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第166話 アホな子って可愛いよね!

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 夏子さんの妊娠発覚から数日、主夫としての血が騒いだボクですが、家事を張り切り過ぎてしまったため外の空気を吸って来いと追い出されてしまったのです。

 そして気分転換にケーキを仕入れて近所に住む双子ちゃんの家にアポ無しで突撃したのでした。

 双子ちゃんの驚く顔を思い浮かべてピンポンしたら、知らないお姉さんが出て来ましたよ?

「おっそ~い! やっと来たわね~。って、あらー、想像以上の上玉じゃな~い!! さあ入って入って!」

「え、あれ、あのあの?」

 玄関ドアの中から現れたのはスレンダーな女性です。ちょっと目の下にクマが出来てるけど、スポーティなスタイルな美人さんです。双子ちゃんのお姉さんかもしれませんね。

 ボクはお姉さんに手を引かれてお家の中に連れて行かれてしまったのです。お部屋は掃除が行き届いているようで、テーブルとソファーも綺麗です。

 双子ちゃんはお出掛け中なのでしょうか? 良く分からないけどお姉さんに案内された椅子に座りました。ドキドキ。

「何飲む? コーヒー、紅茶、緑茶、ジュース何でも言ってねー」

「あ、じゃあ紅茶でおねがいしますー」

「おっけー、アイスで良い?」

「だいじょうぶでーす」

 双子ちゃんのお姉さんと思わしき女性がキッチンでカチャカチャと飲み物を用意してくれています。ふーむ、この状況は一体どういう事なんだろうか?

 そう言えば最初のお姉さんの発言を思い出した。確か『想像以上の上玉じゃな~い!!』って言っていました。つまりこのお姉さんは双子ちゃんからボクの事を聞いていたって事だ。そして何らかの方法でボクが来ることを察知したのでしょう。そうに違いない!

 お姉さんがアイスティーを持って来てくれました。よし、ここでケーキの登場だ!

「あの……これ買ってきたので良かったらどうぞ」

「わー! いいの~? ありがとシュナイダー君ユウタ君!! お皿用意するね、ちょっと待っててー!」

「うぇっ!?」

 い、今このお姉さん、ユウタって言いました? もしかしてボクの正体は双子ちゃんにもバレているって事でしょうか!? まあ双子ちゃんにならバレても問題ないよね。だってズッ友だし!!

 お友達のお姉さんって事は、すなわちボクともお友達って事ですね。よし、こうなったら気にせず仲良くなろう。お姉さんとも仲良くなったら双子ちゃんと合わせて4人でゲームが出来ますからね!

「おまたせー。美味しそうなケーキだね、チョコ貰うね~」 

「遠慮なくどうぞー」

 ボクもチーズケーキを頂きました。お姉さんも美味しそうにケーキを食べています。そろそろ仲良し大作戦でもやろうかな! まずは自己紹介ですね。

「そう言えばお姉さんのお名前は何て呼べば良いですか?」

「んー、スミレって呼んでー」

「分かりました。スミレさんですね!」

 ふむふむ、このスレンダーなお姉さんはスミレさんですか。幸せそうにケーキを食べています。よし、次の質問だ!

「今日は双子ちゃん二人は居ないんですか?」

両親二人? あたしだけだよー?」

「あ、そうなんですねー」

 むむむ? あのスペシャルな警備員である二人が自宅に居ないとはどういう事でしょうか。もしかして今日は自宅警備のお仕事はお休みでファミレスに行ってハンターやってるのかな!? くっ、入れ違いだったのか。

 残念ですが、今日はこのお姉さんと親睦を深める事にしましょう。念願の4人パーティーまで後1人なのです!!




 それからボクは、必死にお姉さんの情報を得ようとコミュニケーション能力をフルで発揮して情報収集を行いました。

「お姉さんスポーツとかやってるんですか? スラっとしてカッコイイですね!」

「あはっ、分かるー? 去年までバスケやってたんだー。今は仕事が忙しくて週末くらいしか出来ないんだけどねー」

「バスケットボールですか、楽しそうですねー!」

 バスケは体育の授業でやった事あるけど、ドリブルが難しいよね。ボールから目を離してダムダムしてると手からボールが無くなっちゃうのです。このお姉さんは上手そうですね。

 そしてお仕事の話が出ました。ボクの周りにいる女性はお医者さんとナースさん、自営業の人かな? あとはスペシャルな警備員と会社の広報部に勤める姫ちゃん先輩くらいだね。このお姉さんのお仕事は何でしょうか? ボク、気になります!!

「あのあの、お仕事は何をやってるんですか?」

「………………仕事?」

「え、あ、あれっ? スミレさん……?」

 お仕事の話題を振ったら顔を伏せて暗い感じになっちゃいました。あああっ、そうか。双子ちゃんがあんな感じだから仕事の話題はNGだったのか!?

