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神話編
いつまでも貴方を想う(2)
しおりを挟む未だ結界を解かず、言葉すら返ってこなくなった魔粒子の塊を眺め
ジジは想い出を語り出した。
「貴方と二人きりで会ったのは20だった、まだ幼い私を貴方は良く外に連れ出し遊んでくれましたね。あぁ、あの夏は楽しかった。」
「北の牧草地で馬に乗って養蜂の視察に行った時、貴方は蜜箱を燻煙せずに開けてしまって…二人で蜂に刺されながら…蜜を舐めた。」
「貴方はどんな状況であっても美しかった。私は…とうに貴方の歳を追い越しましたよ…けれど、いつか、貴方が生まれ変わった時に貴方が貴方である事を知る者が必要だ。」
ジジは結界の中に手を入れ、握っていた小さな何かの欠片を魔粒子の
塊の中に放った。
欠片に吸い込まれる様に魔粒子は消え、欠片が形を変えた。
「カイリ…お帰りなさい。貴方を待っていた…」
「…ジジ…さん?」
ジジは欠片より創造されたカイリの口から出た言葉に愕然とした。
死際に奪ったカイリの魔粒子核を、何百年もかけてやっと人形に生成
出来る様に改良したというのに。何故カイリは戻らない?
「…何故お前の記憶が残っているんだ。」
「知りませんよ。そんなのこっちが聞きたい位ですよ。」
結界の壁を挟んで睨み合って、俺なにやってるんだろ。
体が重い…体?え、体…。
「うぇ!?なんだよこれ!」
「くそっ!最後の欠片だったのに!くそったれ!」
「どういう事か説明してくれ!それでもってここから出してくれ!」
訳も分からず睨み合う二人は互いに答えを求めていた。沈黙が続き、
流石の都も冷静さを取り戻し始めた。
都は何故かしっくりくるこの身体に妙な親しみを感じ思わずジジに
問いかけた。
「この身体、カイリさんのなのか?」
「そうだ。カイリの魔粒子核の欠片で構成されている。」
「え?肉体構成の物質は何つかったのさ?」
「カイリの髪だ」
「……どうしてそこまでしてカイリさんを作りたかったのさ?それに、何で俺の意識を移したんだよ!」
「どうして⁉︎愛しているからだ。それに、お前の魔粒子はカイリの物と良く似ている。カイリの生まれ変わりなんだと…思ったんだ。」
すまんな、俺は前世の俺を知っているし、生まれ変わって無いんだな。
それに、愛していたら人を作るのかよ?カイリさんはあんたを愛しては
いなかっただろうさ。それどころかこの世界の誰もを憎んでいた
かもよ。…憎んでいた…この世界を誰よりも…?
「なぁ、もしさ。カイリさんがテュルケットもあんた等獣人もみな憎んでいたらどうするのさ…普通に考えるとそうだろう?旦那と引き離されて、その……何だ、お、襲われてさ。そんな奴の作った世界なんて愛せないだろ?」
「憎む?カイリはこの世界を愛していた。この世界に降りたのだって彼女の意思だ。天帝から逃れる為にテュルケット様を利用したに過ぎない」
意味が分からない。天帝から逃れるにしても神核を穢されて壊される、
それは彼女を殺すのと同義じゃないか。
「…それもカイリさんの本心かなんて分からないだろ?」
俺だってそうだ。ビクトラさんと離れたいと思っていても、本心かと
問われたら…NOだ。
「彼女は人として大地と共に在りたかったんだ。」
それは、分かるな。結局どんなに素晴らしい世界があったとしても、
やっぱり大地に足を着け、深く息を吸って。命が燃える場所で生きて
いたいと思ってしまうんだ。
「ジジさんとは、恋人だったのか?」
「いや、俺は彼女の義弟だ。」
…マジかよ。前世が日本人なら義弟との恋愛とか大抵アウトだろ。
「あ、そ。で、片思いだったと。」
「……彼女が愛したのは結局天帝だけだった。」
「だが、それも意味の無い事だと彼女も分かっていた。俺の手は取っちゃぁくれなかったがな。」
でしょうね。
独りよがりな恋煩いに巻き込まれた俺よ!どうしてくれよう…。
「なら尚更、その執着からカイリさんを解放してやれよ。やっと自由になったんだ、もう愛だの恋だのに縛られるのは御免だろ。」
「お前に何がわかる。俺の想いはどうすればいい!」
結界を叩いたジジの顔は、どれだけの歳月が経ってもカイリを求めて
止まない…そんな顔だ。俺は、そこまで誰かを愛せるかな?
「なぁ、ジジさんは自分とカイリさんの命、どっちが大切なんだ?」
「そんなのカイリに決まっているだろ!」
「そんなにカイリさんを想うなら、手を離してやれよ。もしも、本人がジジさんを求めていたならさ…とっくに帰ってきてるよ?」
更に強く結界を叩くジジは、都を身体から追い出すために結界に呪法を
施し始めた。
「もう、黙れ…この身体から出て行け」
「おまっ!どんだけ自分勝手なんだよ!俺を元の依代に戻せよ」
「依代はもう無い。お前が結界から出れば世界の魔粒子に還るだけだ」
おーーい、マジかよ!なんも調べられてないのに!淀みが溢れたら
魔獣やら邪神等が溢れるんだぞ…。どうしよう。
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