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12 私の王子様と、もうひとりの王子様
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「イーリス。僕と一緒に来てくれるかい?」
「……!」
王妃がヨハン王子の健康を認めて、土地と爵位を与えた。それで王子は城を出て、一領主として地方の城で暮らす事になった。私が悲しくて泣いていると、部屋に王子がやってきて私の手をそっと握ったのだ。
「で、殿下……それは……!?」
「ああ。イーリス。僕と結婚して、クロンビー公爵夫人になってほしい」
「おっ」
「おっ?」
王子が優しい眼差しで覗き込んでくる。
私はブンブンと首を振った。
「わっ、わかりません! おって言っちゃいました!」
「はは、そうなんだね。うん。少しびっくりさせちゃったよね」
「はい!」
王子にふんわりと抱きしめられて、しばらくじっとしていた。
これは夢!?
だって、私なんかにヨハン王子がプロポーズなんて、信じられない!!
お……
「……お父様に」
「うん」
「聞いてみて、夢じゃないかどうか確かめてきます」
「夢じゃないよ」
ぴったりくっついたまま王子が私の髪を撫でて、撫でて、撫でまくる。
それから甘い声で囁いた。
「ねえ、イーリス。返事をしてよ」
「……っ」
そんなの、決まってる。
でも頭が燃えたみたいにパツパツして、口が動かない。
「ぷるぷるしてるね」
「……!」
「ああ……最近はケーキを食べていないから、元気が出ないんだね」
違う!
でも、ケーキはそろそろ食べたい。
すると突然、王子が切なそうに眉を顰めた。
「実は、城から連れて行く使用人のひとりが、クロードなんだ」
「……は、はい」
「君の体調管理だよ。僕は君がぽっちゃりしててもスラッとしてても、どっちも可愛いんだけど。健康的に長生きするってなると、好きなものを好きな時に好きなだけ食べてはいけないんだ。辛いよ。君の喜ぶ顔がたまらなく好きなのに」
「は、はい……」
「そんなわけだから、ほっぺた抓るくらいの痛みはあるんだ。ね、夢じゃないよ。僕と結婚してくれる?」
「あ……」
「っていうか、して。イーリス、僕の奥さんになってよ」
私はついに、叫んだ。
「はい!」
「やったー!」
ふたりで天を仰いで、また抱き合って、そして手をつないで、城を走った。
私はまずいちばんに王妃に報告したかったから。
王子と私が手をつないで部屋に駆け込むと、王妃はまだむっつりしていた。
「賑やかね」
「ああ、噂のイーリスですね。母上」
「……」
男版王妃がそこにいた。
その存在はもちろん、いくら私でも知っている。
第一王子エイベルが、王妃そっくりな顔でむっつりしている。
「おや、兄上じゃあないですか」
「ふん。ヨハン、お前が領主とはな」
「領地がないだけで、今までだって民をまとめて町を反映させてきましたよ。芸術家は気分屋や気難し屋や気にしいや繊細さんやイッチャッテル~な人とか、いろいろなんですから。手練手管は心得ています」
「母上。財務管理をひとりつけたほうがいいかと」
「もちろんよ」
親子喧嘩と兄弟喧嘩は、もう未知だ。
私は話している人に順々と顔を向けて、なりゆきを見守ると言うか、なりゆきに押し流される感じになる。
「まったく、浮ついたお前の顔を見なくて済むと思うと、そのイーリスには感謝しかないな」
「やめてください。兄上、僕のイーリスをそんなに安く見ないでもらいたい」
「あなたのイーリス?」
「そりゃそうでしょう。母上、結婚するんですよ?」
「ヨハン。イーリスを私の娘にしたくて結婚させるとは考えないの?」
「母上。浮かれヨハンにはそんな複雑な心理はわかりませんよ」
「そうよね、ごめんなさい」
やめて!
