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最終章
狼煙
しおりを挟む本教会地下に湧き出る泉を取り囲んだ五本の石柱の間には、大司教、
司教、大神官、神官長、神官長補佐が立ち、香炉と錫杖を持ち泉の浄化
を行っていた。
本教会でジジを待っていたが、天界との繋がりを切られた事を感じた
四聖獣はグレースと体を統合する為にラファエルと連絡を取る事に
した。
「ラファエラ、信仰を受け神となる事がどういう事か…分かっているのか」
——— 全てではないが、グレースの家庭を作る。という夢を叶える事は難しくなるのだろうな。
「神が家庭を作りたいのか?」
——— あぁ。グレースも、都もその為にこの世界に来た。
——— だから…我は…己の無能さを心底腹立たしく思っている。
——— ただ一つ…家庭を築きたいという…誰もが手にしようと思えば手に入れられる夢すら…叶えてやれぬ…我は何もしてやれなかった…。
——— これが自己嫌悪と言う感情なのだと…知ったばかりだ。
「ラファエラ…」
——— 我はこの知識、二人を守る為に使えると思っていた…しかし、カイリには先手を取られ…挽回すら叶わぬ。
「…お前は、二人を守るためなら何でもするか…?」
——— 当たり前だ。
「では、提案があるのだが…グレースを眠らせろ」
——— …今、グレースにこちらの声は届いていない。それどころでは無い様だ。
「そうか…では一つ提案がある」
暫くの間、四聖獣とラファエラはこれからについて話をした。そして、
四聖獣の提案に二つ返事をしたラファエラは、その提案の実行までに
グレースと話をすると言って繋がりを切った。
教会の天窓から差し込む太陽の光の中、四聖獣はテュルケットの
紋章が未だ掲げられている祭壇を見上げ、そこに描かれたテュルケット
信仰の対象『ディカータ』に手をかざした。
ディカータは、それぞれが交わる三つ輪の中心に、古代文字で天帝を
意味する言葉『バシュワ』、そして三つ輪を大きく取り囲む外側の
円には世界を構成する魔粒子の真名が刻まれた経典であり、姿を描けぬ
天帝の形を記した物でもあった。
「天帝よ…貴方様方天界神はいつだって汚れ仕事を自ら行う事をせず、その役割を忌み嫌っておいでだったな。そのツケ、今払う時が来た…その苦しみ…甘んじて受けられよ」
四聖獣はグレースの祭祀と共に身体を返す為に浄化が行われている
地下の泉へと向かった。
「陛下…もしも、グレース様が主神となり…神殿に入られたら…グレース様と婚姻を結ぶ事は難しくなりますな」
ウォーレンは祭祀の為に身を清め、魔粒子の補給を行うサリューンの
背中からシャツを羽織らせた。
「…私の願望など…この星の存続を前にすれば、些末な事だ。それに、朱雀殿とグレース様を見ただろう?彼等ですら叶わぬ物を…我に叶えられると思うか?」
「…何故、グレース様も伴侶殿達も…永遠の別れの様に離れられたのでしょうか?」
ウォーレンはジャケットを広げ、サリューンの腕に通すとグレースから
贈られたネックレスを手にして溜息を溢した。
「きっと…グレース様は…神体の一部へと還るのだろう」
「…それは…絶対なのでしょうか?」
「さあな…神核の主たる都様の魂を迎えるには…それ相応の神体でなくてはならぬだろう…」
「なんとも…お辛い役目を背負わせてしまいますな」
「神は理だと…エルザード様は記していた…理は時に残酷だ」
「…私は…グレース様のあの大らかな姿が好きでしたよ。子供の様に喜怒哀楽を顕にし、いつも愛に生きている姿。理ではなく、野生…命を具現化した様なお方だ…あの笑い声を聞く事が出来なくなるのは残念ですな」
「…あぁ…我はあの方以上に恋焦がれる者と出会える気がしない」
「左様ですか…想いを抱き生きるのも…良き物かも知れませぬな」
「ふっ…そうだな」
「さて…刻限だ。祭祀を行いに参るぞ」
「はい。陛下」
北のダレンティア領、領主ドレイドは大ホールで妻と共にグレースに
挨拶をしていた。ダレンティアは皇籍を外れた皇族を管理する領地で
あり、ドレイドはロンベルトの親友だった。当初、ロンベルトとヤルダ
の企みを知らず、ロンベルトを助けなかったグレースに怒りをぶつける
つもりだったが、カイリの魅了に当てられた自身を恥じていた。
そして、オルポーツ、ヤルダ、ロンベルトの行おうとしていた事を知っ
て、グレースに詫びを入れに来たのだが朱雀とのやり取りを見て
何を話すべきか考えていた。
「グレース様…あの…私は」
「いや、何も言わなくていい。これから、多くの難民がここに押し寄せるだろう…頼む…北でも彼等を受け入れて欲しい」
「…もちろんでございます…申し訳ございません」
「何がだ?」
「私が…ロンベルトの事をもう少し分かっていれば」
「俺は…もう、過ぎた事に囚われる程時間に余裕が無いんだ。だから、悔やまないでくれ…出来る事を…やるだけだ。力を貸してくれ…あんただけなんだよ。冷静で居てくれるのはさ…だから、悩むな、悔やむな、振り返るな…いいな?」
「はっ…御心のままに」
「俺は神殿に向かう…最後にあんた達と話せて良かったよ…ヴィクが死のうとしたら、止めてやってくれ…あいつには都を守ってもらわねぇとなんねぇから」
ドレイドが頭を下げようとした時、グレースの肩を誰かがトントンと
突いた。振り返ると、そこにはサリザンドが居た。
「グレース様、それは俺とルーナの役割ですよ」
「なんだよ、行かなかったのか…サリザンド…」
「はい。少なくとも、私以上にこの国で貴方を守る呪法が扱える者はいませんから」
「ふっ…はっははっ!お前、この後に及んで足掻くつもりかよ」
「えぇ、最期の最期まで。本音を言いますと…俺の手以外で都が泣くのが死ぬ程嫌なんです」
「ふふっはははっ!やっぱりお前の事が好きだよ、ありがとな。頼んだよ…」
「それはそうと、ジジ殿が戻りましたが……ガーライドナイトが」
「うん?」
「消滅しました」
「「はぁ⁉︎」」
まさかの事態に、グレースとドレイド、その場に居た大臣達はサリ
ザンドが手渡した魔道具に映る、砂煙に覆われた元ガーライドナイト
跡地にグレースは崩壊の狼煙を見た。
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