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3 永遠へ捧げる誓い

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 ……いやぁ。

 ……言えないわ。


「おい。言えよ。理由があるんだろ?」

「あーぁーぁーァー……」

「パーァーァーァーァーッス」

「お嬢様!」


 メイドが裏口を勢いよく開けて、私を呼んだ。飛び出してきそうな勢いだったけれど、思いのほか私がすぐ近くにいたので戸枠に齧りつくように体を支えている。

 その焦った顔に、血の気が引いた。
 母が危ないのだ。


「ああ、アダン様。よかった。一緒にいらしてください」

「え?」

「ほら、パース。歩け」

「あ、ええ」


 アダンに押される形で屋内に戻る。
 入れ違いにコック見習いのサニーが走って行った。彼は足が早く、往診以外の時間で母の体調が崩れたときに主治医のもとへ走ってくれるのだ。

 でも、家の中の、異様な慌て様……
 

「パース。しっかしろ。おふくろさん、お前が頼りなんだからな」

「え、ええ。そうよね」


 父は役場にいてたぶん間に合わない。
 

「……っ」


 覚悟はしていた。
 だけど、本当に母が旅立とうとしているかもしれない今、うまく息もできないし足の感覚もない。体が強張って、ふるえて……自分でも目を瞠って今にも泣きそうな悲愴な顔をしている自覚がある。

 でも、それも、廊下まで。

 母の寝室に入ると、私は枕元に駆け寄った。


「お母様!」

「……パー……ス……」


 蒼白く、呼吸が浅く不規則で、視線も宙を彷徨っている。
 痩せ細った母の手を握り、私は微笑んでいた。


「ここよ。私はここにいるわ、お母様」

「パース……」


 母も微笑んだ。
 その母の視線が逸れて、険しい表情に変わった。そして私の手を逃れて、さらに高く伸ばす。焦点が定まっていなくても、私の背後で覆い被さるように立っているアダンを捉えたのだ。


「アダン……!」

「はい。ここにいます」

「……アダン……お願い……ッ」


 アダンは身を屈め、母の手を握った。
 私と触れあったときよりずっと強くアダンの手を握り、母は目を剥いた。


「パースを、守って……守って……!」

「!」


 胸が張り裂け、涙が零れた。


「もちろんです。パースの事は、俺が生涯守ります。誓います」


 母は繰り返し私を守るようにアダンに言うと、何度目かに力を緩めてありがとうと囁いた。そして安心したように手を胸に下ろし、天井を見つめて深い呼吸を繰り返した。

 アダンの手が私の背を撫で、促す。


「お母様」


 呼びかけると、母は嬉しそうに笑った。
 また手を握り、焦点のあわないままに見つめあい、微笑みを交わした。


「私の……可愛い、パース……」

「愛してるわ、お母様」

「愛してる……アダンと、仲良くね」


 私がついに泣き崩れると、母は静かに旅立っていった。
 血が繋がっていなくても本当に私の母だったひとが、永遠の眠りについたのだ。
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