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番外編
リーゼロッテの誕生会 5
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あまり顔馴染みのない男性方に囲まれて困っていたら、リオン様が迎えに来てくれた。
折角いただいた素敵なドレス。
一曲だけでも踊らないと勿体無い。
そう思っていたのだけれど、リオン様はダンスが苦手だったみたい。
研究ばかりでパーティーには参加したことがないと聞いていたけれど、緊張も合間ってかダンスはとてもぎこちなくて、凄く可愛いかった。
何とか一曲踊り終えると、リオン様は私の耳元で囁いた。
「次回は、予習しておきます」
「ふふっ。そろそろ抜けましょうか?」
「はい」
◇◇
それからリオン様に手を引かれ、リーゼロッテの茶会の庭へと訪れた。池の横に置かれたベンチに腰掛けると、会場の喧騒から解放された安心感からか、ため息が漏れた。
「どうしてここに?」
「あ。夜会を抜け出す時は、よくこちらにいかれると聞きましたので」
「そうだけれど、今日は違うのよ。リーゼロッテが主役だから、後で落ち合うことは出来ないもの。毎年、少しだけ参加して屋敷へと帰ってしまうの」
「そうだったのですね。おかしいな。リーゼロッテ様は、パーティーから抜け出したら、この庭へ行きなさいって仰っていたのですが」
リオン様は庭を見渡して首をかしげた。
庭には誰もいない。見張りは門の外にしかいない。
「あっ。分かったわ。きっと、私とリオン様が二人きりになれるように言ってくれたのだわ。いつもならライナーがいるけれど、今は二人きり……だもの」
言いながら段々恥ずかしくなってきた。
リオン様はもう一度辺りを見回して、池の方へ視線を落とすと、あ。と声を漏らした。
そのつぎの瞬間、池の水がほんのりと青く光った。
そして光りは白、そして黄色、緑へと変化していく。
「綺麗……。あら? アヒルさん。夜もいるのね。あそこで寝ているのかしら?」
「えっ……。あ、あの」
「?」
青い光りに照らされたアヒルさんと私を交互に見やり、何か言いかけた後、困ったように微笑んだ。
「あれは……。可愛いアヒル、ですね」
「そうね。いつも可愛いの」
アヒルは寝る時、片目だけ閉じるらしい。
右目は開いているけれど、左目はよく見えない。
起きているのか考えていたら、リオン様はアヒルを見ながら呟いた。
「可愛いのはエミリア様ですよ」
「へっ?」
「あの。今日は護衛として隣にいたつもりではありましたが、……二人きりの時は婚約者でいいですよね?」
「も、勿論です」
「だったら、エミリアさまに触れてもいいですか?」
そう言ってリオン様は私の右手に左手を重ねて、もう片方の手で私の頬にそっと触れた。
リオン様の指先は少しだけ冷たい。
多分、私の頬が熱くなりすぎているのだと思う。
翠色の大きな瞳は、じっと私の瞳を見つめていて、私はその熱で蕩けて吸い込まれそうになる。そしてその視線は、彼の親指でなぞられた唇へと落ちていき、ゆっくりとリオン様の顔が私へと近づいた。
「エミリア様……」
名前を呼ばれて瞳を閉じると、私の唇にリオン様のそれが重なった。
指先と違って、それは柔らかくて温かくて、微かにワインの味がした。
でもそれはほんの一瞬で、リオン様はゆっくり顔を離すと鼻先が触れ合う程の距離で、潤んだ瞳を私に向けていた。
「あ……許可もなく。その……」
「ふふっ」
私が微笑み返すと、リオン様は安心したように笑みを溢し、見つめられるのが恥ずかしいのか、真っ赤な顔を隠すように私を抱きしめた。
「そろそろお別れだと思いまして」
「はい」
「別れ際のキスを……しました」
「はい」
「嫌では……」
「嬉しかったです。とても」
「……っ。ライナーさんが迎えにみえる直前まで、こうしていてもいいですか?」
「はい」
それからすぐにライナーが庭へと現れた。
リオン様は本当にギリギリまで私を抱きしめてくれていて、ライナーは私の顔を見るなり、迎えに来たことを謝っていた。
平静を装おうと勢いよく立ち上がって見せたけれど、どうしてか足に力が入らなくてよろけてしまって、リオン様が支えてくれなければアヒルさんとぶつかってしまうところだった。
「アヒルさん。驚かせてしまってごめんなさい。あら?」
黄色い光りに照らされながら、アヒルさんは両目を開いてこちらを見ていた。こんなに近くにいても、驚くこともなく。
私はアヒルさんの目の前で手を振ってみた。
起きているはずなのに反応がない。
「あの。エミリア様。そのアヒル、剥製ですよ」
