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失せ物 諦めずに探し続けよ
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鈴夏がコンビニの店先で座り込んでいると、不意に聞いたことのある声が降ってきた。
「あれ、鈴夏さん?」
「えっ?」
「ほぉ、タッツーと噂のヒト?」
鈴夏が声のする方へと顔を上げると、そこにはユイトさんと、サングラスをかけたウェービーな長髪のお兄さんがいた。口元にはヒゲをたくわえていて、髪にはメッシュも入っている。ユイトさんとは違う方向のチャラさがあるお兄さんだ。
「えっと、ユイトさん?」
「名乗るの初めてだよね。ボク、河合唯翔。コイツ、羽田寿一郎」
「うぃーす」
「あ……鷲尾鈴夏です」
情けない姿を晒してしまって、鈴夏は恥ずかしい気分になる。重たい体に圧をかけ、ゆっくり立ち上がって挨拶すると、不思議そうな眼差しで唯翔が見てきた。
「どうしたの? こんなとこで濡れたままなんて」
「その……探し物してて」
「その格好じゃ冷えるでしょ? 風邪引いちゃうし。今からコイツんち行くんだけど、よかったらどう?」
その気遣いはありがたいが、鈴夏には諦めずに探し続けたいという気持ちもあった。
「いや、でも悪いし……」
「むしろ何があったのか聞きたい聞きたーい!」
「ごめん、コイツちょっと酔ってる」
鈴夏は疲労困憊なのに、寿一郎はニコニコと呑気に構えている。あまり小さなことは気にしない質なのかもしれない。でも、さすがに初対面の人の家に上がり込むのは、鈴夏にとっても気が引けることだった。
「オレたちおねーさんにはなーんにもしないからヘーキヘーキ」
「は、はぁ……」
戸惑う鈴夏をよそに、寿一郎はかなり機嫌が良さそうだ。 そして「まぁ何もしないはホントだから」と唯翔が助言する。
――そうか、このふたり……。
唯翔の彼氏が寿一郎だということがわかった鈴夏は、なかば無理矢理寿一郎の家へ行くことになった。どうやら寿一郎の家は、小春ベーカリーから近いらしい。だから唯翔は寿一郎の家に、しょっちゅう泊まっているそうだ。
「タツには連絡した?」
「スマホの電池切れちゃって……」
「そっか。じゃあ家着いたらボクがタツに連絡しておくよ」
自分のミスでこんなことになったのに、唯翔は鈴夏を気遣う。思えば、ぶつかりおじさんに遭ったときもそうだ。豪快に転んで立ち上がれなくなったとき、即座に手を差し伸べてくれたのは唯翔だった。
いつも唯翔の優しさにすがりついているような気がして、鈴夏は申し訳なくなった。
そう言えば、寿一郎は鈴夏のことを「タッツーと噂のヒト?」と言っていた。ということは、龍大とデートしたことがもうすでにバレていることになる。どこまでその話が広がっているのか気になって、鈴夏は口を開いた。
「あの、ユイトくん」
「ん? なに?」
「私が昨日龍大くんとデートしたこと、知ってるんだよね?」
「うん。タツからも相談されたしね」
「その……それって小春ベーカリーのスタッフとか、全員知ってたり……」
「いやいや、さすがにそれはないよ! タツとジュイチとボク、よく遊んでるから」
どうやら、3人はとても仲が良いらしい。確かに龍大もよく家へ泊まりに来ると言っていたし、飲みに行ったりもしているのだろう。
そして、更紗が鈴夏の連絡先を龍大に渡した日、龍大は3人のグループチャットで唯翔と寿一郎に相談したそうだ。寿一郎は龍大の髪を切っていることもあり、髪のスタイリングと服のコーディネートについては熱心に助言した。
鈴夏のことは、龍大に唯翔、寿一郎しか知らない。そのことに鈴夏は安堵する。
そんな話をしている間に、寿一郎の住んでいるマンションへとたどり着いた。
「あれ、鈴夏さん?」
「えっ?」
「ほぉ、タッツーと噂のヒト?」
鈴夏が声のする方へと顔を上げると、そこにはユイトさんと、サングラスをかけたウェービーな長髪のお兄さんがいた。口元にはヒゲをたくわえていて、髪にはメッシュも入っている。ユイトさんとは違う方向のチャラさがあるお兄さんだ。
「えっと、ユイトさん?」
「名乗るの初めてだよね。ボク、河合唯翔。コイツ、羽田寿一郎」
「うぃーす」
「あ……鷲尾鈴夏です」
情けない姿を晒してしまって、鈴夏は恥ずかしい気分になる。重たい体に圧をかけ、ゆっくり立ち上がって挨拶すると、不思議そうな眼差しで唯翔が見てきた。
「どうしたの? こんなとこで濡れたままなんて」
「その……探し物してて」
「その格好じゃ冷えるでしょ? 風邪引いちゃうし。今からコイツんち行くんだけど、よかったらどう?」
その気遣いはありがたいが、鈴夏には諦めずに探し続けたいという気持ちもあった。
「いや、でも悪いし……」
「むしろ何があったのか聞きたい聞きたーい!」
「ごめん、コイツちょっと酔ってる」
鈴夏は疲労困憊なのに、寿一郎はニコニコと呑気に構えている。あまり小さなことは気にしない質なのかもしれない。でも、さすがに初対面の人の家に上がり込むのは、鈴夏にとっても気が引けることだった。
「オレたちおねーさんにはなーんにもしないからヘーキヘーキ」
「は、はぁ……」
戸惑う鈴夏をよそに、寿一郎はかなり機嫌が良さそうだ。 そして「まぁ何もしないはホントだから」と唯翔が助言する。
――そうか、このふたり……。
唯翔の彼氏が寿一郎だということがわかった鈴夏は、なかば無理矢理寿一郎の家へ行くことになった。どうやら寿一郎の家は、小春ベーカリーから近いらしい。だから唯翔は寿一郎の家に、しょっちゅう泊まっているそうだ。
「タツには連絡した?」
「スマホの電池切れちゃって……」
「そっか。じゃあ家着いたらボクがタツに連絡しておくよ」
自分のミスでこんなことになったのに、唯翔は鈴夏を気遣う。思えば、ぶつかりおじさんに遭ったときもそうだ。豪快に転んで立ち上がれなくなったとき、即座に手を差し伸べてくれたのは唯翔だった。
いつも唯翔の優しさにすがりついているような気がして、鈴夏は申し訳なくなった。
そう言えば、寿一郎は鈴夏のことを「タッツーと噂のヒト?」と言っていた。ということは、龍大とデートしたことがもうすでにバレていることになる。どこまでその話が広がっているのか気になって、鈴夏は口を開いた。
「あの、ユイトくん」
「ん? なに?」
「私が昨日龍大くんとデートしたこと、知ってるんだよね?」
「うん。タツからも相談されたしね」
「その……それって小春ベーカリーのスタッフとか、全員知ってたり……」
「いやいや、さすがにそれはないよ! タツとジュイチとボク、よく遊んでるから」
どうやら、3人はとても仲が良いらしい。確かに龍大もよく家へ泊まりに来ると言っていたし、飲みに行ったりもしているのだろう。
そして、更紗が鈴夏の連絡先を龍大に渡した日、龍大は3人のグループチャットで唯翔と寿一郎に相談したそうだ。寿一郎は龍大の髪を切っていることもあり、髪のスタイリングと服のコーディネートについては熱心に助言した。
鈴夏のことは、龍大に唯翔、寿一郎しか知らない。そのことに鈴夏は安堵する。
そんな話をしている間に、寿一郎の住んでいるマンションへとたどり着いた。
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