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こんなはずじゃなかった
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「サラ! ねぇ、どうしよう!」
鈴夏が更紗にスマホの画面を魅せると、更紗はニヤリと口角を上げた。
「ほほぉ~ん、じゃあ明日着る服今から選ぼうか」
慌てて鈴夏が更紗の部屋へ向かうと、ルームウェアに着替えてパソコンで動画を見ている最中だった。でもそれはすぐ中断、更紗が持っている服の中から、明日鈴夏が着ていく服を選定する作業が始まった。
更紗はフリーランスで働いているため、着る服の制約が無く、可愛いデート向きの服はたくさん持っている。それに対して鈴夏は、通勤用の少しかっちりしたオフィスカジュアル系の服ばかりだ。だから、時と場合に応じてお互いの服を借り合っている。
「相手が年下なら、甘めの方がいい?」
「いやぁ~、大人っぽく攻めたほうがいいでしょ~」
服選びの作戦会議は1時間にも及び、気がつけば陽が落ちて部屋の明かりが必要な時刻になっていた。
明日はふたりで軽食を取るだけだ。だから靴はヒールが多少あっても良い。座ったときに裾が地面につかないように、ミモレ丈スカートに決まった。そしてノースリーブニットにカーディガン。バッグは最低限の大きさで、かっちりしたスクエア型ショルダー。あれだけいろいろと更紗と話し合ったのに、結局ファッション雑誌のお手本の様なコンサバコーディネートになった。
スキンケアもいつもより念入りにした。面倒くさがりな鈴夏はいつもオールインワンジェルで済ませるが、ちょっと高いブランド化粧水と乳液を更紗に借りた。女子と住んでいると、こういうとき便利である。
そしてあとはたっぷり寝るだけだ。ドキドキして寝付くのに苦労したが、買い物で歩き回って疲れた体は正直で、考えている間に意識が落ちていった。
待ち合わせは15時。龍大はこの日小春ベーカリーに出勤しているため、勤務後のこの時間になった。小春ベーカリーとマツノブコンストラクションの最寄り駅から3つ目の、白泉駅で待ち合わせする。白泉駅は大きなショッピングモールが併設されている駅だから、鈴夏はあえて早めに行って時間を潰した。
待ち合わせの時間になって約束の場所へ行くと、わかりやすく身長の高いお兄さんが柱に凭れていた。ぶつかりおじさんに遭遇したときは確かラフなトレーナー姿だったが、今日は落ち感のあるグレーのシャツをデニムパンツにインしたコーディネートで立っている。腕まくりをしており、筋肉質で太い手首に大きくてゴツゴツとした腕時計が見えていた。しかもシャツをパンツインしているせいか、長い脚が強調され、モデルのようなスタイルだ。髪も前会ったときはスタイリングをしていないサラサラとした感じだったけど、今日はウエットなスタイリングをしていて色っぽい。以前目にした大きいお兄さんと全然違っていて、あの人の横を歩くのかと思うと、途端に緊張してしまう。
「お待たせしました」
せっかくのデートだし、話しかけるときくらいはちゃんと笑顔でいようと思って、表情を意識的に柔らかくして声を掛けると「うぃす」と龍大が短く答えた。横に並ぶと、龍大の肩の部分に鈴夏の頭のてっぺんがようやく到達する。龍大は手に持っていたスマホをサコッシュに収め、背中へとまわした。
「昨日言ってたカフェ行きますか」
「はい」
「すいません、ちょっと緊張してます」
「いえ、私もです」
歩いている最中、龍大は鈴夏の少し先を歩いて先導しつつも、チラチラと後ろを見て歩幅を合わせてくれる。緊張しているのはすぐわかった。龍大の表情は少しも変わらない。鈴夏自身も、何を話そうか戸惑ってしまう。
カフェは白泉駅の西口を出て3分くらいのところ、ビルの2階にあった。席の数は少ないが、広々としていて、インテリアもレトロでおしゃれな店内。壁側のソファと椅子の席に案内され、龍大は「どうぞ」と鈴夏をソファに座らせてくれた。
「俺昼飯食ってないんですけど、ガッツリめに食っていいっすか?」
「そうなんですか?」
「仕事終わりなんで」
「どうぞどうぞ。私はパンケーキセットにするので」
――今日は軽食食べに来たくらいだから、ここまで緊張することないのに……
そう思いつつ、目の前に座っている龍大のいつもとは違う雰囲気に、鈴夏の胸はドキドキと高鳴っていた。よく見ると手首から腕にかけて血管が浮き出ていて、それでいて肌は見るからに肌理が整っている。爪も短く清潔で、骨太な指は長く、メニュー表を持っているだけの男らしい手つきに見惚れてしまう。
