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番外編

王宮の庭_3

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 初めて言葉を交わしたとき、「彼女」はダークブラウンの髪を緩めに結って薔薇で飾っていた。とても綺麗に編み込んであるのを見て、式典のあとに行われる舞踏会のために、侍女が一生懸命準備したのだろうと思った。
 しかし、彼女がいるのは式典のある王室礼拝堂とは全く真逆。城の西端だった。

「そこで何をしている?」

 そう声を掛けると彼女が肩を震わせて振り返り、俺の顔を見てびっくりした表情で固まってしまった。目が大きくて、可愛いなと思った。
 彼女はとても綺麗な淡い緑色の瞳をしていて思わず見惚れた。青みをおびて光る瞳は、爽やかな初夏の青葉のよう。彼女が少し首を傾げたので、髪が揺れてふわりと薔薇の香りがした。
 しばらく見つめ合った後、彼女は困ったような、諦めたような笑みを浮かべて言った。

「迷子になったみたいです」

 式典は大聖堂で行われると聞き、一人で間違った方向に進んでしまったらしい。
 今日はこの国の第一王子の立太子式がある。
 つまり、公に俺の「王位継承権を一位と認める」式典がある。
 王室関係の行事はすべて王室礼拝堂で行われ、その後の舞踏会は「真珠の間」と呼ばれる大広間で行われる。通例だから、間違える者などいないはず。

「誰に聞いたか知らないが、それはわざと間違った時間と場所を伝えられたのでは?」

 俺がそう問うと彼女が笑った。悪戯っぽく、そして面白そうに。

「あとで『どうしていなかったの』とバカにされるでしょうが。どうせ、いてもいなくてもわかりませんし、騙されたふりをして庭でのんびりしようかと思っていたのです」

 嫌みでも僻みでもなく、本当に気にしていない様子だったので一人でいることを選択した彼女を正直羨ましいと思った。

「王子様も逃げますか?」
「……逃げようとしていた」
「逃げたくなる気持ちもわかります」

 彼女がそう笑って手招きする。彼女が動くと薔薇が香る。

「この林の向こうに、天然の池がそのまま残してあるのをご存知ですか?」
「いや、知らない……君はなぜそれを知っている?」
「うちのご先祖様が設計したそうです。もともとあった池を潰したり移動させたりせず、そのまま残して、池に棲む生き物たちが困らないようにしたと。祖父にそう教えてもらいました。秘密の花園には、秘密の池があるんだよ、と」

 王宮内は改築に次ぐ改築でとても広く、住んでいる自分でも行ったことがない場所がある。礼拝堂や執政・居住区から離れたこの庭の、小さな池など知るはずもなかった。
 俺の返事も聞かずに、彼女は楽しそうにてくてくと歩き出したので、何となくそれについて行った。式典の時間が迫っているから、母は慌てているだろう。しかし、今は彼女の話の方に興味があった。

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