19 / 27
〈10日後の世界〉
19 謎であり謎ではない美女
しおりを挟む
「……ふうっ」
10日ぶりの陽射し、そして風。
私は解き放たれた。
修道院の前にはレオンティーナ率いる孤児院の子供たちと、荷車を傍に停めたコズモ、そして……
「え、誰?」
とんでもない美女が微笑みを湛えて立っていた。
風に吹かれながらみんなのもとへ歩いていく間、ずっと、美女から目が離せない。
金髪碧眼という一言では済ませられない、でも形容し難い、神話から飛び出して来たような美しさ。彼女の髪もまた、風に靡いて光の粒を撒き散らしている。
「シスター・ラファエラ!」
レオンティーナが満面の笑みで手を振っている。
その隣に、美女がいる。
その少し後ろにいるコズモより、私は美女に釘付けだった。
誰なのよ……!
「シスター・ラファエラ。お勤めお疲れさまでした」
美女は言った。その声は──
「グラシア……!」
「聖典の写本作成という尊いお勤め、本当に素晴らしい事です。数々の御親切に加え、神の導きに感謝します」
「あなた、立ってるじゃない……!」
それにとんでもなく美人ね!
あの包帯は怪我じゃない。やっぱり、顔を隠すためのものだったのだ。
「シスター・ラファエラ! 顔が蒼白いわ! 見て、ブリスケットとターキーサンドを持ってきたの! 一緒に食べましょう!」
「シスター・ラファエラ、お疲れさん。俺のミルクで元気出してくれ」
「ええ、ありがと。グラシア、あなた、具合はどうなの?」
ちょっとそっちが気になって、私はレオンティーナとコズモのほうさえ見ずにグラシアの腕に手を添えた。そんな脇目もふらなかった私は、孤児院の子供たちにわらわらと囲まれ、掴まれ、グラシアから引き離されていく。
「あああ」
「お陰様で」
「シスター・ラファエラ!」
「シスター・ラファエラ! かけっこして!」
「この通りです」
「私もこの通りだわ! 助けて、コズモ!」
細く美しい指を口に添え、グラシアが嫋やかに笑う。
コズモが子供たちをわしわしと掴んで私から引き剥がした。レオンティーナがすかさずターキーサンドを渡してくる。
「行きましょう!」
「でも、外出許可を取ってないのよ」
「大丈夫! 私、階段の修繕費用を寄付したの。だからシスター・タルクウィニアも協力してくれて、あなたを連れ出していい事になったのよ!」
ちょっと信用できない。
たかがシスター・タルクウィニアに、あのシスター・イゾッタを抑えられるとは思えない。
ところが、レオンティーナに従う形でグラシアが私の手を引いた。そして歩き出す寸前の流し目と微笑みと言ったらもう……恋に落ちるかと思ったわよ。
なんなのこの女。
危険だわ……
「美人でびっくりだろ? 俺もいろんな貴婦人を見て来たが、ダントツだぜ」
「え?」
ちょっと待って。
なにそれ。
10日ぶりの陽射し、そして風。
私は解き放たれた。
修道院の前にはレオンティーナ率いる孤児院の子供たちと、荷車を傍に停めたコズモ、そして……
「え、誰?」
とんでもない美女が微笑みを湛えて立っていた。
風に吹かれながらみんなのもとへ歩いていく間、ずっと、美女から目が離せない。
金髪碧眼という一言では済ませられない、でも形容し難い、神話から飛び出して来たような美しさ。彼女の髪もまた、風に靡いて光の粒を撒き散らしている。
「シスター・ラファエラ!」
レオンティーナが満面の笑みで手を振っている。
その隣に、美女がいる。
その少し後ろにいるコズモより、私は美女に釘付けだった。
誰なのよ……!
「シスター・ラファエラ。お勤めお疲れさまでした」
美女は言った。その声は──
「グラシア……!」
「聖典の写本作成という尊いお勤め、本当に素晴らしい事です。数々の御親切に加え、神の導きに感謝します」
「あなた、立ってるじゃない……!」
それにとんでもなく美人ね!
あの包帯は怪我じゃない。やっぱり、顔を隠すためのものだったのだ。
「シスター・ラファエラ! 顔が蒼白いわ! 見て、ブリスケットとターキーサンドを持ってきたの! 一緒に食べましょう!」
「シスター・ラファエラ、お疲れさん。俺のミルクで元気出してくれ」
「ええ、ありがと。グラシア、あなた、具合はどうなの?」
ちょっとそっちが気になって、私はレオンティーナとコズモのほうさえ見ずにグラシアの腕に手を添えた。そんな脇目もふらなかった私は、孤児院の子供たちにわらわらと囲まれ、掴まれ、グラシアから引き離されていく。
「あああ」
「お陰様で」
「シスター・ラファエラ!」
「シスター・ラファエラ! かけっこして!」
「この通りです」
「私もこの通りだわ! 助けて、コズモ!」
細く美しい指を口に添え、グラシアが嫋やかに笑う。
コズモが子供たちをわしわしと掴んで私から引き剥がした。レオンティーナがすかさずターキーサンドを渡してくる。
「行きましょう!」
「でも、外出許可を取ってないのよ」
「大丈夫! 私、階段の修繕費用を寄付したの。だからシスター・タルクウィニアも協力してくれて、あなたを連れ出していい事になったのよ!」
ちょっと信用できない。
たかがシスター・タルクウィニアに、あのシスター・イゾッタを抑えられるとは思えない。
ところが、レオンティーナに従う形でグラシアが私の手を引いた。そして歩き出す寸前の流し目と微笑みと言ったらもう……恋に落ちるかと思ったわよ。
なんなのこの女。
危険だわ……
「美人でびっくりだろ? 俺もいろんな貴婦人を見て来たが、ダントツだぜ」
「え?」
ちょっと待って。
なにそれ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
186
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる