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3 病める時も健やかなる時も怒れる時も

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「え? ベルトラン伯爵???」


 バンジャマンがキョトンとして足を止める。
 ジャックは暗い憤怒を滾らせて、そのごつごつとした逞しい手をバンジャマンの肩に乗せる。そしてぐっと、ぐぅー……っと押して、私から剥がした。


「さすがベルトラン伯爵」

「?」


 バンジャマンの呟きに、私は次の悪夢の片鱗を見た。

 次の瞬間、バンジャマンは頬を染めて笑みを零した。


「さすがお目が高い。こちら、僕の婚約者のシモンヌです」

「違う」

「恐れながら、違いません。いくらあなたほどの男でも、深い愛の前には無力」


 私もいい加減キレている。
 夫のジャックが来てくれた事で、一気に力が沸いていた。


「3年前に婚約破棄されたの」

「そう! 3年の別離がふたりの愛をより一層深めたのです。どうか再会の邪魔をしないで頂きたい。あなたのシモンヌのところへお帰り下さい。シモンヌという妻を持つ男がもうひとりのシモンヌに下心を抱くなど洒落になりませんよ」

「洒落にならないのはあなたよ、バンジャマン」


 本当は叫びたい。
 怒鳴り散らしたい。

 でも私はジャックの妻、ベルトラン伯爵夫人。
 せっかくの晩餐会を無様にぶち壊したくない。

 威厳よ。
 最高の見本がそこにいる。


「あなたとは終わっているの。気安く触らないで。名を呼ばないで」

「ふふ、こんな事を言っております。可愛いものでしょ?」


 バンジャマンが得意気に肩を竦めて笑った。


「……」


 夫が憤怒をチャージしている。

 
「ではベルトラン伯爵、証人になって頂きましょう」


 悪夢、第3幕ね。
 私の手がわなわなと震えていても、きっと関係なく始まるわ。


「シモンヌ・シュペルヴィエル」


 バンジャマンが跪く。
 私とジャックが目で殺す勢いで見下ろそうと、高揚して頬を染めている。


「3年前に巻き戻す事はできないが、今日ここから始めよう。君を置き去りにした罪を、生涯かけて償わせてほしい。シモンヌ、愛している。どうか、もう一度、僕の想いを受け止めてほしい。結婚しておくれ──!」


 夫が無言で阿保を蹴った。


「いっ、痛い! なにをする!!」

「こっちの台詞だ馬鹿。人妻に夫の前で求婚するな」

「はあっ!?」


 バンジャマンが怒気を含んだ声をあげ、次の瞬間には蒼褪めた。


「えっ? じゃあ、ベルトラン伯爵夫人シモンヌって君?」


 無邪気な小動物のように目をぱちくりしている顔に、拳をぶち込んでやりたい気分だわ。


「そうよ。何度もそう言ったでしょ」


 私は忌々しく言葉を吐いた。
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