「へ? 嘘っ。私、毎日挨拶していたのに……」
「ええっ。私もですっ!?」
ライナーと私が顔を見合って困惑していると、その隣でリオン様は口元を押さえてずっと笑っていた。
折角いただいた素敵なドレス。
一曲だけでも踊らないと勿体無い。
そう思っていたのだけれど、リオン様はダンスが苦手だったみたい。
研究ばかりでパーティーには参加したことがないと聞いていたけれど、緊張も合間ってかダンスはとてもぎこちなくて、凄く可愛いかった。
何とか一曲踊り終えると、リオン様は私の耳元で囁いた。
「次回は、予習しておきます」
「ふふっ。そろそろ抜けましょうか?」
「はい」
◇◇
それからリオン様に手を引かれ、リーゼロッテの茶会の庭へと訪れた。池の横に置かれたベンチに腰掛けると、会場の喧騒から解放された安心感からか、ため息が漏れた。
「どうしてここに?」
「あ。夜会を抜け出す時は、よくこちらにいかれると聞きましたので」
「そうだけれど、今日は違うのよ。リーゼロッテが主役だから、後で落ち合うことは出来ないもの。毎年、少しだけ参加して屋敷へと帰ってしまうの」
「そうだったのですね。おかしいな。リーゼロッテ様は、パーティーから抜け出したら、この庭へ行きなさいって仰っていたのですが」
リオン様は庭を見渡して首をかしげた。
庭には誰もいない。見張りは門の外にしかいない。
「あっ。分かったわ。きっと、私とリオン様が二人きりになれるように言ってくれたのだわ。いつもならライナーがいるけれど、今は二人きり……だもの」
言いながら段々恥ずかしくなってきた。
リオン様はもう一度辺りを見回して、池の方へ視線を落とすと、あ。と声を漏らした。
そのつぎの瞬間、池の水がほんのりと青く光った。
そして光りは白、そして黄色、緑へと変化していく。
「綺麗……。あら? アヒルさん。夜もいるのね。あそこで寝ているのかしら?」
「えっ……。あ、あの」
「?」
青い光りに照らされたアヒルさんと私を交互に見やり、何か言いかけた後、困ったように微笑んだ。
「あれは……。可愛いアヒル、ですね」
「そうね。いつも可愛いの」
アヒルは寝る時、片目だけ閉じるらしい。
右目は開いているけれど、左目はよく見えない。
起きているのか考えていたら、リオン様はアヒルを見ながら呟いた。
「可愛いのはエミリア様ですよ」
「へっ?」
「あの。今日は護衛として隣にいたつもりではありましたが、……二人きりの時は婚約者でいいですよね?」
「も、勿論です」
「だったら、エミリアさまに触れてもいいですか?」
そう言ってリオン様は私の右手に左手を重ねて、もう片方の手で私の頬にそっと触れた。
リオン様の指先は少しだけ冷たい。
多分、私の頬が熱くなりすぎているのだと思う。
翠色の大きな瞳は、じっと私の瞳を見つめていて、私はその熱で蕩けて吸い込まれそうになる。そしてその視線は、彼の親指でなぞられた唇へと落ちていき、ゆっくりとリオン様の顔が私へと近づいた。
「エミリア様……」
名前を呼ばれて瞳を閉じると、私の唇にリオン様のそれが重なった。
指先と違って、それは柔らかくて温かくて、微かにワインの味がした。
でもそれはほんの一瞬で、リオン様はゆっくり顔を離すと鼻先が触れ合う程の距離で、潤んだ瞳を私に向けていた。
「あ……許可もなく。その……」
「ふふっ」
私が微笑み返すと、リオン様は安心したように笑みを溢し、見つめられるのが恥ずかしいのか、真っ赤な顔を隠すように私を抱きしめた。
「そろそろお別れだと思いまして」
「はい」
「別れ際のキスを……しました」
「はい」
「嫌では……」
「嬉しかったです。とても」
「……っ。ライナーさんが迎えにみえる直前まで、こうしていてもいいですか?」
「はい」
それからすぐにライナーが庭へと現れた。
リオン様は本当にギリギリまで私を抱きしめてくれていて、ライナーは私の顔を見るなり、迎えに来たことを謝っていた。
平静を装おうと勢いよく立ち上がって見せたけれど、どうしてか足に力が入らなくてよろけてしまって、リオン様が支えてくれなければアヒルさんとぶつかってしまうところだった。
「アヒルさん。驚かせてしまってごめんなさい。あら?」
黄色い光りに照らされながら、アヒルさんは両目を開いてこちらを見ていた。こんなに近くにいても、驚くこともなく。
私はアヒルさんの目の前で手を振ってみた。
起きているはずなのに反応がない。
「あの。エミリア様。そのアヒル、剥製ですよ」
「へ? 嘘っ。私、毎日挨拶していたのに……」
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