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婚約破棄
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この目でしっかり見てしまった。
禁断の場面を。
ジョフレイはマーニャとキスをしていた。
そして、この耳で聞いてしまった。
「愛しているよ」
と。
エマヌエラはジョフレイの部屋に怒鳴り込みに行こうと決めた。
エマヌエラはローレンシア邸でジョフレイと同棲していた。
エマヌエラの部屋は妹のセーラが使っていた部屋だ。
セーラは結婚し、現在は2児の母。
嫁と小姑は確執を起こすものだが、エマヌエラはセーラと仲良しだ。
ちなみに、確執の王道くれば嫁姑だが、やはりジョフレイの母エリーザベトとは仲が良い。
(この事はバーバラ様にもお話しないと!! 大事《おおごと》よね)
部屋の外では鳥がさえずっている。
秋の弱い日差しが窓から差し込む。
部屋は整理整頓されている。
壁には黄金の縁に嵌め込まれた鏡と絵画が飾られている。
鏡も絵画も婚約が成立してから、ジョフレイに貰ったものだ。
「いいわ。いずれローレンシア邸を出ていくことには変わりない。だから、こんなもの、邸に置きっぱなしにしてやるわ!!」
エマヌエラはよそ行きの服に着替えた。
そのままシモンチーニ邸に戻るつもりでいるからだ。
エマヌエラはジョフレイの部屋の前に着いた。
声が聞こえる。
そう、ジョフレイとマーニャの声が。
(マーニャを自室に連れ込むなんて。しかも朝っぱらから)
これはお泊りだな?
(いつの間にマーニャが)
エマヌエラの知らないところで、こそこそとマーニャを邸に招き入れていたのだ。
婚約者がいるというのに。
しかも、堂々と!!
エマヌエラは許せなくなった。
これは怒鳴り込まずにはいられない。
エマヌエラはジョフレイの部屋のドアを乱暴に開けた。
「ちょっとジョフレイ様!!」
「どうした、エマヌエラ」
エマヌエラは我が目を疑った。
なんと、二人は裸だったのだ。
裸ということは勿論、やることはやっている筈だ。
怒りは頂点に達した。
「どういうことなんですの、ジョフレイ様。ご説明願えますか?」
「俺、今忙しいんだ。話があるなら、後にしてくれないか?」
先延ばしされるのはわかっている。
ジョフレイには先延ばし癖があるからだ。
「だったら、今すぐ着替えてくれませんこと?」
「だから、後にしてくれって」
「後? とんでもありませんわ! 今お願いします!!」
「ああ、わかった。今着替えるから待ってろ!」
エマヌエラは部屋のドアを一旦締めた。
どういうつもりなのか?
ますますこのことについて話が聞きたくなった。
「ああ、いいぞ、エマヌエラ」
着替えが終わったのだろう。
エマヌエラは部屋のドアを再び開けた。
「朝っぱらからなんだよ、お前、どうかしているよな。知っていると思うけど、俺、低血圧だから朝は苦手なんだよ」
「何が低血圧よ。低気圧の間違いじゃないの? って今日は晴れだけど」
「話ってなんだよ。どうせ、他愛もない話だろ?」
ジョフレイはそう言ってマーニャと顔を合わせた。
「いいえ。違いますわ。ジョフレイ様。どうしてマーニャと一緒にいるんですの? 私との婚約はどうなったんですの?」
エマヌエラはこれみよがしに婚約指輪を見せつけた。
「いや、マーニャとはただの友達で……」
怒り心頭!!
