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王都編
愛しき人よ。朱雀の乱心
しおりを挟む我の何が間違いだったのか。
神玉に口付けられた。それは我の全てをグレースが受け入れ、グレースも我が物となった証。故に実体を得た。なのに、なのにだ。何故私は神界で磐長姫に怒られ、正座をさせられているのか。
「ちょっとぉ、朱雀ちゃん!だめよぅ。恋人にもなってないのに伴侶なんて言って!!めっ!悪い子!」
「何を言う。グレースは我と永遠を誓った。」
これは純然たる事実だ。
こんなやり取りを半日続けているが意味はあるのだろうか?それよりも早くグレースの元に帰りたい。
頭を掻きむしりながら、磐長姫は目を血走らせた。
両手を上下にバタバタと振り回してキーキーと唸っている。
言葉と地上の常識が通じずイライラが溜まり、ニニギに当たり散らす。
「ちょっとぉ!ニニギぃ!全然伝わらないんだけど!」
「わかった、わかったから!扇子で叩くなよぉ~。」
「あのな、朱雀。グレースの常識を教えてやる。」
「グレースの常識?どういう事だ。」
「あのな、お前の常識ってのは、神玉に口付け=伴侶ってことだろ?」
「そうだ。故にこの身体を得た。この姿はグレースの望む姿だ。」
「んで、グレースの常識を教える。」
「わかった。」
「1、お友達になる。」
朱雀はウンウンと頷く。
「2、恋人になる。」
そして小首を傾げ、眉間に皺が寄る。
「恋人とは何だ?」
磐長姫は舌打ちした。
「この段階でハテナかよ!!」
「口が悪くなってるよ。磐長姫。そうだな、お互いが好き合って相性を見る期間のこと!朱雀が分かるよう言うならね!」
「な、なるほど?」
「3、結婚を考える」
朱雀はさらに混乱を極めた表情になる。
「何故だ?相性を見て付き合っていると言う事は結婚のつもりがあるのでは無いのか?」
「その間に、別に好きな奴が出る事もあるし、状況が許さない事もある。付き合いは良いが、縛られたく無いから結婚はしたくない。と言う考えもある。だから、付き合う=結婚もオッケーじゃ無いんだ。」
「君ほど人は一途では無いんだよ。朱雀。愛より優先するものがあれば総じて愛を捨てられるのが日本人だよ。まぁ、全員じゃ無いけどグレース世代はそうじゃない?」
「な、んだ、、と?私は捨てられるのか?」
「極端だな、おい。で、最後に」
「4、結婚する。」
何故かパァと表情が明るくなる。ニニギは半目で、「何でだよ!」と叫びそうになるのを堪えた。
「で、この4ステップを踏んで伴侶になるのが当たり前だという常識をグレースは持ってる。だから朱雀の常識には嵌まらない。現段階で朱雀は1の段階にも登ってない。」
「な!!待て!!キスも抱擁もして餌付けまでしているのに!」
「それ獣の考え!餌付けって雛じゃないんだから!仮にも神獣がそんなんでどうするんだよぅ!」
「それにな、グレースのどこをお前は好きになった?性格だってわかってないじゃん。」
「本能だ。」
「……。あ、そう。そうくるか。」
「でも、グレースはその本能をお前に感じて無いみたいだぞ?」
「そんな事はない!旅には我が必要だと泣きながら訴えていた!」
「いやいや、泣いて無かったよ。何のフィルター掛かってんの?それ。」
ああ言えばこう言う。本当にニニギと言う男には腹が立つ。
しかし、グレースは我を伴侶とは思っていないと言うではないか!何とか師事して教えを乞わねば!
「ど、どうすればグレースを伴侶に出来る!教えろニニギ、磐長姫!」
それから3日間、天岩戸に三柱は籠った。しかし、誰も呼びに来てくれず、疲労から扉岩を開けれず閉じ込められたとか、なかったとか。
何とか人の常識の一端を理解出来た朱雀は、意気揚々と愛しのグレースの元へ飛び立った。
「マジで選択間違ったわ。麒麟にしとけば良かった。」
「本当よぅ!単細胞もいいとこよぅ。グレース可哀想ぅ~大丈夫かなぁ?」
二人は項垂れて、朱雀の後ろ姿を見送った。
「待っていろ!我が愛しのグレースよ!!!」
愛の焔は鎮火する事なく、更に燃え上がりグレースへと向かった。
朱雀はグレースへの愛を確信した。
溢れる気持ち、抑えきれない高揚感。
身体が軽い。この素晴らしさを世界に知らしめたい。
星々をクルリと回って一鳴きすると、朱雀はグレースの元へと帰っていった。
愛は世界を救う。
はずだったが、愛で燃え上がった朱雀の焔の種火が地球では、各地に山火事や竜巻がおき、大災害を引き起こしていた。
そして、グレースの窮地に間に合わないという失態を犯したのだった、
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