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心の枷編
熱いお茶が冷めた時
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沈黙のままお茶会が始まった。
ヤルダも主催者にも関わらずお茶を啜るばかりで
何かを話し出す気配も無い。
——— えーーー。。ナニコレ。私達なんの為にここに来たわけ?
——— 知らないよ!もういいんじゃん?このお茶のんで、そこのお菓子食べたら帰ろう?
すると、後ろからルーナが耳傍でボソボソと声をかけながら
手首を掴んで持ち上げた。
「グレース様。グレース様からお言葉を始めてください。」
ルーナは周りの視線からマナーを知らないグレースを庇う様に
フォローを入れた。
「今日は緑が強いので、色を足させて頂きました。ご気分は如何ですか?」
「え?あ、えぇ、ありがとう。ルーナさん。青が気持ち良いですね。助かりました。」
ルーナは跪き手の甲にキスをしてから後ろに下がった。
———!?そんなルールが?
——— 最初から教えておけよヴィクのやつ!
「んんっ!ゴホン。大変失礼しました。私も些か緊張しておりまして、不作法でしたね。」
「本日、四家の皆様がおいでのようですがこのお顔ぶれ、如何なさったのですか?」
グレースの言葉を合図に、四家が我先にと会話を始めた。
色々と話を聞いたが、結局の所、単純に、明快に、
「俺・私・僕を(の子供を)守護者に加えて欲しい」という
お願いごとの一点に尽きた。
彼らは今回の騒動で莫大な損害を被り、再建に必死であった。
神への信仰心だけでは生きてはいけない。
そんな当たり前の事を皆、思い出したようであった。
しかし、この世界で神と人間は切っても切れないのも事実。
各家ともにグレースの加護を欲していた。
そんな彼らの焦りをヤルダは静かに、燃える様な眼差しで
見つめている。
「皆さん。私がこの世界に来たのは、テュルケット様が作り上げた物を維持する為ではありません。生も死もすべては森羅万象の中。故に世界は愛おしい。私はこの星を守る事以上の事をするつもりはありません。」
「それに、旅が終われば、私は守護者の方々を解放するつもりでいます。」
この言葉に、グレースの後ろに座っているビクトラ達がビクっと肩を震わせた。
すると、ヤルダの目がグレースを食い殺さんばかりの殺気を纏って向けられた。
「それは。どういう事でございましょうや」
パキパキと足元の芝生が凍ってゆく。
「兄上!」
ビクトラが声をあげた。しかし、都はそれを手をあげて制した。
「言葉通りです。私の守護者を辞めて頂きます。」
「なぜだ。返答如何によってはいくら神であろうと私は許さない。」
「私が先程、なんのためにこの世界に来たか。お覚えですか?」
「…。この星を守るため。で、ございましたな。」
「そうです。そして、この星の存続以外の事に手は貸さない。そう申し上げました。」
グレースとヤルダはそれでも睨み合いを続け、次第にヤルダの怒りが強みを増した。
「では、なんの為に我が弟を篭絡した!アレには婚約者もいたのだぞ!そして、貴方様の行った事によって婚約者殿は命を絶とうとまでしていた。これをどう責任とるおつもりですか?」
都は酷く冷静だった。ヤルダの氷のおかげではない。
生前の世界で同じような経験をしていたからだ。
大学生の頃、サークルの先輩に告白されて付き合ったら
彼女がすでにいて、知らずに告白されて付き合った私が
攻撃された。あぁ、懐かしい。そんな事を考えていた。
「自殺をしようとしたのは、ビクトラ様を愛していたから?それとも予言から外れてしまったから?どちらでしょうか」
ヤルダは当たり前の様な顔をして「両方だ」と答えた。
「私がビクトラ様を守護者としたのは、白虎の神核を持っていたから。ただそれだけです。」
その言葉にビクトラは歯を食いしばり膝の上の拳に力を入れた。
「ただ、それ以上に私とビクトラ様は互いが必要でした。神としての力を捨てても良いとさえ思った。」
「この引力にご婚約者様が勝てたのならば、その時はお返し致しましょう。」
その言葉にビクトラは天を仰いで目を瞑る。
しかし、ヤルダは納得しない。テーブルを拳で叩きながら吐き捨てた。
「なんとも自分勝手な神も居たものだ!テュルケット様とは大違いだ!当家の破滅をお望みか?」
その場に居た大公や客人も、何度もヤルダを諫めるが
武人の怒りを抑える事は難しかった。
「お家の事を申されているのでしたら、それこそ貴方様の方が自分勝手でらっしゃる。神にすべてを投げ出し、責任を放棄なさるのですね。」
「猶更、ビクトラ様をお返しする事は難しくなりましたね。ご婚約者様もお可哀そうに。」
「皆様も、神頼みで生きる事をお望みでしたら、天界にてお過ごしになられると宜しいでしょう。」
「生きる、事の意味。どの程度ご理解されてらっしゃるのでしょうね。我々神仏は、遊戯の駒が欲しいのではないのですよ?」
ヤルダは唸る以上の事が出来ずに大公に部屋へ戻された。
やっとこの悪趣味なお茶会がおわるのか。
そう思ったら溜息がこぼれた。
「加護を授ける事はできませんが、一つお約束致します。巡行の際は、調和にて魔粒子の安定化を領地内から行いましょう。そちらでご勘弁ください。」
都は怒る事も、嘲る事もしなかった。
ただ只、心が冷めてゆくのを受け入れた。
そして、その日から巡行出発までグレースが表て出てくる事は
無かった。
ヤルダも主催者にも関わらずお茶を啜るばかりで
何かを話し出す気配も無い。
——— えーーー。。ナニコレ。私達なんの為にここに来たわけ?
