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2nd STAGE アイテムBOX争奪トライダンジョン

Data.46 動き出すプレイヤーたち

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 掲示板でイベント全体の状況を把握した私は、再びAUOの世界『フェアルード』に降り立った。
 場所はヴォルボーの村。
 もちろんベラと待ち合わせをしている。

「あっ、おーい! マココは~ん!」

 『火の村屋おんせん』の前で待っていると、ベラがこちらに向かって走ってきた。

「今日も時間ぴったし! よっ、流石トッププロ! あのお人!」

「別にそんな大層なものじゃないわよ……。ベラはいつからここに?」

「あたしも今来たばっかやで。少し武器防具屋を覗いてただけですわ」

「何かいいものあった?」

「そこそこでんな。中堅プレイヤー辺りなら十分使える性能がありそうやけど、あたしらには無用のものでしたわ」

 やっぱり店売り品よりドロップ品の方が性能が高いようね。
 まあ、ゲームのコンセプト的に誰でも買える物が一番強かったらダメだもんね。

「装備と言えば、あたしらの装備もずいぶん綺麗になりましたなぁ」

 そうそう、汗まみれだった私たちの装備の数々を『火の村屋おんせん』の若女将さんが洗ってくれた。
 冒険者を目指していただけあって、装備品の手入れもお手の物らしい。
 いろいろ良くしてもらったので、遠慮したけどお金を多めに渡しておいた。
 若女将さんは遠慮したけど、私たちはそれぐらいしか出来ないからね。

「しかも、新しい装備までもろたし、ありがたい話ですわ」

「ほんとそうね。受け取った『黒風石のマスク』の為にも、今日で『ヴォルヴォル大火山洞窟』をクリアするとしましょう」

「せやな。掲示板を見る限りあたしらもウワサになっとるようやし、人が増える前にトンずらしてまいたいなぁ。あのダンジョンが広いとはいえ、たくさんのプレイヤーがおるとより暑苦しくなりそうや」

 私たちはダンジョンへ移動しながら話すことにした。

「……今日のダンジョン、誰か待ち伏せしてると思う?」

「いくつかのパーティが火山に向かったって話は、ヴォルボー村の人に聞きましたわ。掲示板もログイン前に確認したんやけど、こっちは特に目立った情報は無し」

「どっちもどっちってとこね」

 ダンジョン内でないと『攻撃』は罪になるけど、待ち伏せは外でいい。
 ダンジョンの入り口の周辺に隠れて私たちが入った後、背後から襲うなども可能だ。
 つまりダンジョン内のカメラに不審な点がなくても油断してはいけない。

 それに、私たちの目でカメラを確認したわけじゃない。
 カメラの情報を掲示板に書き込む人間も、見てからログアウト、そして書き込みなので多少誤差がある。
 そして、その誤差のある情報を得てログイン、しばらく時間をかけてダンジョンに移動するワケだから、ぶっちゃけ今のダンジョン内部の状況は不明だ。

 カメラをゲーム内、そのうえ三つのダンジョンから離れた都市でしか見れないようにしたのは、後出しが正解にならないようにするためね。
 積極的なプレイを応援する創造神うんえいは割と嫌いじゃない。

「マココはん、入り口に着きましたわ。周りには……パッと見だれもいまへんけど……」

 ベラがきょろきょろと辺りを見渡す。
 火山のふもとというだけあって植物は生えていないけど、身を隠せそうな岩石は結構ある。
 ……すべての岩の裏を確認している暇はない。

「まっ、気にせず行きましょうか」

「それもそうやな。変に気にしてる方が隙が出来てまう。立ち塞がるなら倒す! 誰もおらへんかったら予定通り6Fから攻略しましょ」

「それでいいと思う」

 私たちは二度目の『ヴォルヴォル大火山洞窟』攻略に乗り出した……。
 と見せかけて、素早く振り返りまわりを確認する。フェイントだ。
 ……でも、やっぱり特に変わったところはない。
 山は変わらず頂上から白煙を吐き出し続け、空には大きな鳥が飛んでいる。

「……」

 今度こそ、私たちは二度目の『ヴォルヴォル大火山洞窟』攻略に乗り出した。



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 ◆現在地
 ヴォルヴォル大火山洞窟:地下1F

「ぐわああああああ!!」

 ダンジョンに乗り込んだ私たちの目に飛び込んできたのは、想像していたいくつかの状況のどれにも当てはまらない光景だった。
 すでにプレイヤー同士が戦っている!

「はいやー。えいっ」

 1対1ではない。
 複数のプレイヤーが入り混じる乱戦だ。

「マココはん……」

「いや、こちらに気付いてない。様子を見ましょう」

 私たちは武器を手に持ちながら待機。
 すると、戦闘の全貌が少しずつ理解できるようになってきた。
 乱戦のように見えて、実は二つのグループが戦っている。
 2対5……いや、4。今一人消えた。

「ほー!」

 その中で一際ひときわ目立つのが槍を使う少女だ。
 黒い髪にピンク色のメッシュが入っていて、両サイドに二つのお団子シニヨンを作っている。
 目の周りを赤で塗り、鋭い印象を与えつつも実際はタレ目なのでどこか気怠けだるそう。
 服装は道士服に似ているけど、太ももなど少し露出がある。
 上手く中華風でまとめていて気合いの入ったファッションだ。

