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第三十話「なるほど、お仲間ってわけか」
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◇◇◇
俺は殿下があんなΩの下等種と食事をしていることに心底腹が立っていた。
宰相の息子という俺との食事を断って、あんな淫売といる。ありえない。殿下は頭が悪いのか?
殿下とΩの男は仲睦まじく俺から離れた席で食事をしている。
何を話しているのかは聞こえないが、随分親しそうだ。
ああ、なるほど、あの男を殿下は番にしたいと考えているのだな。
番など、あの首輪を無理矢理外せばなれるだろうに。
それにΩの男に発情期が来れば、Ωは快楽に勝てる生き物ではないからすぐに番になれるだろう。
「まったく、発情誘発剤でも使えばいいだろうに。殿下ほどの身分であれば手にいれることくらい造作もないだろう」
俺は殿下たちが座っていた席を睨みつける。
「ん……?」
ふと、殿下が座っていた椅子の上に何かが置いてあるのが見えた。
忘れ物だろうか。ならばこれを届けに行くという口実でもう一度殿下と話すことができる。
屈んで覗くと、そこには……ある薬が置かれていた。
黄色の錠剤で、小さい。一錠だけ置かれている。
「これは……」
いうまでもなく、発情抑制剤だ。
これが殿下の席に置かれているということは……。
「なるほどな」
Ωの男と仲良くしていたのは番になるためじゃない。
お仲間だからだ。
俺は口角を上げながら錠剤を拾ってポケットに入れ、別の席で食事を摂った。
◇◇◇
昼食が食べ終わり、午後の授業も終わって学園を出ると、グランが馬車を繋ぎ場に留めて迎えにきてくれていた。
俺を認めると優雅にお辞儀をする。
「お疲れさまです、殿下。まずは剣を買いに行きましょうか。剣は中等部で購入したものしか持っていらっしゃらないんですよね?」
「ああ、そうだ」
「では、王都の武器屋に行きましょう。良い剣を買いましょうね」
馬車に乗って、王都へと走る。
御者から「申し訳ございませんが、馬車が渋滞しておりまして……」と言われたが、学園にいたときから慣れている。
この時間は帰る者が多いのだろう。
グランの言う通り、俺は中等部で父様から買ってもらった剣しか持っていない、らしい。
俺は高等部の頃に転生したからわからないが、一応剣は持っているそうだ。
だが中等部のものを今でも使うのはあまり良くない。
剣術の授業でも基本模造剣だ。本物の剣を握ったことがない。
だからグランと剣を買いに行くのだった。
高等部から今まで剣を持っていなかったのは、カルヴェやグランたちが守ってくれると思っていたからだ。
だが、成人してΩだとわかった今は、自分の身くらい自分で守らないと襲われてしまうだろう。
今日はカルヴェは王宮の掃除やら他の家事やらで忙しいから、グランに護衛を任せると言っていた。
もちろんグラン以外にも護衛はついている。
というか、カルヴェは俺と魔法の練習をするとき以外いつも掃除してるな。
神経質なのだろうか。
見た目もいつもピシッとしているし、若干潔癖があるのかもしれない。
「着きましたよ、殿下」
渋滞で時間はかかったが、無事武器屋に到着することができた。
馬車から下りると、二つの剣が交差された看板と旗が立っているのが見える。
窓ガラスからは剣や槍、弓などの様々な武器が飾られているのが見えた。
ドアを開けるとベルが鳴り、武器屋の商人がやってきた。
「これはこれは、王太子殿下とグラン団長ではありませんか! どうぞどうぞ、お気に召されたものを購入してくださいませ」
商人はグランばりにガタイが良くてタンクトップから美しい筋肉が見え、濃い髭が生えている。
腰の低さの割にはものすごく強そうな見た目だ。
「殿下は水魔法ですよね? でしたらこの辺りの剣がいいかと……」
