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ふたりの王子様
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「おー! 大外刈!」
「すごい……」
それを見た鈴夏は、あまりに豪快な柔道技を目の前で見て感動すらした。自分自身に被害を与えた中年男性を、華麗に成敗する。そのスカッとした快感が、鈴夏の脳裏に焼き付いた。
投げられた中年男性は怒りに達し、大きいお兄さんに喧嘩を売っている。
「いっでぇな兄ちゃん! なんなんだよ!」
「さっき女性にぶつかったろ」
「知らねーよ、たまたまだろ!」
そこにチャラいお兄さんが、ジーンズのポケットに手を入れたまま割り込んでいく。
「あっすいませーん。さっきぶつかった女性、派手に転んで怪我したかもしれないんですよー」
「知らねーつってんだろーが!」
「それって暴行罪だし、女性が被害届出したらあなた逮捕されちゃうんですねー」
「はぁ!?」
それを聞いた瞬間、中年男性の顔がみるみる引き攣っていく。顔の血の気が徐々に引いていく中、チャラいお兄さんはスマホを操作しながらさらに追い打ちをかけた。
「あと、ぶつかった証拠、スマホで撮ってるんで。最近ぶつかり被害多くて、警察も一緒に捜索してたんで」
すると大きいお兄さんも、「今後しないと誓うなら警察には突き出しませんよ」と言う。
「け……警察には言わないでくれ」
さっきまでの威勢はどこにいったのか、中年男性は急にしゅんと落ち込んだ。見ようによっては泣きそうな子どもである。さらに話を聞くと、中年男性は普段の仕事のストレスを女性にぶつかることで解消する術を覚え、それをここ2週間ほどするようになったそうだ。
「じゃあもう二度としないようにね」
とチャラいお兄さんが告げ、今回は初犯だからと見逃すことになった。どうやら中年男性も、ぶつかったくらいで警察に突き出されるとは思ってなかったようだ。鈴夏からしたらぶつかった衝撃で怪我してしまう可能性もあった。勝手に見知らぬ男性のサンドバッグにされ、腹立たしかったが、次こそは容赦しないと決めて中年男性の顔と全身を記憶に刻みつけた。
「あの、お二人共ありがとうございました」
中年男性が逃げるように去った後、お兄さんふたりに向き合ってお礼を言うと、チャラいお兄さんの方が笑顔で対応してくれる。
「いーのいーの、お姉さんも無事で良かったじゃん」
「いえ、助かりました。あんなぶつかり被害が多かったって知らなくて」
「まーねー、被害多くならないと声出せなかったりするもんねー」
「もう本当に、何とお礼を言ったらいいか……」
「あーそういうのいいからいいから! お礼とかよりも、ボクらが働いてるパン屋来てくれると嬉しいな!」
「パン屋?」
「あのね、『小春ベーカリー』っていう、すぐそこまっすぐ行ってちょっと曲がった細い路地のとこにあるパン屋ね」
いつも駅から会社方面にしか歩かないから気づかなかったが、その反対方面の道に小春ベーカリーがあるそうだ。数日前にぶつかり被害でパンを落として食べられなくなり、買い直したお客さんがいたことで被害を警察に報告。そこで働いているふたりのお兄さんも、念の為就業時間後に見回っていたそうだ。
こんなサービス残業もやってくれるなんて親切だなぁと思っていると、鈴夏は大きいお兄さんの左手の甲に擦り傷があることに気づいた。
「あの、手、怪我してませんか?」
「いや、大丈夫っす」
「大丈夫じゃないでしょう? ばい菌入るし、患部洗ったらこれ使ってください」
鈴夏はカバンの中から救急用のポーチを取り出し、そこに入れていたスクエア型の絆創膏を差し出した。この大きい方のお兄さんは、ちょっとシャイなのかあまり表情が変わらない。でも視線はまっすぐで、目を合わせたら全くブレない。その視線の強さが印象的だった。
