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新世界編
郷愁
しおりを挟む四聖獣の神核はグレースの身体で眠っていた。最初に目覚めたのは
青龍だった。自由にならない身体、まだ眠り続ける白虎や朱雀に玄武の
神核に声を掛けるも返答が無く、青龍は仕方なく思い返していた。
「ふぅ、参った参った。とんでもない事に巻き込まれた」
「しかし、どうするか…結界も壊された…我等もそろそろ帰る頃合いかの…カイリを護るためにこの星まで来たが」
あの頃の天界は、天帝を中心に多くの神が権勢を振るう世界だった。
聖獣はどの神に与する事無く、宇宙の護りだけに意識を割いていたが
カイリの登場で全てが変わった。魅了を使わずとも、誰もがカイリに
夢中になって、その慈悲を請おうと必死だったな…。我々も初めて
カイリを見た時、この者を主人とするのだと魂が叫ぶのを聞いた。
七色に輝く雲海に、天帝と錚々たる神々に囲まれたカイリは至宝
そのものだった。天界にある我の根城にカイリが訪れ神力を与えて
くれた際は、こんなに我等聖獣に力を与える神力があるものなのかと、
目を疑ったな。縛りも制約もなく空を駆け、神々と遊び、悪きものと
戦う日々は満たされていた。…帰りたいものだ、あの頃の天界に。
して、意識を失う前に感じたカイリの残滓よ…あれは一体。カイリの
魂は確かに消えた。テュルケットに散々削られた魔粒子核も死に際は
小石程であったし、復活などあり得ぬ話だ。何が起きているのだろ
うか?我々の役目も、もう終わったのだ…これからは天界で仲間と
昔のように暮らせるのかの。あぁ、天界に帰りたい。
「ん、んん…おや、青龍。目覚めていたの?」
「白虎よ、目覚めたか」
「ん、ああ。なんだ、まだこの身体は自由にならないの」
「ああ、朱雀達が目覚めれば動けるのでないか?」
「はぁ。参ったね…なんだってこんな事になったの?」
「さぁな、テュルケットのせいだと言うのは確かだろうな」
「違いないね」
「我は思い出しておったのだ…カイリと天帝の治める天界での日々を」
「…あぁ楽しかったね。毎日毎日世界を駆けてさ」
「覚えてる?カイリとテュルケットを断罪した時の天帝の顔」
「…勿論だ」
すると、別の声が白虎の問いかけに答えた。
「あんな天界の主人の顔…神の生涯を以ってしても見れやしない」
「…玄武?おはよう」
「あぁ、お前らも起きたか」
「とっくにね。」
「カイリの為にその座を捨てるつもりでいたんだぜ?あの男」
「…だろうねぇ。でも皇子達を思えば、それも出来なかったって感じ?」
「いや、カイリが天帝との神核の繋がりを切ったからだ」
「えぇ!?どうしてそんな事したのカイリ」
「歳刑神が許さなかったんだ…天帝にも累が及ぶと思ったと言っていたよ」
「…歳刑神、あいつもカイリにゾッコンだったじゃん」
「だからであろう?可愛さ余ってなんとやらだ」
「もう、カイリはどこにもいないのかな?あの使徒は天帝と共に居るって言ったけど…慰めにしても、もう少し気の利いた事言えなかったのかな」
白虎はフフと笑って少し悲しい気持ちになっていた。
結界は全て壊され護りの四聖獣は集められた。後は崩壊を待つばかり
だと分かっている、しかし、彼等とカイリの生きた記憶が残るこの星を
失う事に幾らかの名残惜しさがあった。
「グレース神、こいつはどうよ?」
「玄武、言っちゃ悪いけど、ぶっちゃけ無理でしょ。…いくら権能や加護が強くても、この子…意志が弱い。流されやすいし」
「しかしな、オルポーツに繋がれていた時、この身体の魂と触れた事があった。…カイリと良く似ていたよ、魂がな。それに、人の痛みに敏感な優しい心だった。心地良かったよ」
「へぇ、そうなんだ。縁者だったりするんじゃない?カイリも元々人間だしね」
「グレース様を侮辱するのは許しませんよ、御三方」
「朱雀?おはようさん」
「私は二代目ですけど、原始の方との繋がりがあります。グレース様は決して弱い神ではない!片方を失う代わりに自分の命を守る様な事は決してなされない!命を賭しても守るべき物を守るお方だ。それにカイリ様の様に情の浅い方ではない!」
「は?知ったような口を聞くじゃないか、この青二才の朱雀!」
「では聞くが、自身の欲を優先した結果、後世の者を苦しめている。それはカイリ殿が天帝のみを思ってこの世界を作ったからではないのか?穢れの浄化に堕天した神々の再生を目的としたこの星の在り方を作ったのはカイリ殿だ。獣人を作ったのも結界を護るためではないか!それにより贄となる為だけに生まれた命を、どう思っている!全ては天帝の手助けをする、その一点のみだ。生み出された命を…なんだと思っているのですか!」
「それは……」
白虎はなんと返せば良いか分からず、黙ってしまい、それがまた朱雀の
怒りに火を付けた。
「都様は仰ったそうだ。調和が終わったら、神核を持つ者の役目を終わらせると。人として、夫として彼等を迎えて共にこの世界で生きて死ぬのだと。神としての役割が終われば、この世界は人が回して行くべきだと!」
「それは、この世界に縛られた神と、獣人の解放をその神核をもって成すと言う事です…そんな事をすれば…死、あるのみですよ。それでも夢を抱いて諦めてなどらっしゃらなかった…カイリ殿にはそのお覚悟があったのですか?死ねば天帝の元に戻れるから後の事は何とも思っていなかったのではないですか?」
「黙っていれば、憶測で良くもまぁベラベラとカイリを愚弄してくれるものだ。誰もグレース神が駄目な神だなんて言ってねぇだろ…そもそもこの星の在り方は決まっていたんだ。それをカイリがこの星に生きる命を消費されるだけではない、人生を歩ませたいと願ったんだ!だから俺達は子を成した…天界とまではいかぬとも、美しい世界を作りたいと…」
「その結界、都様のお子様は命を狙われ…都様ご自身も命を落とされた。挙句神としてこの世界の為に死ねと…魂を天帝の為に使ってやるからありがたく思えと言うのですね!あぁ!何と慈悲深いのでしょうカイリ殿は!」
「…朱雀、我はグレース神を信じておるよ。あの神は…優しい魂だった…鎖に繋がれた青龍としての神核…それが一瞬だが触れ合って安らぎを得た。それはグレース神の持つ魂の力なのだと、だから我はグレース神の為に出来る事をしたいと思う。力を合わせねば…」
「…悪かったわよ。グレース神が弱いなんて言って」
「はぁ、ったく。カイリも、グレース神も…優しすぎるんだ。だから、俺達が助けないと駄目だろ?じゃなきゃ麒麟が浮かばれない」
「麒麟殿ですか?そう言えば、麒麟どのは…天界でもお見掛けしませんでした」
「あいつは…死んだよ。神核も受け継がせずにテュルケットに戦いを挑んでな…けど、俺達の子は生きてる。だから俺はこの世界を守る為にやれる事はやるさ」
四聖獣達の覚醒をきっかけに、魅了の影響は弱まりグレースの身体は
目覚めた。
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