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閑話
サリューンの嫁選び
しおりを挟むAM 4:00 起床
AM 4:15 朝稽古
AM 6:00 共同浴場にて換装体の手入れ
AM 6:30 自室にて髪結の型の選定
AM 7:00 グレース様のお部屋に入室、髪結をなさる
AM 8:00 ルーナ様とお部屋入りを交代
AM 8:30 食堂にて朝食
AM 9:00 執務室へ直行
AM 9:30 特務隊申し送りに参加
AM 10:30 魔道隊総局部にて任務報告と受領
以下、その日の任務内容により内勤もしくは出動なされます。
金と翡翠色の髪を掻き上げ、金の縁取りに抱かれた碧眼をぐるりと
一周させてため息をついたのは現タイレーン帝国の皇帝、
サリューン•クラリス一世その人だった。
「以上が任務前のアガット特務隊隊長の朝のルーティンでございます。」
「……。あ、あぁ。そうか。」
サリューンは組んだ手に額を付けてため息を吐いた。
違う、そうではない!私はアガット隊長の人となりを聞きたかった
のであって、実録!アガットの一日!を、知りたかった訳ではない!
「陛下、何かご納得頂けない箇所がございましたでしょうか?」
サリューン皇帝付き侍従の報告に項垂れた。
「いや、なんというかだな。私は彼の一日の行動はどうでもいいのだが。人となりは如何なのだ?」
侍従の新入りカナムは首を傾げた。
「失礼ではございますが、何故お人なりをお知りになりたいので?」
サリューンはため息を吐きつつ、頬杖を付いた。
「いやな、そろそろ私も正妃を定めねばならぬのだが、内務と侍従長が挙げてきたのがアガット隊長と魔道騎士隊のマラエカ副参謀なのだ。」
二人の隊員資料を机に置いてサリューンは考えていた。
サリューンはこの二名が何故、指名されたのかが分からず情報収集を
していたのだった。
「そうですね。共通しますのは口が固い、冷静、職務に忠実。というところでございましょうか?」
「それは他の隊員にもいるだろう?そういう者は。それに、何故魔道隊からの選定ばかりなのだ?」
「まぁ、それはあれでしょうね?グレース様からの加護持ちと、グレース様の庇護を受ける騎士隊隊員。この二つに尽きるのでは?他の上級貴族の御子息でグレース様より加護を受けた方はいらっしゃいませんし。」
「成程、、?」
「我が帝国はグレース神へ改宗していますし。グレース様との繋がりを持つ方が選定されるのは当然なのでは?」
「あぁ。そうだな。しかし、それと正妃は別では?私は既に加護を頂いている。もし、婚礼した場合正妃も加護を頂けるのでは?」
カナムはグレースを想像する。
いや、あの方はそう簡単に加護をお与えになる方では無さそうですが。
「まぁ、あれだな。貴族等を押さえつける人選といった所かな。」
「しかしだ、アガット隊長とマラエカ副参謀の人となりが分からんな。」
中身のよく分からぬ者を妻と迎えるのは些か抵抗がある。皇帝として
正妃は帝国を支える一柱として、情よりも政務を担える適正が
重視される物だが、そこには愛もあって欲しいと願うのは私がまだ
皇帝として甘いからだろうか?
「あ、そういえば。アガット隊長はかなり一途の様ですよ?」
「何を以てそう言えるんだ?」
「一度好きになった物は固定するらしく、食べ物から私物に至るまで変更はしないそうですよ。毎食フラ肉とグラハ草を食べて、私服のブランドはロージェム、魔石店はトッツェ。」
いや、皆贔屓の店はあるだろうよカナム…。
そういう事では無いんだ。
「それは、一度好きになったら余所見はしない。そういう性格だと理解出来ますけれど。」
「まぁ、そう見ようと思えば見えるかもな?だが、新規開拓が面倒なだけとも思えるが?」
「という事は融通が利かない部分もあるという事でしょうか?」
あぁ、まぁ。それはそうかもしれないな?ふむ。そう言う所から
見える物もあるんだな。
「ですが、陛下は平気なのですか?」
「何がだ?」
カナムはお茶を淹れて卓の上に置きながらサリューンの顔色を伺った。
「アガット隊長は、その、、グレース様の情夫だと聞き及びます。」
な!情夫⁉︎え?いつの間に!グレース様からは何も聞いていないぞ?
友達なはずなのに、、、私だけ、知らない?
「それは、、誠か?」
「ええ、毎朝の髪結はアガット隊長がグレース様だけにしている事らしいですし、内務には毎日グレース様のお部屋に一輪花を活ける様指示してらっしゃいます。その、、花言葉に〝愛″のある物ばかりとか。」
「それに、グレース様の魔道具の上の同じ場所に、、その、跡が消える事無く付いているそうです。それは、グレース様がアガット様に唯一お許しになっている事の様です。」
な!それは。もう確定ではないか!そんな相手を私の正妃候補に
するとは‼︎どういうつもりなんだ⁉︎
「だとすれば何故アガット隊長が選定されている。双方不幸でしか無いだろう?」
「さぁ。そこまでは解りかねますが…いずれグレース様は天界にお戻りになられるから、、、ではありませんか?グレース様の愛する方が皇室に入れば、その。グレース様はテュルケット様の様に皇室を見放す事は、、、しないだろう。そう言う判断かもしれません。」
私はアガット隊長やマルエカ副参謀が選定された事よりも、
グレース様が天界に帰る。その言葉にショックを受けてしまった。
グレース様がいなくなるという事を、考えなかった訳ではない、が
何処か永遠に帝国に居て、友として共にこの帝国を支えて下さると
思っていたのだ。側に、、、居て下さると。
「ならば、グレース様に正妃としてお側に居て貰えないだろうか。」
カナムは目を見開き口をポカンと開けて絶句した。
「い、、や、、それは、、アガット隊長やビクトラ大隊長をグレース様の愛人として許すという事になりますよ?側妃が許されるのは皇帝のみですし。」
「分かっている。許されないと。しかし、グレース様はアガット隊長等を愛しているのだろう?それに神だ。我が妃としてお側に居て下さるのなら法改正をしてでもお釣りはくるぞ?それがいい。そうするか!」
よし、早速内務に相談するか。
「いや、陛下!それは流石に無理がっ!」
火のついたサリューンを止めるのは至難の業だと最近カナムは
知ったばかり。こうなると、自身でその無茶を理解して頂くしか
無いか。そう諦めた。
「ウォーレン、ザッカリー、カバラーク、内務は、、トプソンを呼べ。」
「はっ、畏まりました。しかし、私はご忠告致しましたからね?無理だと。後で文句は受付ませんからね?」
サリューンはニヤリと笑ってカナムを退出させた。
こうして、サリューンはグレースを取り込む算段をつけ、久しぶりに
ワクワクした心持ちになり庭に出た。
皇族は龍を獣体に持つ。それはこの帝国最強を意味しているが、私は
満たされていない。肉体の強さに加え、愛を得られたなら私はこの国の
為に更に強くなれる。父や母には愛はなく、エルザード様も愛に
恵まれていない。この皇室に於いて愛を得る事は国を治めることより
難しい。だが、私は友として妻としてグレースからの愛が欲しいと
自覚してしまった。ならば、ビクトラ大隊長やアガット隊長には負けて
おられぬ。動くぞ、私も。
グレースの知らぬ所で外堀は埋まっていく。
グレースが逃げ切るか、サリューンが捕らえるか。二人の鬼ごっこは
東の地で鉱山が崩壊したのを合図に始まっていた。
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