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9 どちら様ですか?
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ベッカム侯爵家の晩餐会から1年。
私はやや肩身の狭い平和な生活を送っていた。
そんなある日、風の噂でビーコンズフィールド伯爵夫人のセシルが無事に出産し、肥立ちが悪かったものの持ち直し、母子ともに健康という噂が届いた。
ビーコンズフィールド伯爵夫人。
私がそう呼ばれるはずだったのだけれど、今となっては未練もない。
多少の痛手は受けたとはいえ、あんな男と結婚しなくて本当によかったわ。それに尽きる。
ベッカム侯爵は晩餐会を台無しにされた事に激怒していた。恥知らずの二人を責めずに、息子同然のグレイ侯爵令息を叱責したのもパフォーマンスだったらしい。つまり、ベッカム侯爵の中でビーコンズフィールド伯爵ジェラルド・レヴィーンとラングリッジ伯爵令嬢セシル・コンクエストは死人だと。もしくは虫けらだと。人として扱う必要はないと、そういう判断だったらしい。
でも、両家にかなりの賠償金を請求したらしいけどね。
晩餐会が穢されたんだもの、当然っちゃあ当然よね。
もちろん、私にお咎めはなかった。
むしろお見舞いをもらったくらい。
今、ビーコンズフィールド伯爵家はかなり厳しい状態よね、きっと。たぶん。絶対。
だってアッカリー伯爵家とグレイ侯爵家から莫大な慰謝料を請求されて、妻セシルの生家ラングリッジ伯爵家に頼ろうにも、向こうも同じように両家から慰謝料を請求されて余裕がないから助けはない。
それに加えて、忘れちゃいけないアレよ。
ベッカム侯爵からの賠償金請求。
夫婦に圧し掛かる、六重の負債。
額が大きすぎてピンとこないわ。
父は喜んだけど。
二大侯爵家の威光にあやかって、ちゃんと慰謝料上乗せでもらえたって。
だから私の持参金は問題ないんだけど……
「はぁ」
微妙。
上から下まで招待客の多いベッカム侯爵家の晩餐会で、やらかしたのはたしかにジェラルド。と、セシル。
そこへキレ散らかしたグレイ侯爵令息には、ゆるぎない地位がある。
私は違う。
ばっちり変な綽名ついてるのよ、今。
求婚されないのよ。近寄ってきた男は、笑うのよ。私を。
求婚じゃなくて、私を偶像崇拝する感じで慕ってるタイプの手紙もちらほら届く。インパクトを残したのはグレイ侯爵令息のはずなのに、なぜ……
どちらも馬鹿にしてるつもりはないってわかってるから、怒るに怒れないけどね。
実際、私も大声出したし。
冷静になって思い返すと、本当に余計な事言ったわ。
「この先、どうしよう」
そんなある日、知らない貴族から私宛に手紙が届いた。
私を慕う独特の面白さを持った手紙に慣れてきていたので開いてみたら、偽名を使ったジェラルドだった。
「……」
なんだか、汚物を触っちゃった気分だわ。
内容は至極単純。
もう破産した、昔のよしみで助けて──って。
「嘘でしょ?」
私に?
どなた様の分際で?
赤ん坊が生まれてセシルが酷くて辛いとか、私に関係ないし。
私に泣き言を垂れるって、どういう神経なの?
「とことん節操なしですね、元婚約者様」
私は手紙を破って暖炉で燃やした。
良く燃えた。
私はやや肩身の狭い平和な生活を送っていた。
そんなある日、風の噂でビーコンズフィールド伯爵夫人のセシルが無事に出産し、肥立ちが悪かったものの持ち直し、母子ともに健康という噂が届いた。
ビーコンズフィールド伯爵夫人。
私がそう呼ばれるはずだったのだけれど、今となっては未練もない。
多少の痛手は受けたとはいえ、あんな男と結婚しなくて本当によかったわ。それに尽きる。
ベッカム侯爵は晩餐会を台無しにされた事に激怒していた。恥知らずの二人を責めずに、息子同然のグレイ侯爵令息を叱責したのもパフォーマンスだったらしい。つまり、ベッカム侯爵の中でビーコンズフィールド伯爵ジェラルド・レヴィーンとラングリッジ伯爵令嬢セシル・コンクエストは死人だと。もしくは虫けらだと。人として扱う必要はないと、そういう判断だったらしい。
でも、両家にかなりの賠償金を請求したらしいけどね。
晩餐会が穢されたんだもの、当然っちゃあ当然よね。
もちろん、私にお咎めはなかった。
むしろお見舞いをもらったくらい。
今、ビーコンズフィールド伯爵家はかなり厳しい状態よね、きっと。たぶん。絶対。
だってアッカリー伯爵家とグレイ侯爵家から莫大な慰謝料を請求されて、妻セシルの生家ラングリッジ伯爵家に頼ろうにも、向こうも同じように両家から慰謝料を請求されて余裕がないから助けはない。
それに加えて、忘れちゃいけないアレよ。
ベッカム侯爵からの賠償金請求。
夫婦に圧し掛かる、六重の負債。
額が大きすぎてピンとこないわ。
父は喜んだけど。
二大侯爵家の威光にあやかって、ちゃんと慰謝料上乗せでもらえたって。
だから私の持参金は問題ないんだけど……
「はぁ」
微妙。
上から下まで招待客の多いベッカム侯爵家の晩餐会で、やらかしたのはたしかにジェラルド。と、セシル。
そこへキレ散らかしたグレイ侯爵令息には、ゆるぎない地位がある。
私は違う。
ばっちり変な綽名ついてるのよ、今。
求婚されないのよ。近寄ってきた男は、笑うのよ。私を。
求婚じゃなくて、私を偶像崇拝する感じで慕ってるタイプの手紙もちらほら届く。インパクトを残したのはグレイ侯爵令息のはずなのに、なぜ……
どちらも馬鹿にしてるつもりはないってわかってるから、怒るに怒れないけどね。
実際、私も大声出したし。
冷静になって思い返すと、本当に余計な事言ったわ。
「この先、どうしよう」
そんなある日、知らない貴族から私宛に手紙が届いた。
私を慕う独特の面白さを持った手紙に慣れてきていたので開いてみたら、偽名を使ったジェラルドだった。
「……」
なんだか、汚物を触っちゃった気分だわ。
内容は至極単純。
もう破産した、昔のよしみで助けて──って。
「嘘でしょ?」
私に?
どなた様の分際で?
赤ん坊が生まれてセシルが酷くて辛いとか、私に関係ないし。
私に泣き言を垂れるって、どういう神経なの?
「とことん節操なしですね、元婚約者様」
私は手紙を破って暖炉で燃やした。
良く燃えた。
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