——— 知らないよ!もういいんじゃん?このお茶のんで、そこのお菓子食べたら帰ろう?
すると、後ろからルーナが耳傍でボソボソと声をかけながら
手首を掴んで持ち上げた。
「グレース様。グレース様からお言葉を始めてください。」
ルーナは周りの視線からマナーを知らないグレースを庇う様に
フォローを入れた。
「今日は緑が強いので、色を足させて頂きました。ご気分は如何ですか?」
「え?あ、えぇ、ありがとう。ルーナさん。青が気持ち良いですね。助かりました。」
ルーナは跪き手の甲にキスをしてから後ろに下がった。
———!?そんなルールが?
——— 最初から教えておけよヴィクのやつ!
「んんっ!ゴホン。大変失礼しました。私も些か緊張しておりまして、不作法でしたね。」
「本日、四家の皆様がおいでのようですがこのお顔ぶれ、如何なさったのですか?」
グレースの言葉を合図に、四家が我先にと会話を始めた。
色々と話を聞いたが、結局の所、単純に、明快に、
「俺・私・僕を(の子供を)守護者に加えて欲しい」という
お願いごとの一点に尽きた。
彼らは今回の騒動で莫大な損害を被り、再建に必死であった。
神への信仰心だけでは生きてはいけない。
そんな当たり前の事を皆、思い出したようであった。
しかし、この世界で神と人間は切っても切れないのも事実。
各家ともにグレースの加護を欲していた。
そんな彼らの焦りをヤルダは静かに、燃える様な眼差しで
見つめている。
「皆さん。私がこの世界に来たのは、テュルケット様が作り上げた物を維持する為ではありません。生も死もすべては森羅万象の中。故に世界は愛おしい。私はこの星を守る事以上の事をするつもりはありません。」
「それに、旅が終われば、私は守護者の方々を解放するつもりでいます。」
この言葉に、グレースの後ろに座っているビクトラ達がビクっと肩を震わせた。
すると、ヤルダの目がグレースを食い殺さんばかりの殺気を纏って向けられた。
「それは。どういう事でございましょうや」
パキパキと足元の芝生が凍ってゆく。
「兄上!」
ビクトラが声をあげた。しかし、都はそれを手をあげて制した。
「言葉通りです。私の守護者を辞めて頂きます。」
「なぜだ。返答如何によってはいくら神であろうと私は許さない。」
「私が先程、なんのためにこの世界に来たか。お覚えですか?」
「…。この星を守るため。で、ございましたな。」
「そうです。そして、この星の存続以外の事に手は貸さない。そう申し上げました。」
グレースとヤルダはそれでも睨み合いを続け、次第にヤルダの怒りが強みを増した。
「では、なんの為に我が弟を篭絡した!アレには婚約者もいたのだぞ!そして、貴方様の行った事によって婚約者殿は命を絶とうとまでしていた。これをどう責任とるおつもりですか?」
都は酷く冷静だった。ヤルダの氷のおかげではない。
生前の世界で同じような経験をしていたからだ。
大学生の頃、サークルの先輩に告白されて付き合ったら
彼女がすでにいて、知らずに告白されて付き合った私が
攻撃された。あぁ、懐かしい。そんな事を考えていた。
「自殺をしようとしたのは、ビクトラ様を愛していたから?それとも予言から外れてしまったから?どちらでしょうか」
ヤルダは当たり前の様な顔をして「両方だ」と答えた。
「私がビクトラ様を守護者としたのは、白虎の神核を持っていたから。ただそれだけです。」
その言葉にビクトラは歯を食いしばり膝の上の拳に力を入れた。
「ただ、それ以上に私とビクトラ様は互いが必要でした。神としての力を捨てても良いとさえ思った。」
「この引力にご婚約者様が勝てたのならば、その時はお返し致しましょう。」
その言葉にビクトラは天を仰いで目を瞑る。
しかし、ヤルダは納得しない。テーブルを拳で叩きながら吐き捨てた。
「なんとも自分勝手な神も居たものだ!テュルケット様とは大違いだ!当家の破滅をお望みか?」
その場に居た大公や客人も、何度もヤルダを諫めるが
武人の怒りを抑える事は難しかった。
「お家の事を申されているのでしたら、それこそ貴方様の方が自分勝手でらっしゃる。神にすべてを投げ出し、責任を放棄なさるのですね。」
「猶更、ビクトラ様をお返しする事は難しくなりましたね。ご婚約者様もお可哀そうに。」
「皆様も、神頼みで生きる事をお望みでしたら、天界にてお過ごしになられると宜しいでしょう。」
「生きる、事の意味。どの程度ご理解されてらっしゃるのでしょうね。我々神仏は、遊戯の駒が欲しいのではないのですよ?」
ヤルダは唸る以上の事が出来ずに大公に部屋へ戻された。
やっとこの悪趣味なお茶会がおわるのか。
そう思ったら溜息がこぼれた。
「加護を授ける事はできませんが、一つお約束致します。巡行の際は、調和にて魔粒子の安定化を領地内から行いましょう。そちらでご勘弁ください。」
都は怒る事も、嘲る事もしなかった。
ただ只、心が冷めてゆくのを受け入れた。
そして、その日から巡行出発までグレースが表て出てくる事は
無かった。
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