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023 指輪と契約書
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俺は婚約指輪と契約書を隠し持って、ベルティーナの部屋へ向かった。
扉をノックすると、マールが顔を出した。
「ヨハン様。ベルティーナ様はバルコニーでカモミールティーを召し上がりながら、お庭をご覧になってらっしゃいますよ。チャンスです!」
「チャンスって。――そうだ。シエラの課題が心配だな。見に行ってやってくれ」
「それは別館の使用人の仕事です」
「……」
「畏まりました。仰せのままに」
マールがその場を離れるのを見送って、俺はベルティーナの部屋に入りバルコニーへ直進した。
「ベルティーナ。失礼する」
「えっ? ヨハン。騎士団のお仕事はよろしいのですか?」
「ああ。父が迷惑をかけたな」
「いえ。マルセル様は本当に器の大きな御方です。アルドが真っ直ぐに育ったのは、マルセル様のお蔭だと確信しました」
ベルティーナは父へ多大な信頼を寄せているようだ。その父が今、階下で号泣しているなんて思いもよらないだろうな。
「そうだな。その……。先程の話の続きなのだが。父に」
「あっ。マルセル様の療養についてなのですが、痛みが引いてきたら、少しずつお体を動かした方がよいのですよね。腰を痛めてから、明日で三日目だと聞きました。ですから、明日の朝、一緒に庭をお散歩したいと思います」
「え? ああ。それなら俺も一緒に行こう」
「ヨハンは他にもお仕事が沢山あるのでしょう? マルセル様の事は私に任せてください。もっとマルセル様の事を知って、私は彼の支えになれればと思っております。それから、ヨハンの義母としても」
ベルティーナはいつも真面目で勤勉だ。
学生の頃も、花壇の世話を任された時、植物について調べ完璧に世話をしていた。
父についても、これからどんどん知識を付けて最善を尽くしてくれるのだろう。でも、それは妻としてではなく、義理の娘として、してもらはなくては。
「そんなに熱心だと、父に妬いてしまうな」
「きゅ、急にどうしたの? そういう言い方は好ましくありません。止めましょう?」
「止めない。さっき、ベルティーナが俺の事を だと言ってくれて……嬉しかった」
「へ?」
ベルティーナは飲みかけていた紅茶のカップを落としかけて慌てて両手で支え、耳を赤く染めて俺の方にゆっくりと視線を伸ばした。
「俺は、今も君の事が好きなんだ」
「……ぇっと。……ぁ、ありがとう……ごさいます」
何だその反応は。恥ずかしがっていて可愛い。
瞳を泳がせ動揺するベルティーナは、視線のやり場に困りながら口を開いた。
「でも、父はヨハンとの婚約は許してくれないと思います。それに、マルセル様と婚約を結んだのに、そんな不義理なことは出来なくて……。でも。でもね……すごく嬉しい」
ベルティーナは小さく首を横に振りながら、戸惑い赤く染まった顔を隠すように両手で覆い俯いてしまった。
俺は、先程ロジエ伯爵と交わした契約書を読み上げた。
「マルセル=アーノルトは、ベルティーナ=ロジエに対して、ヨハン=アーノルトとの婚姻の申し込みに関して次のとおり誓約する」
「えっ?」
冒頭部分がよく見えるように虫眼鏡を宛がいベルティーナへ契約書を見せた。ベルティーナは不思議そうに虫眼鏡越しに契約書をへと目を走らせた。
「君の父は、もう俺とベルティーナの婚約を認めているのだ。本人は契約書を読んだ。と言っていたのだから。それに、俺の父も全て知って協力してくれていた。俺とベルティーナの過去のわだかまりを心配して、ロジエ伯爵が帰った後も、少しだけ君の婚約者のフリをしていたんだ」
「それじゃあ。私は……」
俺は二年間閉じたままだっだ小箱を開きベルティーナへと差し出した。
「ああ。俺と結婚しよう。ベルティーナ」
扉をノックすると、マールが顔を出した。
「ヨハン様。ベルティーナ様はバルコニーでカモミールティーを召し上がりながら、お庭をご覧になってらっしゃいますよ。チャンスです!」
「チャンスって。――そうだ。シエラの課題が心配だな。見に行ってやってくれ」
「それは別館の使用人の仕事です」
「……」
「畏まりました。仰せのままに」
マールがその場を離れるのを見送って、俺はベルティーナの部屋に入りバルコニーへ直進した。
「ベルティーナ。失礼する」
「えっ? ヨハン。騎士団のお仕事はよろしいのですか?」
「ああ。父が迷惑をかけたな」
「いえ。マルセル様は本当に器の大きな御方です。アルドが真っ直ぐに育ったのは、マルセル様のお蔭だと確信しました」
ベルティーナは父へ多大な信頼を寄せているようだ。その父が今、階下で号泣しているなんて思いもよらないだろうな。
「そうだな。その……。先程の話の続きなのだが。父に」
「あっ。マルセル様の療養についてなのですが、痛みが引いてきたら、少しずつお体を動かした方がよいのですよね。腰を痛めてから、明日で三日目だと聞きました。ですから、明日の朝、一緒に庭をお散歩したいと思います」
「え? ああ。それなら俺も一緒に行こう」
「ヨハンは他にもお仕事が沢山あるのでしょう? マルセル様の事は私に任せてください。もっとマルセル様の事を知って、私は彼の支えになれればと思っております。それから、ヨハンの義母としても」
ベルティーナはいつも真面目で勤勉だ。
学生の頃も、花壇の世話を任された時、植物について調べ完璧に世話をしていた。
父についても、これからどんどん知識を付けて最善を尽くしてくれるのだろう。でも、それは妻としてではなく、義理の娘として、してもらはなくては。
「そんなに熱心だと、父に妬いてしまうな」
「きゅ、急にどうしたの? そういう言い方は好ましくありません。止めましょう?」
「止めない。さっき、ベルティーナが俺の事を だと言ってくれて……嬉しかった」
「へ?」
ベルティーナは飲みかけていた紅茶のカップを落としかけて慌てて両手で支え、耳を赤く染めて俺の方にゆっくりと視線を伸ばした。
「俺は、今も君の事が好きなんだ」
「……ぇっと。……ぁ、ありがとう……ごさいます」
何だその反応は。恥ずかしがっていて可愛い。
瞳を泳がせ動揺するベルティーナは、視線のやり場に困りながら口を開いた。
「でも、父はヨハンとの婚約は許してくれないと思います。それに、マルセル様と婚約を結んだのに、そんな不義理なことは出来なくて……。でも。でもね……すごく嬉しい」
ベルティーナは小さく首を横に振りながら、戸惑い赤く染まった顔を隠すように両手で覆い俯いてしまった。
俺は、先程ロジエ伯爵と交わした契約書を読み上げた。
「マルセル=アーノルトは、ベルティーナ=ロジエに対して、ヨハン=アーノルトとの婚姻の申し込みに関して次のとおり誓約する」
「えっ?」
冒頭部分がよく見えるように虫眼鏡を宛がいベルティーナへ契約書を見せた。ベルティーナは不思議そうに虫眼鏡越しに契約書をへと目を走らせた。
「君の父は、もう俺とベルティーナの婚約を認めているのだ。本人は契約書を読んだ。と言っていたのだから。それに、俺の父も全て知って協力してくれていた。俺とベルティーナの過去のわだかまりを心配して、ロジエ伯爵が帰った後も、少しだけ君の婚約者のフリをしていたんだ」
「それじゃあ。私は……」
俺は二年間閉じたままだっだ小箱を開きベルティーナへと差し出した。
「ああ。俺と結婚しよう。ベルティーナ」
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