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第十九話「抑制剤を買いに行きます」

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 約束通りの午前十時。
 カルヴェとグランが俺の部屋にやってきて、一緒に王宮を出た。

 繋ぎ場にとまっている馬車に乗り、王都へと向かう。
 王宮の外にある庭は広い。

 赤い薔薇やネモフィラ、ルピナスなどが咲き誇り、花の香りが心地良い。
 奥にはカゼボがあって、天井に蔦が絡まり緑を感じる。

 時々そこのカゼボで、学園を卒業する前などにゆっくり紅茶を飲んでいることがあったな。
 王宮を護衛しているグランとよく会って、他愛もない会話をしたっけ。

 庭を通り過ぎ、門番に門を開けてもらって街に入る。
 しばらく馬車に揺れていると、人混みが多く屋台で賑わうところに辿りついた。

 ちなみに俺たちが乗っている馬車には認識魔法をかけている。

 もし魔法をかけずに馬車を王都に走らせてしまうと、外側に描かれた大きな王家の紋章で、王族用の馬車だとわかってしまうからだ。

 だから、認識魔法で紋章を他人から見えなくさせている。
 これを施してくれたのはカルヴェだ。

 カルヴェは魔術に長けている。
 属性魔法だって、確か火や水、風、土など五つくらい有していたはずだ。

 属性魔法は普通の人間は一つしか持てない。
 もっと多くの種類の魔法を使いたいなら、難関試験に挑まなくてはならないのだ。

 カルヴェはその試験に何度も合格したというわけで……。

 さらに、普通の人間なら認識魔法は詠唱して行うはずなのだが、カルヴェは詠唱せずにぱっと作ってしまった。

 いつも冷静な顔からは想像できないけど……カルヴェは化け物級の魔力を持っているんだよな。

「見えてきましたよ。あそこです」

 隣に座っているカルヴェが指さす。
 そこは『オメガティエンダ』と書かれているお店で、狭い路地にあった。

 馬車では通れないから、繋ぎ場に一旦停めておく。

「殿下も行かれますか?」
「あ、うん……ちょっと興味あるかも」

 自分の性別の店なのだ。
 知っていて損はないだろう。

「でしたら、殿下に認識魔法をおかけしますね。一般の平民だと誰もが認識できるようにします。一応、グラン団長と私にもかけておきますね」

 カルヴェはそう言って俺とグラン、自分に認識魔法をかけた。

 認識魔法は魔力が高くないとできない。
 俺は学園で習ったけど、魔力が足りなくて全然できなかった。

 魔力は鍛え上げれば多く所持することができるが、鍛え方が少し違うのか俺にはあまり効果が見られない。

 カルヴェはその認識魔法を三人プラス馬車にかけている。

 確か、カルヴェは王宮魔術師にならないかとスカウトもされたとグランから話で聞いたことがある。

 だが、自分は俺を守る役目があるからと言って執事として現在までいるそうだ。
 一体どれほどの魔力がカルヴェの中に存在しているのだろう……。

 それに、どうしてカルヴェは俺のもとにいるのだろう。
 そのまま王宮魔術師になれば、出世して大金持ちになれたかもしれないのに。

「では、参りましょうか」

 カルヴェが俺より先に馬車を出て、俺に手を差し伸べる。
 俺はその手を取って馬車を降りた。

 店の中に入ると、そこには様々な種類の発情抑制剤や、首輪が売られていた。

 こじんまりとしたお店で、狭い路地の中にあるし少しわかりにくい。
 Ωを配慮してのことだろう。

「でん……アル、こちらが発情抑制剤でございますよ。発情期をコントロールできます」
「こっちが比較的安い抑制剤で、右にいくにつれて高価になっていきますよ。値段は効果の持続時間によって違うんです」

 カルヴェとグランが順に説明してくれる。
 抑制剤は小さな箱に入っていて、どれも少量だ。

 安いのは銀貨二枚から……比較的安い値段だ。
 多分、父様が大臣と話し合って王宮魔術師と交渉し、首輪と同じように値段を安く設定し直したのだろう。

「アルは一番右の抑制剤に致しましょう。私が出しますので」
「あ、ああ……ありがとう」

 この店は狭いから商人に会話が聞こえる。
 カルヴェがお金を持っている人間で、俺は普通の平民という設定なんだと思う。

 商人に抑制剤を二箱持っていき、会計を終える。
 カルヴェは抗フェロモン剤も購入していた。

 Ωの店に抗フェロモン剤が売っているというのは、Ωが購入してαに渡し、理解してほしいということなのだろう。

 商人がいるところの裏にはアフターピルが置かれていた。

 アフターピルはすごく高価で万引きされやすいことから、店頭に並ばせることは難しい。
 だから裏に置いてあるみたいだ。一応一箱買っておいた。

 首輪は買わなかった。
 俺が首輪をつけていたら、王子はΩですと言って歩いているようなものだからだ。
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