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8 妻が豹変したんだが?(※ジェラルド視点)

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 ベッカム侯爵家での晩餐会から1ヶ月。
 僕たちは結婚式を挙げた。


「愛によって結ばれた二人に外野の祝福なんて要らないわ!」

「ああ、僕たちだけでいい! 誰にも邪魔させるもんか!!」

「ああんっ、ジェラルドぉんっ」


 可憐なセシル。
 野蛮な男と結婚させられそうになっていたところを、僕が救った。僕はまるで、神話に出てくる囚われの姫を助けた英雄だ。

 澄まし顔の生意気なロレインなんか、僕がもったいない。
 婚約者に捨てられて大勢の前で恥をかいた事だろう。あんなふうに無様に喚き散らすところが見れて、感無量だ。

 ああ、僕はロレインが嫌いだったんだなぁ。
 顔だけだもんな。


「セシル、こっちを向いてぇ。あぁ、可愛いよぉ」

「ジェラルドぉん」

「誰にも渡さないっ!」

「きゃうんっ」


 熱々の甘い新婚生活は瞬く間に過ぎていき、季節が変わった頃。
 セシルの腹部がせり出して来た。


「セシルぅ~ん。ちょっとだけ触らせてぇ? いいだろぉ?」

「触んなよ、キモ」

「セシル!?」


 妻が豹変した。
 
 あんなに熱く僕を求め、僕に愛を囁いた僕の可愛いセシル。
 それがどういうわけか、僕を見れば睨みつけ、肌に触れれば僕を罵るようになってしまった。


「どうしたんだい? セシル、僕、なにか怒らせるような事やっちゃった? 仲直りのキスしようよ」

「おえええええええっ!」

「セシルッ!?」


 ついには僕を見れば嘔吐するように。

 セシルは一日中ベッドで横になっていて、僕を寄せ付けない。また触って吐かれると傷つくので、しばらくして寝室を分けた。だけど、今度はなぜか頻繁に僕を呼ぶようになった。相変わらず触らせてもくれないけど、僕を蔑んだりしながら、僕に命令する。


「ちょっと! ジェラルド!? お腹空いたんだけど!?」

「さっき食べたろ! どうしたんだよ、まったく! 太っても知らないよ!」

「妊娠してるの! 文句言わずになにか食べ物持って来いよこの役立たず!!」

「酷い!!」

「父親になんだろ! ああっ!? 誰の子だよ!!」


 うそーん!

 セシルってこんな子だったの!?
 あああ、あの野蛮なグレイ侯爵令息とそっくりじゃないか!!


「やる事やってこっちももうコドモじゃないんだからベタベタ触って機嫌取ろうとしてくんなよクソがッ!!」

「いい加減にしろ! 無礼だぞ!? 僕が主だ!!」

「あっそう次の主を命懸けで産んでやるのは私なんだけどね! 忘れた!?」

「本当に僕の子なのかよ!?」

「はあっ!? 覚えてろ貴様ぶっ殺してやる!!」

 
 ひいぃぃぃぃぃっ!

 結婚は人生の墓場って本当じゃないか!
 どうしてこんな事になったんだ!?

 助けて! ロレイン!!
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