鈴夏自身、デートするのが数年ぶりだ。その久しぶりの感覚も、緊張を促した。
鈴夏が更紗にスマホの画面を魅せると、更紗はニヤリと口角を上げた。
「ほほぉ~ん、じゃあ明日着る服今から選ぼうか」
慌てて鈴夏が更紗の部屋へ向かうと、ルームウェアに着替えてパソコンで動画を見ている最中だった。でもそれはすぐ中断、更紗が持っている服の中から、明日鈴夏が着ていく服を選定する作業が始まった。
更紗はフリーランスで働いているため、着る服の制約が無く、可愛いデート向きの服はたくさん持っている。それに対して鈴夏は、通勤用の少しかっちりしたオフィスカジュアル系の服ばかりだ。だから、時と場合に応じてお互いの服を借り合っている。
「相手が年下なら、甘めの方がいい?」
「いやぁ~、大人っぽく攻めたほうがいいでしょ~」
服選びの作戦会議は1時間にも及び、気がつけば陽が落ちて部屋の明かりが必要な時刻になっていた。
明日はふたりで軽食を取るだけだ。だから靴はヒールが多少あっても良い。座ったときに裾が地面につかないように、ミモレ丈スカートに決まった。そしてノースリーブニットにカーディガン。バッグは最低限の大きさで、かっちりしたスクエア型ショルダー。あれだけいろいろと更紗と話し合ったのに、結局ファッション雑誌のお手本の様なコンサバコーディネートになった。
スキンケアもいつもより念入りにした。面倒くさがりな鈴夏はいつもオールインワンジェルで済ませるが、ちょっと高いブランド化粧水と乳液を更紗に借りた。女子と住んでいると、こういうとき便利である。
そしてあとはたっぷり寝るだけだ。ドキドキして寝付くのに苦労したが、買い物で歩き回って疲れた体は正直で、考えている間に意識が落ちていった。
待ち合わせは15時。龍大はこの日小春ベーカリーに出勤しているため、勤務後のこの時間になった。小春ベーカリーとマツノブコンストラクションの最寄り駅から3つ目の、白泉駅で待ち合わせする。白泉駅は大きなショッピングモールが併設されている駅だから、鈴夏はあえて早めに行って時間を潰した。
待ち合わせの時間になって約束の場所へ行くと、わかりやすく身長の高いお兄さんが柱に凭れていた。ぶつかりおじさんに遭遇したときは確かラフなトレーナー姿だったが、今日は落ち感のあるグレーのシャツをデニムパンツにインしたコーディネートで立っている。腕まくりをしており、筋肉質で太い手首に大きくてゴツゴツとした腕時計が見えていた。しかもシャツをパンツインしているせいか、長い脚が強調され、モデルのようなスタイルだ。髪も前会ったときはスタイリングをしていないサラサラとした感じだったけど、今日はウエットなスタイリングをしていて色っぽい。以前目にした大きいお兄さんと全然違っていて、あの人の横を歩くのかと思うと、途端に緊張してしまう。
「お待たせしました」
せっかくのデートだし、話しかけるときくらいはちゃんと笑顔でいようと思って、表情を意識的に柔らかくして声を掛けると「うぃす」と龍大が短く答えた。横に並ぶと、龍大の肩の部分に鈴夏の頭のてっぺんがようやく到達する。龍大は手に持っていたスマホをサコッシュに収め、背中へとまわした。
「昨日言ってたカフェ行きますか」
「はい」
「すいません、ちょっと緊張してます」
「いえ、私もです」
歩いている最中、龍大は鈴夏の少し先を歩いて先導しつつも、チラチラと後ろを見て歩幅を合わせてくれる。緊張しているのはすぐわかった。龍大の表情は少しも変わらない。鈴夏自身も、何を話そうか戸惑ってしまう。
カフェは白泉駅の西口を出て3分くらいのところ、ビルの2階にあった。席の数は少ないが、広々としていて、インテリアもレトロでおしゃれな店内。壁側のソファと椅子の席に案内され、龍大は「どうぞ」と鈴夏をソファに座らせてくれた。
「俺昼飯食ってないんですけど、ガッツリめに食っていいっすか?」
「そうなんですか?」
「仕事終わりなんで」
「どうぞどうぞ。私はパンケーキセットにするので」
――今日は軽食食べに来たくらいだから、ここまで緊張することないのに……
そう思いつつ、目の前に座っている龍大のいつもとは違う雰囲気に、鈴夏の胸はドキドキと高鳴っていた。よく見ると手首から腕にかけて血管が浮き出ていて、それでいて肌は見るからに肌理が整っている。爪も短く清潔で、骨太な指は長く、メニュー表を持っているだけの男らしい手つきに見惚れてしまう。
鈴夏自身、デートするのが数年ぶりだ。その久しぶりの感覚も、緊張を促した。
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