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「ミーチャ?」
「薬が要る」
「……え?」
「僕らの症状を抑える薬を、セルゲイが持ってる」

 僕らの、と彼は言った。つまり、彼と、私だ。混乱した。

「どういうこと?」

 彼が強く手を握る。

「ごめん。病気って言えばわかりやすいと思った。だけど、医者には治せない」
「あなたの目」
「そうだよ。君の目も」

 息を呑んだまま、動けなくなる。彼の、焼き尽くすような赤褐色の瞳が好きだった。けれど今は、鈍く暗い金色に輝いている。それだってとても美しいと思う。そういえば私も、一度だけ、鏡の中の自分の瞳が金色に見えた。気のせいだと思ったけれど、まさか、今も私の瞳は黒くないというのだろうか。
 さっき、あれほど窓を眺めていたのに。
 夜景に目を投げると、彼も横を向いた。

「鏡じゃないから、わからないよ」
「目の色が変わるほかには、何があるの?」

 少しだけ、声がふるえる。彼のせいで怖がっていると思われたくなかった。

「症状って、具体的にはどんなもの? 痛みは、どれくらいあるの?」

 彼に向き直り、努めて冷静に訊ねる。悲しそうに、彼が笑う。

「痛くないよ。もう、痛くないんだ」
「……それは、よかったわ」

 喉をふるわせる。彼の目が潤む。

「アグネスと同じ。僕たちはもう死なない」

 そこで、糸が切れた。ついふきだしてしまったけれど、悪い冗談だと責める気はなく、むしろ彼が緊張をほぐそうとしてくれたのだと思った。私の思考を読んだように、彼は悲しげに首をふった。

「違う。本当だよ。細胞が変わったんだ」
「あの夜?」
「君が死んでしまうと思った。でも、僕が、人間のまりえを殺してしまったんだ」
「生きてるわ」

 とても冷静ではいられない。けれど、私にとって何よりも重大なのは、彼が罪の意識を感じていることだった。私にはどんな病気を移してもいい。どうせ誰よりも早く迎えがくるのだから。

「さっきも言ったけれど、私にしてくれたことで傷つかないで」
「まりえ、おかしいよ」
「それで、目が光って死なない以外には何があるの? 牙が出るとか?」
「!」

 明らかにうろたえて、ミーチャが目を泳がせる。

「少し、凶暴になるだけだよ」
「そう。攻撃的な衝動を抑える薬をポルトノフさんが持っているのね。でも、作ってるわけじゃないのでしょう? あなたが個人的に処方してもらう方法を考えるのよ。私も、知ってしまったあとであのひとから受け取るのは嫌。市販されている精神安定剤ではだめなの?」

 そこまで言って、私はサッと芯から冷えた。

「だから、お酒を呑んでいたのね。ごめんなさい」

 何も知らずに正論をおしつけたことが恥ずかしく、胸が痛んだ。ミーチャが慌てて首をふった。
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