「待ってください! どうか皆さん、落ち着いて……!」
「あああっ、駄目だイーリス! 食べられちゃうよ!」
「えっ!?」
王子が私のお腹に腕を回し、軽々と持ち上げて部屋を出た。
「兄上は恐ろしく交戦的なんだ。どんなに澄まして座っていようとあれはいっつも、いっつもいっつも心の内で戦争してる。まったく、イーリスをあんな野蛮人と一緒の部屋に置いておけない。危なかった」
「……私の、お義兄様になる方ですよね……?」
「そう! ぞっとするよ」
「……」
そうだろうか。
王妃の息子で、王子の兄なんだから、絶対いい人に決まってる。
そんな事より王子にずっと抱きかかえられて、ニマニマしちゃう。
私、好きな人と結婚するんだ。
やったぁ♪
「……!」
王妃がヨハン王子の健康を認めて、土地と爵位を与えた。それで王子は城を出て、一領主として地方の城で暮らす事になった。私が悲しくて泣いていると、部屋に王子がやってきて私の手をそっと握ったのだ。
「で、殿下……それは……!?」
「ああ。イーリス。僕と結婚して、クロンビー公爵夫人になってほしい」
「おっ」
「おっ?」
王子が優しい眼差しで覗き込んでくる。
私はブンブンと首を振った。
「わっ、わかりません! おって言っちゃいました!」
「はは、そうなんだね。うん。少しびっくりさせちゃったよね」
「はい!」
王子にふんわりと抱きしめられて、しばらくじっとしていた。
これは夢!?
だって、私なんかにヨハン王子がプロポーズなんて、信じられない!!
お……
「……お父様に」
「うん」
「聞いてみて、夢じゃないかどうか確かめてきます」
「夢じゃないよ」
ぴったりくっついたまま王子が私の髪を撫でて、撫でて、撫でまくる。
それから甘い声で囁いた。
「ねえ、イーリス。返事をしてよ」
「……っ」
そんなの、決まってる。
でも頭が燃えたみたいにパツパツして、口が動かない。
「ぷるぷるしてるね」
「……!」
「ああ……最近はケーキを食べていないから、元気が出ないんだね」
違う!
でも、ケーキはそろそろ食べたい。
すると突然、王子が切なそうに眉を顰めた。
「実は、城から連れて行く使用人のひとりが、クロードなんだ」
「……は、はい」
「君の体調管理だよ。僕は君がぽっちゃりしててもスラッとしてても、どっちも可愛いんだけど。健康的に長生きするってなると、好きなものを好きな時に好きなだけ食べてはいけないんだ。辛いよ。君の喜ぶ顔がたまらなく好きなのに」
「は、はい……」
「そんなわけだから、ほっぺた抓るくらいの痛みはあるんだ。ね、夢じゃないよ。僕と結婚してくれる?」
「あ……」
「っていうか、して。イーリス、僕の奥さんになってよ」
私はついに、叫んだ。
「はい!」
「やったー!」
ふたりで天を仰いで、また抱き合って、そして手をつないで、城を走った。
私はまずいちばんに王妃に報告したかったから。
王子と私が手をつないで部屋に駆け込むと、王妃はまだむっつりしていた。
「賑やかね」
「ああ、噂のイーリスですね。母上」
「……」
男版王妃がそこにいた。
その存在はもちろん、いくら私でも知っている。
第一王子エイベルが、王妃そっくりな顔でむっつりしている。
「おや、兄上じゃあないですか」
「ふん。ヨハン、お前が領主とはな」
「領地がないだけで、今までだって民をまとめて町を反映させてきましたよ。芸術家は気分屋や気難し屋や気にしいや繊細さんやイッチャッテル~な人とか、いろいろなんですから。手練手管は心得ています」
「母上。財務管理をひとりつけたほうがいいかと」
「もちろんよ」
親子喧嘩と兄弟喧嘩は、もう未知だ。
私は話している人に順々と顔を向けて、なりゆきを見守ると言うか、なりゆきに押し流される感じになる。
「まったく、浮ついたお前の顔を見なくて済むと思うと、そのイーリスには感謝しかないな」
「やめてください。兄上、僕のイーリスをそんなに安く見ないでもらいたい」
「あなたのイーリス?」
「そりゃそうでしょう。母上、結婚するんですよ?」
「ヨハン。イーリスを私の娘にしたくて結婚させるとは考えないの?」
「母上。浮かれヨハンにはそんな複雑な心理はわかりませんよ」
「そうよね、ごめんなさい」
やめて!
「待ってください! どうか皆さん、落ち着いて……!」
「あああっ、駄目だイーリス! 食べられちゃうよ!」
「えっ!?」
王子が私のお腹に腕を回し、軽々と持ち上げて部屋を出た。
「兄上は恐ろしく交戦的なんだ。どんなに澄まして座っていようとあれはいっつも、いっつもいっつも心の内で戦争してる。まったく、イーリスをあんな野蛮人と一緒の部屋に置いておけない。危なかった」
「……私の、お義兄様になる方ですよね……?」
「そう! ぞっとするよ」
「……」
そうだろうか。
王妃の息子で、王子の兄なんだから、絶対いい人に決まってる。
そんな事より王子にずっと抱きかかえられて、ニマニマしちゃう。
私、好きな人と結婚するんだ。
やったぁ♪
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