ただの友達でお泊りつきで素っ裸。
そんな馬鹿な話はない。
「すっとぼけないで下さいな。何が『ただの友達』なんですの? わたくし、見てしまったんです。ジョフレイ様とマーニャが抱き合っているのを。聞いてしまったんです。ジョフレイ様がマーニャに『愛している』と言ったのを」
「何かの間違いじゃないのか?」
意地でもしらを切るつもりだ。冗談ではない。
「とぼけるのもいい加減にして下さいな。ただの友達をなぜ部屋に招き入れるんですか? しかもなぜ裸で?」
「お泊りじゃないよな、マーニャ」
「そうですわ。私は早朝にきたんですわよ」
「じゃあ、グレンに聞いて良いかしら?」
グレンとは執事のことだ。
執事なら、マーニャがいつ来たか知っている筈だからだ。
「いいぞ。聞けば?」
「それはともかく……。マーニャもマーニャよ」
怒りの矛先はジョフレイだけではない。
マーニャにもある。
「何言っているんですか? あなた、被害妄想強いわね」
「そもそもマーニャ! あなた、わたくしがジョフレイ様と婚約していること、知っていたはずでは?」
王侯貴族が婚約すると、まず、新聞に載る。
知らないわけが無い。
「知っていますわ。でも、友達なんですよ、ただの友達」
「それからね、わたくし、聞いてしまったの。ジョフレイ様、あなた言いましたわね。わたくしのこの声が気に食わない。身長が高すぎる、唇が厚いと。わたくしのコンプレックスを挙げてくれたではありませんか」
「ああ。もうこの際言っちゃうよ。確かに俺より身長が高いのは気に食わない。俺よりも背が高いなんて何だかみっともないからな。それから声。お前のハスキーボイスも分厚い唇も気に入らない。俺は自分よりも身長が低くて、声が高くて、唇の薄いマーニャの方が好きなんだ!!」
「言いましたわね。それが本音なんですね」
「ああ、これが俺の本音だ。な、マーニャ」
「そうですわ。エマヌエラ様、あなたはジョフレイ様に嫌われたの。それにやっと気づいたのね。それに……私のお腹には新しい命が宿っているの」
「「え?」」
エマヌエラは我が耳を疑った。
まさか妊娠していたなんて。
「お……お前!?」
「ジョフレイ様も知らなかったみたいね」
「妊娠……ね。じゃあ、この婚約はどうするおつもりなんですの?」
「ああ、婚約は破棄する!!」
「破棄ですって? 受け入れられませんわ!! メン様とエリーザベト様にはどう説明するのです?」
メンとはローレンシア公爵当主でジョフレイの父。
エマヌエラは腕を組み、右腕で頭を抱えた。
「どうした、エマヌエラ。怖気づいたか?」
「わたくしは御婦人、そしてセーラ様とも仲良しですわ。裏切ることになりますわ」
「それは俺の方から説明させていただく。まぁ、所詮は政略結婚だからな。こうなることも理解しているだろうよ。わはははは」
(笑い事じゃないでしょ?)
「良いですわ。婚約破棄、受け入れますわ。わたくしがジョフレイ様から頂戴した絵画と鏡は置いていきますわ。荷物になりますから」
「ふん、好きにするといいさ。その婚約指輪はお前にくれてやら。ま~俺があげたものには変わりないからな。煮るなり焼くなり好きにすると良い。わはははは」
「さようなら、ジョフレイ様。わたくしはこの話をエリーザベト様にお話致します」
禁断の場面を。
ジョフレイはマーニャとキスをしていた。
そして、この耳で聞いてしまった。
「愛しているよ」
と。
エマヌエラはジョフレイの部屋に怒鳴り込みに行こうと決めた。
エマヌエラはローレンシア邸でジョフレイと同棲していた。
エマヌエラの部屋は妹のセーラが使っていた部屋だ。
セーラは結婚し、現在は2児の母。
嫁と小姑は確執を起こすものだが、エマヌエラはセーラと仲良しだ。
ちなみに、確執の王道くれば嫁姑だが、やはりジョフレイの母エリーザベトとは仲が良い。
(この事はバーバラ様にもお話しないと!! 大事《おおごと》よね)
部屋の外では鳥がさえずっている。
秋の弱い日差しが窓から差し込む。
部屋は整理整頓されている。
壁には黄金の縁に嵌め込まれた鏡と絵画が飾られている。
鏡も絵画も婚約が成立してから、ジョフレイに貰ったものだ。
「いいわ。いずれローレンシア邸を出ていくことには変わりない。だから、こんなもの、邸に置きっぱなしにしてやるわ!!」
エマヌエラはよそ行きの服に着替えた。
そのままシモンチーニ邸に戻るつもりでいるからだ。
エマヌエラはジョフレイの部屋の前に着いた。
声が聞こえる。
そう、ジョフレイとマーニャの声が。
(マーニャを自室に連れ込むなんて。しかも朝っぱらから)
これはお泊りだな?
(いつの間にマーニャが)
エマヌエラの知らないところで、こそこそとマーニャを邸に招き入れていたのだ。
婚約者がいるというのに。
しかも、堂々と!!
エマヌエラは許せなくなった。
これは怒鳴り込まずにはいられない。
エマヌエラはジョフレイの部屋のドアを乱暴に開けた。
「ちょっとジョフレイ様!!」
「どうした、エマヌエラ」
エマヌエラは我が目を疑った。
なんと、二人は裸だったのだ。
裸ということは勿論、やることはやっている筈だ。
怒りは頂点に達した。
「どういうことなんですの、ジョフレイ様。ご説明願えますか?」
「俺、今忙しいんだ。話があるなら、後にしてくれないか?」
先延ばしされるのはわかっている。
ジョフレイには先延ばし癖があるからだ。
「だったら、今すぐ着替えてくれませんこと?」
「だから、後にしてくれって」
「後? とんでもありませんわ! 今お願いします!!」
「ああ、わかった。今着替えるから待ってろ!」
エマヌエラは部屋のドアを一旦締めた。
どういうつもりなのか?