 しかし、それよりも目立つのがその『槍』と『槍さばき』。
 槍と言えばまっすぐで硬いイメージがあるけど、彼女の槍の棒の部分はよく
 つまり、柔軟性がある。

 槍を振る時、そのしなりで生まれた弾力が鎧すらも破壊していく。
 槍で突く時、貫いた後に引き抜くのではなくさらに押し込み、その際生まれた弾力で体を切り裂き刃が外に出ていく。
 後は槍を地面に突き刺し、棒高跳びの要領で飛んだり跳ねたりとやりたい放題だ。

 体術と槍術そうじゅつが合わさったとしか言いようのない動き。
 もしや彼女も私やベラと同じ領域に……。

「うがぁ!」

 槍の彼女の味方のような動きをしている大男がうめいた。
 彼は鎧のたぐいは着けていない。
 しかし、その体は筋肉に包まれ頑丈そうで、大きな腕で殴れば一撃でプレイヤーをノックダウンできそう。
 ……なんだけど、何とも動きがとろい。

 相手にしているパーティのヒーラーっぽい杖使いを一人で追いまわしているのに、まるで攻撃が当たらないどころか反撃されて苦しんでいる。
 戦うことが嫌いなのか、苦手なのか。
 顔は強面こわもてだから、その意図は読み取れない。

「……マココはん、ぶっちゃけどっちも戦ったら何とかなりそうでっか?」

 ベラが耳元でささやく。

「一番強いのは槍使いの子ね。でも、なんとでもなると思う。他は奥の手を隠してる場合でもない限り余裕かな」

「どっちが勝つと思います?」

「二人組の方」

 私の言葉と同時に槍の子が大男のサポートに動く。
 正面で相手にしていた双剣使いのプレイヤーを攻撃で誘導し、大男の正面へ動かす。

「くそぉ……なんて奴だ! ……あっ」
「きゃ!」

 大男のパンチを避けようとしたヒーラーと槍の追撃から逃れようとした双剣使いがぶつかり、二人の動きが止まった。

「ふんっ!」

 そこへ遅れて大男のパンチが炸裂した。
 二人はそのまま吹っ飛びダンジョンの壁にめり込んだ。
 その際に発生した粉塵が収まるころには、二人は跡形もなく消えていた。
 とろいけど、その威力は見た目通りってワケね。

「はぁー。スリッパーあいかわらずとろすぎぃー。せめて回復役くらい一人でやっつけてよねぇー」

「ご、ごめん……」

「まぁ、あんたもガチの戦闘職ではないけどさ。わたしもだけどー」

 大男はしゅんとしているけど、槍の子は体力が有り余っていそうだ。

「にしてもターゲットおそいねぇー。リーダーはなにしてんのかなぁー」

 槍の子がちらりとこちらを向いた。
 その顔がみるみる真顔になる。

「あ、あれっ!? スリッパ―、あれターゲットのマココさんじゃない!?」

「え……。あ、ほんとだ」

「『ほんとだ』じゃないよ! ヴァイ……リーダーは何してるの!? もしかして、もうやられちゃった!?」

 槍の子は先ほどの気怠そうな話し方を完全に忘れている。
 さてはキャラ作ってたなぁ?

「おいおい、そんなわけないだろう? もうちょっと『リーダー』ってもんを信用してほしいもんだねぇ」

 背後から声がした!
 つまりダンジョンの入り口から誰か入ってきたのだ。

「おおっと! 背後から襲うなんてそんな恥知らずなことは致しません!」

 その男は私とベラの上を飛び越えると、二人組に合流した。

「も、もうリーダー何してたのぉー?」

「空飛んでたら気持ち良くなっちまった。もちろん、ターゲットが来たことには気づいてたよ」

「それで『信用して』なんてよく言えたもんね……」

「おっ、怒るなよアイリィ……。せっかく考えた気怠けだるげ不思議ちゃんキャラが台無しだ……」

「もう……遅いと……思う」

 三人のやり取りはコントのようだ。
 見てる分には面白いわね。

「マココはんにちょっかいだすアホなんて聖騎士団以外おるんかいなと思っとったけど、お前らもこの世界に来てたんか」

「ベラ、この人たち知ってるの?」

 私の問いにベラはポカンと口を開けて驚く。
 えっ、なにかマズイこと言った……?

「マココはんあの顔見てピンッときまへんか?」

「ちょっとちょっと、そんな人を指名手配犯みたいに……。しかし、本当にご存じない?」

 リーダーのツッコミが入る。
 ええ……知らないなぁ……。

「こいつらはグ……」

「ああああああああ!!! 待って待って! 自己紹介はこっちでさせてくれ! 今のご時世、流行りのゲームで俺たちを知らない人に出会うなんて二度とないかもしれない! ぜひさせてくれ! このとおりだ!」

 リーダーは頭を地面に擦り付けて土下座をする。
 今のご時世ってことは有名人なのかな?
 くっ……時代にもノリにもついていけてない……。

「……しゃーないなぁ。好きにやりや」

「ありがとう!」

 リーダーは礼を言った後、槍の子アイリィ大男スリッパーと何やら話しだした。
 悪巧わるだくみではないようだけど、心なしか二人組が不満そうな顔をしている。

「では……コホン」

 リーダーは咳払いをし、ピンの背筋を伸ばす。

「俺たちはぁ! 世界中の人々の好奇心を満たすためぇ! この世の不思議と戦うっ、エンターテイィィィメントッファミリーィ!! その名もぉ!!」

GrEedグリード SpUnkyスパンキー!!」
「ぐりーどすぱんきー」
「グリード……スパンキー……」

 叫びと共にポーズをとる三人組がそこにいた。
 リーダーは『決まったっ!』っといった表情をしているけど、コメントに困る……。
 で、結局彼らは何をしに来たのだろう。
 それを聞きだすのにも苦労しそうだなぁ……。
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