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032 異議
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そろそろ教会で挙式が始まります。
私は何と、第三王子様とご一緒しています。
本来、新郎と新婦の参列席は別々なのですが、うまく行きました。
フィエラ様とは顔見知りなのでご挨拶すると、第三王子様はすぐに私がカーティア=ロジエだと気づいてくれました。
そしてつまづいてよろけた私に、手を貸してくださったのです。
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。私、昔から病弱で、すぐに転んじゃうんですぅ」
「へぇ。噂通りの子だね」
第三王子様はそう言って優しく微笑んでくださいました。
「あらっ。そろそろ礼拝堂へ移動しなきゃ。カーティア、そのまま第三王子様に付き添って頂いたら? 今日は主人もアルドもおりませんから、ふらついてしまった時、手を貸してくれる身内がいませんわ。第三王子様も、遠い親戚になられるのですし……」
お母様の提案に、第三王子様は優しい笑顔のまま頷き、私へ尋ねました。
「僕の手で宜しければ、お貸ししますよ。どうされますか?」
もうこれは、私に気があるとしか思えません。
今まで私の手を弾き返してきた愚息共にお礼を言わなくてはなりません。私はこの方に出逢う為に、婚約者が決まらなかったのです。
「ありがとうございます。ヘンリー王子様」
◇◇
そしてヘンリー様と礼拝堂へご一緒しています。
アーノルト辺境伯様が驚かれていますが無視です。
シエラの嫉妬に満ちた冷たい視線は、気分を高揚させました。
移動中、私はヘンリー様に、こっそりと尋ねました。
「私、子供の頃、病弱ですっごく苦しんで来たんです。ヘンリー様も同じだとお伺いしましたわ」
「ん? 君と僕が同じ?」
「はい。療養生活中は、皆が優しくしてくれましたけど、結局自分がしたいことは全部我慢ばかりで、退屈でしたでしょう?」
「退屈か……」
「ええ。何もしなくても、周りが全てやってくれましたもの」
ヘンリー様は不思議そうに目を丸くさせた後、にっこりと微笑みました。なんと可愛い笑顔なのでしょう。
「そうか。君の家族は、君を愛し甘やかしてきたのだね」
「はい! やっぱり、ヘンリー様は分かってくださいますのね。私、ヘンリー様のように私を理解して守ってくれるような方を探していたんです。私だけの王子様を!」
私は嬉しくてヘンリー様の腕に手を絡ませようとして――よろめいてしまいました。
さっきまですぐ近くにあった筈の彼の腕がありません。
避けられた……なんてことはない筈ですが。
ヘンリー様は私に先程と変わらぬ笑顔を向けていますが、何処か違和感を覚えました。
「……へぇ。今時、こんな馬鹿丸出しな人間がいるんだな」
「は……ぃ?」
聞き間違いでしょうか。笑顔のままヘンリー様から理解し難い言葉が発せられた気がします。
「俺、病弱だった過去の事を言われるのが、一番嫌いなんだよね」
「へ? でも……」
「病弱って事はさ。お前はゴミだって言われているのと一緒なんだよ。俺は城でずっとそういう扱いを受けてきた。だから、君がベッドの上で退屈だった時、ずっと本を読んでいたよ。ベッドの上で出来ることは、知識をつける事くらいしかなかったからね」
「……?」
「良かったね。君は身体が弱くても愛されて。でも、身体が弱い令嬢なんて、どこの家が欲しがると思う? 君の母親も、男児に恵まれなくて苦労したのだろう? 分からないかな。あっ、分からないから自慢してるのか。分からないから、姉に来た縁談でも喜んで行ってたんだもんな」
これは何の話でしたっけ。
お姉様の縁談は、父が勝手に私に回していただけで、私は悪くありません。それに、私はロジエ家で一番大切にされているのだから、それは当たり前なのです。
「……違います。ヘンリー様は何か勘違いされていますわ。お姉様は、健康で何も苦労してないの。だから、私が優先されて当たり前で……」
「へぇ。それもロジエ伯爵が、いらない君を先に婚約させようとしてただけだろ? 君だけじゃ売れ残るから。優先っていうか……。――あ。ヨハンだ。ヨハンは優秀な人材だと思ってたけど、こんな奴らと親族になるなんてな……。まぁ。それは俺もか」
「なっ……ぇ?」
それは俺もって何でしょうか。
お姉様とヨハン様が結婚するから、遠い親戚になるという意味でしょうか。
それとも、私と……?
「雑談終わり。もう話しかけないでくれよ。あ。声も聞きたくないから、黙ってろよ」
「…………」
ヘンリー様はゴミでも見るような瞳で私を睨み付けました。
何でここまで言われなくてはいけないのでしょうか。
私は優先されて当たり前なのです。
お姉様の何倍も病気で苦しんできたのですから。
お母様はいつも私を一番にしてくれるのに。
それなのに――。
お父様の言葉が分かりません。
ヘンリー様の言葉も分かりません。
頭の中で、二人に言われた言葉がぐるぐると復唱されます。
こんな言葉は欲しくないのに。
いつの間にか、お姉様がアルドと共に入場していました。
何故、あの場所に立つのが私ではないのでしょう。
どうして、私は不良品扱いされなきゃいけないのでしょう。
私だって――。
「このふたりの結婚に異議のある者は今すぐ申し出よ、さもなくば永遠に沈黙せよ」
神父の声が礼拝堂に響き、私は混沌とした胸の内を口にしていました。
「い、異議があります! 私は、こっ、こんな結婚、認めません!」
私は何と、第三王子様とご一緒しています。
本来、新郎と新婦の参列席は別々なのですが、うまく行きました。
フィエラ様とは顔見知りなのでご挨拶すると、第三王子様はすぐに私がカーティア=ロジエだと気づいてくれました。
そしてつまづいてよろけた私に、手を貸してくださったのです。
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。私、昔から病弱で、すぐに転んじゃうんですぅ」
「へぇ。噂通りの子だね」
第三王子様はそう言って優しく微笑んでくださいました。
「あらっ。そろそろ礼拝堂へ移動しなきゃ。カーティア、そのまま第三王子様に付き添って頂いたら? 今日は主人もアルドもおりませんから、ふらついてしまった時、手を貸してくれる身内がいませんわ。第三王子様も、遠い親戚になられるのですし……」
お母様の提案に、第三王子様は優しい笑顔のまま頷き、私へ尋ねました。
「僕の手で宜しければ、お貸ししますよ。どうされますか?」
もうこれは、私に気があるとしか思えません。
今まで私の手を弾き返してきた愚息共にお礼を言わなくてはなりません。私はこの方に出逢う為に、婚約者が決まらなかったのです。
「ありがとうございます。ヘンリー王子様」
◇◇
そしてヘンリー様と礼拝堂へご一緒しています。
アーノルト辺境伯様が驚かれていますが無視です。
シエラの嫉妬に満ちた冷たい視線は、気分を高揚させました。
移動中、私はヘンリー様に、こっそりと尋ねました。
「私、子供の頃、病弱ですっごく苦しんで来たんです。ヘンリー様も同じだとお伺いしましたわ」
「ん? 君と僕が同じ?」
「はい。療養生活中は、皆が優しくしてくれましたけど、結局自分がしたいことは全部我慢ばかりで、退屈でしたでしょう?」
「退屈か……」
「ええ。何もしなくても、周りが全てやってくれましたもの」
ヘンリー様は不思議そうに目を丸くさせた後、にっこりと微笑みました。なんと可愛い笑顔なのでしょう。
「そうか。君の家族は、君を愛し甘やかしてきたのだね」
「はい! やっぱり、ヘンリー様は分かってくださいますのね。私、ヘンリー様のように私を理解して守ってくれるような方を探していたんです。私だけの王子様を!」
私は嬉しくてヘンリー様の腕に手を絡ませようとして――よろめいてしまいました。
さっきまですぐ近くにあった筈の彼の腕がありません。
避けられた……なんてことはない筈ですが。
ヘンリー様は私に先程と変わらぬ笑顔を向けていますが、何処か違和感を覚えました。
「……へぇ。今時、こんな馬鹿丸出しな人間がいるんだな」
「は……ぃ?」
聞き間違いでしょうか。笑顔のままヘンリー様から理解し難い言葉が発せられた気がします。
「俺、病弱だった過去の事を言われるのが、一番嫌いなんだよね」
「へ? でも……」
「病弱って事はさ。お前はゴミだって言われているのと一緒なんだよ。俺は城でずっとそういう扱いを受けてきた。だから、君がベッドの上で退屈だった時、ずっと本を読んでいたよ。ベッドの上で出来ることは、知識をつける事くらいしかなかったからね」
「……?」
「良かったね。君は身体が弱くても愛されて。でも、身体が弱い令嬢なんて、どこの家が欲しがると思う? 君の母親も、男児に恵まれなくて苦労したのだろう? 分からないかな。あっ、分からないから自慢してるのか。分からないから、姉に来た縁談でも喜んで行ってたんだもんな」
これは何の話でしたっけ。
お姉様の縁談は、父が勝手に私に回していただけで、私は悪くありません。それに、私はロジエ家で一番大切にされているのだから、それは当たり前なのです。
「……違います。ヘンリー様は何か勘違いされていますわ。お姉様は、健康で何も苦労してないの。だから、私が優先されて当たり前で……」
「へぇ。それもロジエ伯爵が、いらない君を先に婚約させようとしてただけだろ? 君だけじゃ売れ残るから。優先っていうか……。――あ。ヨハンだ。ヨハンは優秀な人材だと思ってたけど、こんな奴らと親族になるなんてな……。まぁ。それは俺もか」
「なっ……ぇ?」
それは俺もって何でしょうか。
お姉様とヨハン様が結婚するから、遠い親戚になるという意味でしょうか。
それとも、私と……?
「雑談終わり。もう話しかけないでくれよ。あ。声も聞きたくないから、黙ってろよ」
「…………」
ヘンリー様はゴミでも見るような瞳で私を睨み付けました。
何でここまで言われなくてはいけないのでしょうか。
私は優先されて当たり前なのです。
お姉様の何倍も病気で苦しんできたのですから。
お母様はいつも私を一番にしてくれるのに。
それなのに――。
お父様の言葉が分かりません。
ヘンリー様の言葉も分かりません。
頭の中で、二人に言われた言葉がぐるぐると復唱されます。
こんな言葉は欲しくないのに。
いつの間にか、お姉様がアルドと共に入場していました。
何故、あの場所に立つのが私ではないのでしょう。
どうして、私は不良品扱いされなきゃいけないのでしょう。
私だって――。
「このふたりの結婚に異議のある者は今すぐ申し出よ、さもなくば永遠に沈黙せよ」
神父の声が礼拝堂に響き、私は混沌とした胸の内を口にしていました。
「い、異議があります! 私は、こっ、こんな結婚、認めません!」
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