グランが右端にずらりと並べられた剣を指さす。
商人が説明するには剣身が他の剣より少しだけ短く、その代わり刃が鋭く瞬時に魔物を切ることができるという。
「殿下はお手が小さいので、グリップの部分が細いものがよろしいかと思いますよ」
商人がニコニコしながら俺に持ってきたのは確かに柄の部分が細い剣で、とても軽かった。
「水魔法を付与する用の剣はですね、とても軽いのです。何故なら水はたくさんバケツに汲めば重いでしょう? それは剣も同じで、水魔法を付与すればするほど重たくなってしまいます。ですから、少しでも軽くなるようにしようと付与されていないときの水魔法用の剣は、とても軽く作られているのですよ。土魔法用の剣と同じくらい軽いです」
この国では、剣に自分の属性魔法を付与して戦う。
俺の属性は言わずもがな水魔法だから、剣の周りに水がついたり、剣の先から水が飛び出たりするはずだ。
商人が持ってきた剣はとても軽い。
それに柄も握りやすいし、振り回しやすいから、これにすると決めた。
万が一誰かに襲われそうになった場合、パニックで水魔法を付与させることができなかったときに剣が軽いと便利だ。
振り回せば当たるだろう。
しかも刃が鋭く魔物を簡単に切れるなら、人間にも怪我の一つや二つ作れるだろう。
罪に問われるかもしれないが、正当防衛だと言えば大丈夫……なはず。
商人は近衛騎士団の団長と王太子が来たことがよほど嬉しかったのか、帰り際に「またいらしてくださいね!」と何度も言っていた。
筋肉隆々だしいかつい顔ですごい怖そうなのに、剣について詳しく教えてくれるし見送ってくれるし、とても良い人だったな。
「それでは、王宮に帰って剣術の練習をしましょうか。殿下、お疲れではないですか?」
「ああ、大丈夫だ。早く剣術の練習がしたい」
大きな袋にしまわれた剣を見て、うずうずしてしまう。
これが、俺に与えられた剣。
やっぱりこういうファンタジーな剣でもしものときに戦えると思うとわくわくしてくる。
王宮に帰宅し、再び馬車で騎士団の練習棟へと向かった。
俺は殿下があんなΩの下等種と食事をしていることに心底腹が立っていた。
宰相の息子という俺との食事を断って、あんな淫売といる。ありえない。殿下は頭が悪いのか?
殿下とΩの男は仲睦まじく俺から離れた席で食事をしている。
何を話しているのかは聞こえないが、随分親しそうだ。
ああ、なるほど、あの男を殿下は番にしたいと考えているのだな。
番など、あの首輪を無理矢理外せばなれるだろうに。
それにΩの男に発情期が来れば、Ωは快楽に勝てる生き物ではないからすぐに番になれるだろう。
「まったく、発情誘発剤でも使えばいいだろうに。殿下ほどの身分であれば手にいれることくらい造作もないだろう」
俺は殿下たちが座っていた席を睨みつける。
「ん……?」
ふと、殿下が座っていた椅子の上に何かが置いてあるのが見えた。
忘れ物だろうか。ならばこれを届けに行くという口実でもう一度殿下と話すことができる。
屈んで覗くと、そこには……ある薬が置かれていた。
黄色の錠剤で、小さい。一錠だけ置かれている。
「これは……」
いうまでもなく、発情抑制剤だ。
これが殿下の席に置かれているということは……。
「なるほどな」
Ωの男と仲良くしていたのは番になるためじゃない。
お仲間だからだ。
俺は口角を上げながら錠剤を拾ってポケットに入れ、別の席で食事を摂った。
◇◇◇
昼食が食べ終わり、午後の授業も終わって学園を出ると、グランが馬車を繋ぎ場に留めて迎えにきてくれていた。
俺を認めると優雅にお辞儀をする。
「お疲れさまです、殿下。まずは剣を買いに行きましょうか。剣は中等部で購入したものしか持っていらっしゃらないんですよね?」
「ああ、そうだ」
「では、王都の武器屋に行きましょう。良い剣を買いましょうね」
馬車に乗って、王都へと走る。
御者から「申し訳ございませんが、馬車が渋滞しておりまして……」と言われたが、学園にいたときから慣れている。
