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〈10日後の世界〉

19 謎であり謎ではない美女

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「……ふうっ」


 10日ぶりの陽射し、そして風。
 私は解き放たれた。

 修道院の前にはレオンティーナ率いる孤児院の子供たちと、荷車を傍に停めたコズモ、そして……


「え、誰?」


 とんでもない美女が微笑みを湛えて立っていた。
 
 風に吹かれながらみんなのもとへ歩いていく間、ずっと、美女から目が離せない。
 金髪碧眼という一言では済ませられない、でも形容し難い、神話から飛び出して来たような美しさ。彼女の髪もまた、風に靡いて光の粒を撒き散らしている。


「シスター・ラファエラ!」


 レオンティーナが満面の笑みで手を振っている。

 その隣に、美女がいる。

 その少し後ろにいるコズモより、私は美女に釘付けだった。
 誰なのよ……!


「シスター・ラファエラ。お勤めお疲れさまでした」


 美女は言った。その声は──


「グラシア……!」

「聖典の写本作成という尊いお勤め、本当に素晴らしい事です。数々の御親切に加え、神の導きに感謝します」

「あなた、立ってるじゃない……!」


 それにとんでもなく美人ね!
 あの包帯は怪我じゃない。やっぱり、顔を隠すためのものだったのだ。


「シスター・ラファエラ! 顔が蒼白いわ! 見て、ブリスケットとターキーサンドを持ってきたの! 一緒に食べましょう!」

「シスター・ラファエラ、お疲れさん。俺のミルクで元気出してくれ」

「ええ、ありがと。グラシア、あなた、具合はどうなの?」


 ちょっとそっちが気になって、私はレオンティーナとコズモのほうさえ見ずにグラシアの腕に手を添えた。そんな脇目もふらなかった私は、孤児院の子供たちにわらわらと囲まれ、掴まれ、グラシアから引き離されていく。


「あああ」

「お陰様で」

「シスター・ラファエラ!」

「シスター・ラファエラ! かけっこして!」

「この通りです」

「私もこの通りだわ! 助けて、コズモ!」


 細く美しい指を口に添え、グラシアが嫋やかに笑う。
 コズモが子供たちをわしわしと掴んで私から引き剥がした。レオンティーナがすかさずターキーサンドを渡してくる。


「行きましょう!」

「でも、外出許可を取ってないのよ」

「大丈夫! 私、階段の修繕費用を寄付したの。だからシスター・タルクウィニアも協力してくれて、あなたを連れ出していい事になったのよ!」


 ちょっと信用できない。
 たかがシスター・タルクウィニアに、あのシスター・イゾッタを抑えられるとは思えない。

 ところが、レオンティーナに従う形でグラシアが私の手を引いた。そして歩き出す寸前の流し目と微笑みと言ったらもう……恋に落ちるかと思ったわよ。

 なんなのこの女。
 危険だわ……


「美人でびっくりだろ? 俺もいろんな貴婦人を見て来たが、ダントツだぜ」

「え?」


 ちょっと待って。
 なにそれ。
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