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024 Дмитрий

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「まりえ、僕は、酔っ払ってたんだ」

 馬鹿。言い訳するな。
 僕はてのひらを見せて、頭をひねった。

「ええと、ちょっと待って。違う。あのね、僕は、心から君を傷つけたくないと思ってたんだ。本当だよ。僕が、僕がぜんぶ悪かった、今のは。だから、泣かないで。犬に噛まれたことのように、あ、もちろん甘噛みだよ。しょうがない子ねって叱って──ああ、耐えられない。君を泣かせるなんて、死にたいよ」

 引きとめ、下手な言い訳をしても、まりえはまだ泣いている。最悪だ。僕が最悪なのはどうでもいい。まりえの傷が広がっている気がして、つらい。
 跪いて、顔を見あげた。日本人だし、たぶんそれでも小柄な方で、僕の頭はまりえの胸の下辺りになった。まりえは少し、驚いている。

「どうしたら気がすむ? なんでもするよ」

 ひっぱたいてくれればよかった。まりえは、僕を罰しようともしない。痛みを、呑みこんでしまいそうで、僕はそれをとめたかった。

「君ばかり悲しいのは嫌だ」

 まりえは手の甲で涙をぬぐい、理性をたもとうとする顔つきで瞬きをくり返した。それから、天井に近い窓を見あげ、晴れていることを確かめてから、僕を見た。

「アナタモ、ツライノダト、オモウケド」

 言葉はわからないが、何か必死に伝えようとしている。昨夜もそうだった。すごく励まされた。セルゲイの到着を待ち気がふれそうになっていたとき、まりえは、静かにやわらかく、深くまっすぐに語りかけてくれた。
まるで、愛するみたいに。
 今もそうだ。

「シゴトチュウニ、オサケヲノムノハ、ヨクナイワ。オサケ」

 細い指が、酒瓶を指す。
 恥ずかしくて身が竦んだ。いくら言葉を知らなくても、はっきりわかった。まりえは、昼間から呑んだくれていた僕を叱ってくれたんだ。優しく清らかな女の子に僕は、ろくでなし万歳の仕返しをした。
 それでもまだ、伝えようとしてくれている。大切なことだからだ。

「ダメヨ。ワカッタ?」
「うん。ごめんなさい」

 瓶の吸い口にてのひらで蓋をして、目をあわせた。僕が首を横にふる。まりえは、思いやりの篭もった眼差しで、何度か頷いた。
 廊下の端にトイレがある。あそこで捨てようと手振りで示したが、まりえは苦い顔で目をそらした。そこまですることじゃない、というふうに。禁酒そのものを命じたわけじゃないのは、僕もわかっている。
 ふいに沈黙がおちた。まりえの目元が濡れている。僕のせいだ。窓から射し込む陽をうけて、きらきら光る。きれいだ。
 拭おうとしてあげた手を払われる。まりえの目には、悲しみが戻っていた。

「サワラナイデヨ」

 そう言って、まりえは背を向け歩き出した。僕は追いかけなかった。忌み嫌う声に、うちのめされた。

 稽古場に戻ると、セルゲイからまた変更を伝えられた。一幕の最後、孤児院襲撃のシーンでディーノ役のイズル・クモダをもっと引き立たせろと言う。
 すばるが僕に微笑んでくれて、励まされた。緊張は解けたが、なぜかいつもとは違う後ろめたさを覚え、首の辺りがむずむずと疼いた。
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