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023 Дмитрий

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「あんまりだよ。それは、僕のおやつだ」
「……ニェット」
「いや、僕のだ。タツオのじゃないよ」

 膝に手をついて立ち上がる。訝しげにみあげてくる瞳が、少しゆれた。

「? ヒダカサン?」
「違う。タツオのじゃなくて、僕のなんだ。持って行っちゃだめだよ」
「──ヒダカサン、──?」
「僕の」

 笑いがこみあげる。僕のだって? 僕のものなんて、何もない。命さえ他人に盗られたままなのに。
 まりえが困った顔をして、窮屈そうに顎を引いた。僕が身体を寄せ、手をついて閉じこめたからだ。あんなに勢いよく怒っていたくせに、今のまりえはちょっと頼りなかった。本当に野うさぎをつかまえたみたいだ。すごく小さい。
 そういえば、と思い出す。タツオは、さっきすばるとキスをしていた。僕は死ぬほど我慢してるのに、ずるい。その上、スタリーチナヤまで盗るなんて。あんまりだ。
 まりえは、ウォトカを返してくれそうにない。

「じゃあ、君がおやつだ」
「マ──」

 舌をねじ込み、唇をひらく。まりえの唇はやわらかく、びくりとふるえた肩も、逃げる舌も、苛めるには少し可哀相な気がした。でもまりえが先に僕を苛めたのだから、仕方がない。僕のスタリーチナヤを取り上げ、逆に、僕が棄てたがっている名前や、僕じゃない特別な男の名前ばかり連呼した。
 ふさいだら、ほら、何も聞こえない。
 気持ちいいだけだ。

 小さな悲鳴が、身体の下から細い煙みたいにたちのぼる。

 かわいい唇だ。やわらかくて、しっとり、僕に吸いつく。舐めても、吸っても、応えてくれない。逃げようとしている。いいよ。それなら僕は、深く、深く、追いかけていくから。右を向いても、口を閉じても。追いかけてこじ開ける。舌を絡めようとしても、なかなか、うまくいかない。頑固。だけど、濡れた音も、唾液の味も、すごく興奮した。
 いつまでも味わっていたい。やさしくて、美味しいくちびる。
 ああ、目が眩む。
 唇から身体の隅々まで、光の砂が舞うように。
 きらきら、さらさら。

「──」

 我に返った。
 慌てて身体を離す。甘く痺れる唇を舐め、何をしたか知った。
 泣きじゃくり、ふるえている。
 傷つけた。
 濡れた瞳が僕を責める。

「あ……」

 言葉にならない。
 まりえは僕に酒瓶を押し付け、猛然と歩き出した。追いかけると足を速め、手をのばしてもふり払われる。当然だ。僕がしたのは、強姦と同じだ。程度の問題じゃない。心を踏みにじり、唇を穢した。まりえはタツオが好きなのに。
 謝って済むことじゃないが、追いかけずにいられなかった。

「まりえ」

 呼ぶと、まりえは涙をぬぐい、高く唸った。

「ごめん、まりえ。本当にごめん」

 ぴたりと足を止め、ふり返る。真っ赤になって、ぼろぼろ泣いて、傷ついた目で僕を責めた。何かつぶやいたが、単語自体わからない。
 酔って八つ当たりなんて、最低だ。この間もまりえは怖い目にあったばかりなのを知ってるのに。見るからに潔癖そうで、とても真面目だ。お遊びでキスをできるような子じゃない。それなのに僕は。ああ、なんてことをしたんだ。
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