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閑話
この子どこの子⁉︎ 悲しい親子
しおりを挟む都とビクトラ、ルーナに加え病院事務員と数人の医務官が
ビクトルト達の家へと向かった。
中心地から離れた集合住宅地の裏手にある、日の当たらない
場所に、荒屋の様なビクトルト達の家はあった。
「母さん!父さんが帰ってきたんだ、起きてよ!」
ビクトルトは奥の部屋に駆け込み、その後をビークルトとビクトーラが
追う。都はビクトラの袖をツンと引っ張って小声で話しかけた。
「もしかしたら、お母さん…危なかったら、嘘でも良いんです…ただいま、そう声をかけてあげてください。お願いです…」
ビクトラは都の肩を抱き寄せると、「わかってる」そう返事をした。
「みゃこしゃま、かかまだねんねしてる。みゃこしゃま、しー、よ?」
小さな手で、指を立てて口に当て「しー」と言うビクトーラはまだ
母親の状況を理解できておらず、眠っていると言う。本来ならその愛ら
しい姿は庇護欲を掻き立てられる物なのに、今はその姿が痛々しく
思えてその場に居る大人達は皆、目を伏せたくなった。
都は目を瞑り、眉間に皺を寄せてビクトラの胸にしがみつく。
ルーナが奥に進み、ビクトルトの母親の状態を見ると言って検査道具の
入った鞄を抱えて部屋へ入った。
「…お願い。どうか、お母さん…生きていて…」
都の縋りついた手に力が入る。ビクトラは「大丈夫だ」そう言い続け
都を落ち着かせようとしていた。
「都、来て…最後に祈ってあげて…」
部屋から顔を出したルーナが都を呼んだ。その顔が、母親の危篤を
物語る。都も、涙を目に溜めビクトラの手を取り部屋へと入った。
部屋には死の匂いが漂い、ビクトルト、ビークルト、ビクトーラが
母親の身体に寄り添っている。
「ビクトルト君、お母さんの名前は?」
「…ブランカ•ペルドラント」
ベットに横たわるブランカは、魔粒子の色が抜けて真っ白にり、
髪はまるでガラス細工の様に毛先が透けていた。白魔粒子が吸収されず
身体の周りを囲っている。その姿に都は彼が白使いだと知る。
「ブランカさん…貴方は白使いだったのですね…この世界の為にその身を犠牲にしてきたのですね。」
都はブランカの手を握り、都の魔粒子を流し体の崩壊を防ぐが追いつ
かず、ルーナが都の手を止めさせた。
何もできない…その現実が都を更に自己嫌悪させたが、安らかなる眠り
だけでもと願いを込め祈った。
「不安も、心配も不要です。私がきちんとこの子達の成長を見守ります。宵闇の神、グレース•クラリスが貴方の憂いを引き受けますから、安心して……貴方に安らぎが訪れますように」
額に口付けをすると、ブランカの身体からふわりと風が舞い上がり、
ゆっくりと瞼が開いた。何も見えていないだろう白い瞳が声の方に
視線を移した。
「あな…た…は?」
「私はグレース。貴方を見舞いに来ました…」
「…神様が…迎えに来てくれたんですね?」
辛い、子供を残して死ぬなんて…心が張り裂けそう、こんなに
魔粒子が枯渇するまで色分解するなんて。もっと早くに出会えていたら
助けられたかもしれないのに。
「ビグラード…君に…この子達を見せたかったよ…」
「ブランカさん、俺は魔道騎士隊大隊長 ビクトラ•ライディだ。貴方のご主人を探して子供達を託すと誓おう」
ビクトラの声と夫の声の違いもわからぬブランカは、ひたすらビクトラ
の声を頼りに視線を彷徨わせ「ビグラードなの?」と呟き続けた。
そして、ふと虚にどこかを見つめるブランカに、もう生きる力は
無かった。
「ブランカさん、貴方には子供を育てる義務があるんです。生きる事を望んで下さい、お願いです」
都は縋り付く様にブランカの手を握るも、天井を見つめる瞳に光は
差込まない。
——— 都、神力を流してみないか?どうせ死ぬんだ…それまではやれる事をやってやろうよ…駄目元だろ?
