本能が叫ぶ。
暗雲が消えつつある空からゆっくりと降下してくる存在を正直に怖いと思った。
しかし、彼女は誰よりも先生でもあった。
最後には「どや?」と言わんばかりのやり切った表情で地上に降り立ったデシルを愛おしいと思う気持ちが勝った。
「デシルくん、完敗だよ。あのゴーレムでは相手にならなかったようだね」
「確かにあのゴーレムなら私は負けないと思います。でも、ルチル先生が本当に得意な魔法って……風魔法ですよね? あくまで地魔法はサポートで」
「その通りだよ。でも、さっきのゴーレムにも風魔法はかなり使わせたからやっぱり勝つ自信はない! それにしても魔法分解はお手の物のようだね。いったいどうやって使っているんだい?」
「うーん、どうやってと言いますと……イメージですね。電気って物を伝っていくじゃないですか? それって物の中を自由に駆け巡っているような感じがするんです。だから、魔法の中だって自由に駆けて行って、中から壊せる……みたいな。ごめんなさい、上手く言えなくて……」
「電気のイメージを分解と絡めているのか……。それって水でもよさそうだよね。染み込むイメージがあるし。それに炎も行けそうだ。熱は伝わる。風も風化とかでボロボロになるイメージが……」
「そうです。なんでもいいんです。正直こじつけを信じ込めれば魔法です。私が試験の時にやった分解からの吸収はご飯を食べるイメージです。相手の魔法を理解して噛み砕いて、自分の栄養になるように消化、つまり分解して自分の魔力にして吸収といった具合です」
デシルの説明を聞いてルチルは腕を組んで考え込む。
なんとなく言いたいことやその理論、理屈はわからんでもない。
しかし、そのイメージがどうやって魔法として現れるのかはまったくわからなかった。
ご飯を食べるイメージはわかるが、そもそも他人の魔法という料理の食べ方がわからないので口に運べないのだ。
「うむむ……言ってることはわかる気がするよ。でも、そもそもどうやったら魔法分解できるようになるのかわからない。きっかけがあればイメージを膨らませてマスターできそうだけど……」
「普通にやったらとてつもなく長い時間がかかります。イメージが簡単に現実になったらとんでもないことになりますから。それでも比較的てっとり早い習得方法は誰かに魔法を分解されまくったり、吸収されまくることです。嫌でも感覚を覚えちゃいます! 私も師匠に自慢の魔法をバラバラにされまくりましたから……」
「デシルくんにも師匠がいるのかい?」
「当然です! 私なんて一人では強くなれません! 私が強くなったのは大体師匠のおかげです! 私も少しは頑張ってますけど……」
「自由騎士として、そして教師としてぜひ会ってみたいよ! お名前はなんていうんだい!?」
「あっ……名前は言っちゃダメって言われてるんです……」
「そう……か、それは残念だ……。まあ、デシルくんの強さを見ればとんでもない人だってことはわかるさ。何か事情があるのだろう。これ以上デシルくんからは聞かないよ」
「わかってくださってありがとうございます」
「さて、授業に戻らないと……って、デシルくんで最後だったね」
デシルとルチルの周りにはOクラスの生徒たちが集まっていた。
みな、二人の話を聞いていたようで目をキラキラと輝かせている。
ここにいるのは能力差はあれど、みな更なる飛躍を求める向上心のある者たちばかりなのだ。
「魔法は実際に食らって体感してみるのが一番か……。実践あるのみだな」
「俺もあの雷を食らえば同じ魔法が撃てるようになるのか?」
「その前に死ぬわよ! 加減を知りなさい!」
「ねえ、デシルさん。今度私とも戦ってくれない? も、もちろん手加減してね?」
生徒たちはデシルの強さより深く知ると同時に、彼女の優しさや人当たりの良さも知った。
まだ恐ろしいと思うところはあるが、それでも信頼するに値する人物だと思ったのだ。
「デシルちゃん! 私も手合わせお願いね!」
「オーカさん! ええ、もちろんです!」
「うすうす気づいてたんだけどさ。あたしもまだまだ弱いんだよ。強い人と戦ってもっと学ばなきゃ! だから、ルチル……先生もこれから頼むよ! 改めて言うのも恥ずかしいけど!」
「うん! 私も生徒諸君のために全力を尽くすよ。それに一個人としてもまだまだ強くなる……!」
「じゃあ、みんなで強くなりましょう!」
「おー!!」
まだ入学二日目だが、一年Oクラスはひとまずの団結を見せた。
これからこのクラスがどうなっていくのかは誰にもわからない。本当に。
応援ありがとうございます!
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