ますますこのことについて話が聞きたくなった。
「ああ、いいぞ、エマヌエラ」
着替えが終わったのだろう。
エマヌエラは部屋のドアを再び開けた。
「朝っぱらからなんだよ、お前、どうかしているよな。知っていると思うけど、俺、低血圧だから朝は苦手なんだよ」
「何が低血圧よ。低気圧の間違いじゃないの? って今日は晴れだけど」
「話ってなんだよ。どうせ、他愛もない話だろ?」
ジョフレイはそう言ってマーニャと顔を合わせた。
「いいえ。違いますわ。ジョフレイ様。どうしてマーニャと一緒にいるんですの? 私との婚約はどうなったんですの?」
エマヌエラはこれみよがしに婚約指輪を見せつけた。
「いや、マーニャとはただの友達で……」
怒り心頭!!
ただの友達でお泊りつきで素っ裸。
そんな馬鹿な話はない。
「すっとぼけないで下さいな。何が『ただの友達』なんですの? わたくし、見てしまったんです。ジョフレイ様とマーニャが抱き合っているのを。聞いてしまったんです。ジョフレイ様がマーニャに『愛している』と言ったのを」
「何かの間違いじゃないのか?」
意地でもしらを切るつもりだ。冗談ではない。
「とぼけるのもいい加減にして下さいな。ただの友達をなぜ部屋に招き入れるんですか? しかもなぜ裸で?」
「お泊りじゃないよな、マーニャ」
「そうですわ。私は早朝にきたんですわよ」
「じゃあ、グレンに聞いて良いかしら?」
グレンとは執事のことだ。
執事なら、マーニャがいつ来たか知っている筈だからだ。
「いいぞ。聞けば?」
「それはともかく……。マーニャもマーニャよ」
怒りの矛先はジョフレイだけではない。
マーニャにもある。
「何言っているんですか? あなた、被害妄想強いわね」
「そもそもマーニャ! あなた、わたくしがジョフレイ様と婚約していること、知っていたはずでは?」
王侯貴族が婚約すると、まず、新聞に載る。
知らないわけが無い。
「知っていますわ。でも、友達なんですよ、ただの友達」
「それからね、わたくし、聞いてしまったの。ジョフレイ様、あなた言いましたわね。わたくしのこの声が気に食わない。身長が高すぎる、唇が厚いと。わたくしのコンプレックスを挙げてくれたではありませんか」
「ああ。もうこの際言っちゃうよ。確かに俺より身長が高いのは気に食わない。俺よりも背が高いなんて何だかみっともないからな。それから声。お前のハスキーボイスも分厚い唇も気に入らない。俺は自分よりも身長が低くて、声が高くて、唇の薄いマーニャの方が好きなんだ!!」
「言いましたわね。それが本音なんですね」
「ああ、これが俺の本音だ。な、マーニャ」
「そうですわ。エマヌエラ様、あなたはジョフレイ様に嫌われたの。それにやっと気づいたのね。それに……私のお腹には新しい命が宿っているの」
「「え?」」
エマヌエラは我が耳を疑った。
まさか妊娠していたなんて。
「お……お前!?」
「ジョフレイ様も知らなかったみたいね」
「妊娠……ね。じゃあ、この婚約はどうするおつもりなんですの?」
「ああ、婚約は破棄する!!」
「破棄ですって? 受け入れられませんわ!! メン様とエリーザベト様にはどう説明するのです?」
メンとはローレンシア公爵当主でジョフレイの父。
エマヌエラは腕を組み、右腕で頭を抱えた。
「どうした、エマヌエラ。怖気づいたか?」
「わたくしは御婦人、そしてセーラ様とも仲良しですわ。裏切ることになりますわ」
「それは俺の方から説明させていただく。まぁ、所詮は政略結婚だからな。こうなることも理解しているだろうよ。わはははは」
(笑い事じゃないでしょ?)
「良いですわ。婚約破棄、受け入れますわ。わたくしがジョフレイ様から頂戴した絵画と鏡は置いていきますわ。荷物になりますから」
「ふん、好きにするといいさ。その婚約指輪はお前にくれてやら。ま~俺があげたものには変わりないからな。煮るなり焼くなり好きにすると良い。わはははは」
「さようなら、ジョフレイ様。わたくしはこの話をエリーザベト様にお話致します」
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