「あのあのっ、仕事なんてしてなくても生きてるだけで偉いですよねっ! うんうん、偉い偉い」

「……偉くなんて無いわよ。あたしはビール会社に勤めてんの。キリリンビールってメーカー知ってるでしょ? あそこの広報担当なのよ。でもね、サンガリーがユウタとコラボしてから業績が好調な中、うちはボロボロよ。上司もユウタとコラボ取って来いって無茶振りばっかりだし、もうユウタにはウンザリよ!」

「スミレさん……」

 あの、本人を前にユウタの悪口は良くないと思いますよ? もう胸にグサッグサッって刺さりました。『つぶやいたー』で悪口言われるよりも大ダメージです!!

 キリリンビールって桜さんが好きなビールな気がした。普段は日本酒だけど、たまにキリリンビールを買っているのです。夏子さんはサンガリービールだけどね。

 さて、この暗い雰囲気を払拭するにはどうしたら良いのだろうか? ボクがキリリンビールのCMに出れば良いのかな? というかキリリンビールからオファーが来てるなんて知りませんよ?

 混乱していたところ、スミレさんが立ち上がりボクの手を引いて来た。

「行くわよ」

「えっ、あ、あの……スミレさん?」

 有無を言わさぬ雰囲気を纏ったスミレさんに連れられた先は、寝室でした。寝室の奥にはベッドがあり、部屋からは甘い女性の香りが漂ってきます。

「じゃあ契約通りしっかりとお願いね。あなた演技には凄い自信があるようだけど、間違いないのよね?」

「え、演技ですか!? 演技なら任せて下さいっ!! もう臨場感溢れるナイスな演技が出来ますよー!」

「ほんとぉ? あんまり演技上手そうに見えないんだけど…………まあいいわ。期待してるからね」

「えへへ、お任せあれ~」

 なるほど、スミレさんはボクの演技を見たかったのですね。つまりこれはキリリンビールのCM出演のための試験って事ですね!! はは~ん、分かったぞ。双子ちゃんが気を利かせてボクにお仕事のチャンスをくれたんですね。スミレさんに会ったら即試験スタート、アドリブを利かせた演技を見て見たいとかそんな感じだね。

「ところでスミレさん、ボクはどんな演技をすれば良いですか? 一応キリリンビールクライアント側との齟齬が無いように確認しておこうかなって思います」

「……そうね。これからやるテーマは……ユウタへの復讐よ!!」

「ふぁっ!?」

 ユウタへの復讐を演技ですか!?

「バックストーリーはこんな感じ。ユウタに関する事で業績が落ちてストレスを抱えた美女OLのスミレ、彼女は今日も上司にボロクソに理不尽な要求を言われて心身共にズタボロになってしまった」

「ふむふむ……」

 確かにスミレさんは美人ですが、自分で美女OLって言っちゃいますか?

「終電を逃して途方に暮れてしまったスミレ。ふと辺りを見渡せば、女装したユウタが駅から出て来るのが見えた。ユウタの女装姿なんて見た事ないけど、スミレには確信があった。あれはユウタだと!」

「ほほう?」

 今のところユウタの女装姿はアップされてないはずなのでバレてないと思います。まあそういうバックストーリーって事ですね!

「彼を見た瞬間、彼女の中に燻る黒い感情が爆発した。そしてコッソリと尾行して自宅マンションに辿り着いた。彼が部屋のドアを開けた瞬間、ユウタを押し倒す勢いでシュババッと部屋に潜り込んだスミレ。それから起こる悲劇はまだ誰も知らない……。こんな感じよー」

「す、凄いです!! 何か凄い事件な香りがしますね!!!」

 ユウタが犯罪に巻き込まれてレイプされちゃう感じでしょうか? ふふーん、ボクがスミレさんに責められてアンアンする演技をしてれば良いんでしょ? 楽勝じゃないか!!

「ふふふ、高い金が掛かってるからね。しっかりと臨場感溢れる演技をお願いね?」

「分かりましたー!!」

 もしかしてCMのオファーじゃなくて映画のオファーなのか!? 高い金が掛かってるって言ってたし、本番の映画の脚本は既に出来ているって事っしょ! きっとキリリンビールが提供する映画なのだろう。

 あらすじを聞いた感じだと、ユウタが襲われてあんな事やこんな事になっちゃうのだ。ボクは恐怖に怯えながらも抵抗出来ずに快楽を受け入れてしまう、そんな感じの演技をすれば良いって事ですね!!

 この試練を乗り越えた先にお仕事のチャンスが待っているのですね!!

「じゃあ一度部屋を出て、部屋に入ったらスタートよ。あたしを満足させて頂戴ね?」

「頑張りますっ!!」

 ユウタの映画主演のための試練が今始まる!!!
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