この時間は帰る者が多いのだろう。
グランの言う通り、俺は中等部で父様から買ってもらった剣しか持っていない、らしい。
俺は高等部の頃に転生したからわからないが、一応剣は持っているそうだ。
だが中等部のものを今でも使うのはあまり良くない。
剣術の授業でも基本模造剣だ。本物の剣を握ったことがない。
だからグランと剣を買いに行くのだった。
高等部から今まで剣を持っていなかったのは、カルヴェやグランたちが守ってくれると思っていたからだ。
だが、成人してΩだとわかった今は、自分の身くらい自分で守らないと襲われてしまうだろう。
今日はカルヴェは王宮の掃除やら他の家事やらで忙しいから、グランに護衛を任せると言っていた。
もちろんグラン以外にも護衛はついている。
というか、カルヴェは俺と魔法の練習をするとき以外いつも掃除してるな。
神経質なのだろうか。
見た目もいつもピシッとしているし、若干潔癖があるのかもしれない。
「着きましたよ、殿下」
渋滞で時間はかかったが、無事武器屋に到着することができた。
馬車から下りると、二つの剣が交差された看板と旗が立っているのが見える。
窓ガラスからは剣や槍、弓などの様々な武器が飾られているのが見えた。
ドアを開けるとベルが鳴り、武器屋の商人がやってきた。
「これはこれは、王太子殿下とグラン団長ではありませんか! どうぞどうぞ、お気に召されたものを購入してくださいませ」
商人はグランばりにガタイが良くてタンクトップから美しい筋肉が見え、濃い髭が生えている。
腰の低さの割にはものすごく強そうな見た目だ。
「殿下は水魔法ですよね? でしたらこの辺りの剣がいいかと……」
グランが右端にずらりと並べられた剣を指さす。
商人が説明するには剣身が他の剣より少しだけ短く、その代わり刃が鋭く瞬時に魔物を切ることができるという。
「殿下はお手が小さいので、グリップの部分が細いものがよろしいかと思いますよ」
商人がニコニコしながら俺に持ってきたのは確かに柄の部分が細い剣で、とても軽かった。
「水魔法を付与する用の剣はですね、とても軽いのです。何故なら水はたくさんバケツに汲めば重いでしょう? それは剣も同じで、水魔法を付与すればするほど重たくなってしまいます。ですから、少しでも軽くなるようにしようと付与されていないときの水魔法用の剣は、とても軽く作られているのですよ。土魔法用の剣と同じくらい軽いです」
この国では、剣に自分の属性魔法を付与して戦う。
俺の属性は言わずもがな水魔法だから、剣の周りに水がついたり、剣の先から水が飛び出たりするはずだ。
商人が持ってきた剣はとても軽い。
それに柄も握りやすいし、振り回しやすいから、これにすると決めた。
万が一誰かに襲われそうになった場合、パニックで水魔法を付与させることができなかったときに剣が軽いと便利だ。
振り回せば当たるだろう。
しかも刃が鋭く魔物を簡単に切れるなら、人間にも怪我の一つや二つ作れるだろう。
罪に問われるかもしれないが、正当防衛だと言えば大丈夫……なはず。
商人は近衛騎士団の団長と王太子が来たことがよほど嬉しかったのか、帰り際に「またいらしてくださいね!」と何度も言っていた。
筋肉隆々だしいかつい顔ですごい怖そうなのに、剣について詳しく教えてくれるし見送ってくれるし、とても良い人だったな。
「それでは、王宮に帰って剣術の練習をしましょうか。殿下、お疲れではないですか?」
「ああ、大丈夫だ。早く剣術の練習がしたい」
大きな袋にしまわれた剣を見て、うずうずしてしまう。
これが、俺に与えられた剣。
やっぱりこういうファンタジーな剣でもしものときに戦えると思うとわくわくしてくる。
王宮に帰宅し、再び馬車で騎士団の練習棟へと向かった。
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