「あざっす」と大きいお兄さんが言う。そして、そこから解散となり、鈴夏は家路へと急いだ。
「すごい……」
それを見た鈴夏は、あまりに豪快な柔道技を目の前で見て感動すらした。自分自身に被害を与えた中年男性を、華麗に成敗する。そのスカッとした快感が、鈴夏の脳裏に焼き付いた。
投げられた中年男性は怒りに達し、大きいお兄さんに喧嘩を売っている。
「いっでぇな兄ちゃん! なんなんだよ!」
「さっき女性にぶつかったろ」
「知らねーよ、たまたまだろ!」
そこにチャラいお兄さんが、ジーンズのポケットに手を入れたまま割り込んでいく。
「あっすいませーん。さっきぶつかった女性、派手に転んで怪我したかもしれないんですよー」
「知らねーつってんだろーが!」
「それって暴行罪だし、女性が被害届出したらあなた逮捕されちゃうんですねー」
「はぁ!?」
それを聞いた瞬間、中年男性の顔がみるみる引き攣っていく。顔の血の気が徐々に引いていく中、チャラいお兄さんはスマホを操作しながらさらに追い打ちをかけた。
「あと、ぶつかった証拠、スマホで撮ってるんで。最近ぶつかり被害多くて、警察も一緒に捜索してたんで」
すると大きいお兄さんも、「今後しないと誓うなら警察には突き出しませんよ」と言う。
「け……警察には言わないでくれ」
さっきまでの威勢はどこにいったのか、中年男性は急にしゅんと落ち込んだ。見ようによっては泣きそうな子どもである。さらに話を聞くと、中年男性は普段の仕事のストレスを女性にぶつかることで解消する術を覚え、それをここ2週間ほどするようになったそうだ。
「じゃあもう二度としないようにね」
とチャラいお兄さんが告げ、今回は初犯だからと見逃すことになった。どうやら中年男性も、ぶつかったくらいで警察に突き出されるとは思ってなかったようだ。鈴夏からしたらぶつかった衝撃で怪我してしまう可能性もあった。勝手に見知らぬ男性のサンドバッグにされ、腹立たしかったが、次こそは容赦しないと決めて中年男性の顔と全身を記憶に刻みつけた。
「あの、お二人共ありがとうございました」
中年男性が逃げるように去った後、お兄さんふたりに向き合ってお礼を言うと、チャラいお兄さんの方が笑顔で対応してくれる。
「いーのいーの、お姉さんも無事で良かったじゃん」
「いえ、助かりました。あんなぶつかり被害が多かったって知らなくて」
「まーねー、被害多くならないと声出せなかったりするもんねー」
「もう本当に、何とお礼を言ったらいいか……」
「あーそういうのいいからいいから! お礼とかよりも、ボクらが働いてるパン屋来てくれると嬉しいな!」
「パン屋?」
「あのね、『小春ベーカリー』っていう、すぐそこまっすぐ行ってちょっと曲がった細い路地のとこにあるパン屋ね」
いつも駅から会社方面にしか歩かないから気づかなかったが、その反対方面の道に小春ベーカリーがあるそうだ。数日前にぶつかり被害でパンを落として食べられなくなり、買い直したお客さんがいたことで被害を警察に報告。そこで働いているふたりのお兄さんも、念の為就業時間後に見回っていたそうだ。
こんなサービス残業もやってくれるなんて親切だなぁと思っていると、鈴夏は大きいお兄さんの左手の甲に擦り傷があることに気づいた。
「あの、手、怪我してませんか?」
「いや、大丈夫っす」
「大丈夫じゃないでしょう? ばい菌入るし、患部洗ったらこれ使ってください」
鈴夏はカバンの中から救急用のポーチを取り出し、そこに入れていたスクエア型の絆創膏を差し出した。この大きい方のお兄さんは、ちょっとシャイなのかあまり表情が変わらない。でも視線はまっすぐで、目を合わせたら全くブレない。その視線の強さが印象的だった。
「あざっす」と大きいお兄さんが言う。そして、そこから解散となり、鈴夏は家路へと急いだ。
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