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1 恋だの愛だの

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「君は欲がないんじゃない、馬鹿なんだ! いいかい? 美貌で一国の王妃に収まった君の伯母上のおかげで、君は王位継承権を得たんだ。大臣を味方につければ王座も夢じゃない! それでなくてもモルバ王国に飢饉や天災でも起きたら、ほかの継承者が軒並み死んで君に王座は転がり込んでくるんだ。ただの一貴族のように生きている場合じゃないんだぞ!?」

「あなた、そんな人だったのね。最低」


 私は冷えた心のままに、彼を薄目で睨んだ。
 彼は婚約者のテランス・シャミナード。シルヴァン伯爵令息だ。

 2年前に出会った私たちは、恋をしていたと思っていた。
 それなのに、彼もほかの求婚者と同じ。
 同盟国モルバの王位継承権に釣られた、身の程知らずな腐った魚だったのだ。


「なんだって?」

「私は伯母様が健やかに長生きしてくださるよう願っているし、モルバ王国の繁栄を願っているし、王座なんて求めてないわ。私はあなたの道具にはならない」

「く……っ、生意気な」


 愛していたはずの人の、醜い表情。
 一刻も早く、この場を去りたい。

 私は席を立った。


「私たちアスター伯爵家は政略結婚はしません。親族も皆、結婚は愛によって結ばれるべきだという信念を持っています。あなたへの恋は冷めました。さようなら」

「はっ! 恋だの愛だの、馬鹿げている! 王族になれるチャンスなんだぞ!? もう君に用はない! 僕は妹のほうと結婚するよ!」

「はい?」


 おっと。
 これは、この場を去ってる場合でもなさそうね。


「あなた、自分がなにを言ってるかわかってる?」


 テーブルに手をついて、彼の目を覗き込む。


「ああ、わかっているとも! 君は活発すぎて王族にはそぐわない。その上で志さえないのであれば、可憐で素直なもうひとりの王位継承者、君の妹リリアンに求婚するまでだ! リリアンは僕を好きだ。僕の言う事ならなんでも聞いてくれるだろう。信じるという意味でも、支持するという意味でもね」

「そうは思わないけど」

「うるさい! 君と過ごしたのは時間の無駄だった。だがリリアンには君よりも時間があるからね! 未来という時間が! さようなら、ローズ・カミンスキー。君との婚約は破棄させてもらう! この大馬鹿者め!!」


 バンッ!

 テーブルを叩いて、テランスが椅子を蹴散らして立つ。
 そして猛然と去っていった。


「馬鹿はどっちよ」


 あれを愛していた私も相当な馬鹿だけどね。
 それにしても、最高に白けた気分。


「さて」


 父に報告しなくては。
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