「うん。…身体が、耐えられないかもしれないけと」
でも、可能性があるなら…私に出来る事があるならやってあげたい。
「ルーナ、もし…神力を流したらどうなると思う?」
都は振り返りルーナに答えを求める。まだ、都自身が諦めたくはなかっ
た。子供と離れる事の辛さは誰よりも知っている都は、往生際が
悪くとも足掻きたいと願う。
「分からない。彼の魔粒子核は…小指の爪程の大きさしかない…心臓も弱ってる…」
都は胸に手を当て子供達に問いかけた。
「みんな、お母さんは…もう天国へ行かないといけない…最後に少し、皆んなとお話しをする時間を作る為にやってみたいことがあるんだ…いいいかな?もしかしたら、失敗するかもしれない…でも…諦めたくない、やらせて欲しいんだ」
「ゔんっ…母さん、母さん、ふぇぇぇぇぇ」
ビクトラは泣き出したビクトルト達を抱き寄せ、ブランカの手を握り
耳元で囁いた。
「ただいま、ブランカ」
その声に、真っ白な瞳がまたビクトラを探し彷徨う。
「…ビグラード?ビグラードなの?遅いよ…ずっと待ってた。待ってたんだ、愛しい人」
「すまなかった。子供等を良く育ててくれた、感謝する」
ビクトラはブランカに話を合わせ、静かに言葉を紡ぐ。
その言葉にブランカは静かに微笑み目を細めた。
都はグレースと共に神核から力を放出し、手のひらに集め集約さ
せる。大硬貨程の神力の塊をそっとブランカの胸に押し込むと、
ビクンとブランカの身体が跳ねた。すかさずルーナが魔粒子核を
確認し、目を見開く。
「すごい…魔粒子核が覆われて…機能し始めている。神力が魔粒子核の代わりをしてるんだ、これなら…半日は…保つかも」
その言葉に都は涙を止められず、ブランカの胸元を濡らし続ける。
部屋に集まった大人達は誰も動けず、その親子と神の姿を見つめるしか
出来ることはなかった。
「母さん!母さん!死なないでよ!置いていかないで!」
「かか、かか、抱っこ、抱っこして」
「うぇぇ!かか、僕さよならしたくないよ、かかぁ」
ブランカに抱きつこうとする子供等をビクトラは抱きしめた。
「母さんはお前等の為に頑張ったんだ、ゆっくりと休ませてやれ。母さんの為に笑ってやるんだ……大切な人を安心させてやれない男は、俺の息子じゃねぇぞ」
「「やだ!やだ!やだ!」」
「俺も母さんと一緒に行く、グレース様、お願いします!母さんを一人に出来ない、きっと寂しいからっ僕も連れて行ってぇ‼︎うぁーーー」
——— なぁ…都、双葉もこんな思いをしたのかな?
「いわ…ないでっ!言わないで…お願いっ‼︎」
——— なら、ブランカの気持ちが分かるはずだ。
「私はっ、最後に声も聞けなかった…思い出させないでっ!」
「痛いほどっ…分かるから…言えない事もあるんだよっ!」
——— 代わるぞ
「ブランカを起こすぞ」
顔つきが変わり、立ち上がってブランカの枕元に移動するグレースに
ビクトラが声をかける。
「グレースか?」
「あぁ、都はこいつに共鳴しちまって動けない。俺がやる」
グレースはブランカの背に手を回して半身を起こすと、その指に結界を
纏わせ胸の魔道具に差し入れさせた。
神核の世界は精神世界でもあり、グレースと都、ブランカの魂が
向き合っている。
「ここ…は?」
ブランカは同じ顔の二人に戸惑い視線を彷徨わせた。
「ブランカ、あんたはもうすぐ死ぬ。子供等を置いて…」
「グレース!止めて!そんな言い方しないでっ」
「事実だ。身体が大地に還る前に言いたい事、したい事をすべきだ」
「あの、貴方達は…」
「「…宵闇の神 グレース•クラリス」」
「グレース神⁉︎」
「時間が無いからこの身体を貸してやる。子供達としっかり別れをしてこい。」
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「ですが、私は…子供達を結局残して行くんです。希望を持たせなくありません、このまま…どうかこのまま逝かせて下さい!」
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一方的に捲し立てられたブランカは、なにも理解できぬまま意識を
表に出す事になり、グレースの身体で意識を取り戻した。
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