神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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最終章

淀み

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 淀みの中で、グレースとアマルマの意識と触れ合ってからのテュルケ

ットは、後悔と慚愧に押し潰されそうになっていた。


カイリを失ってからの数千年、只ひたすらにカイリの魂を呼び戻す事

だけに力を使い、淀みの浄化を四聖獣任せにしてきた。そして、溺愛に

近い程の愛情を注いで来た歴代皇帝の腹積りなど、分かった上で我儘を

聞いて来たが、エルザードだけは違った。


「テュルケット様、命は道具ではありません…ですから、貴方が与えたこの力を私はカイリ様の為に使うつもりはありませんよ」


私の腑が煮え返る様な事も平然と言い放つあいつを憎々しいとも思った

が、同時に面白いとも思った。

あいつは民の為に人生を捧げ、私はその為政者としての才覚を信頼し

ていた。だから…力を使い果たした瞬間の絶望は言葉では言い表せぬ程

だった。

裏切り。

この言葉が頭をよぎり、私は怒りから我を忘れ返事など返ってくる事の

無い世界で叫び続けた。しかし、あの日私が殺めてしまった人間の意識

と触れ合った時…溢れた怒りが静かに浄化されてゆく事に驚き、また想

像していた通りにエルザードに欺かれていた事実に絶望よりも何故か

安堵した自分がいる。



この漆黒の闇の中で、アマルマと久方振りに話をした。

アマルマの話すカイリと出会った後の自分を客観的に把握すると、

ただただ狂っていたとしか思えない事ばかりだったが、今でも心に燻る

想いはカイリの事だけで、そんな自分が嫌で仕方がない。



「アマルマ…私は…今でもカイリを愛しているんだ」

「私を殺すほどの想いなのね?」

「…済まなかった」

「貴方を私は許さない…許せない。人の子は神にとって自然の一部…なのに…貴方は執着して自分の子供すら手を掛けた…貴方はもう神ではないわ」

「…そうだな」


私だって、神という逃れられない役割を捨て去る事が出来るのならば、

とっくにそうした。だが現実は、手の内にある汚れた仕事に身を穢す

日々。信仰による束縛…お前は神なのだと…逃げる事は許さないと言わ

れている様で息が詰まっていたんだ。



姿の見えぬ闇で、アマルマはひたすらにテュルケットを罵った。

その罵りも、闇に消えるばかりでテュルケットからの返事は無く、

次第にアマルマは思い出した過去とテュルケットへの憎しみに

淀みへと変わり始めていた。

そんな状況も見えぬテュルケットは、やっとはっきりとした意識の中で

思い出していた。




この帝国が始まったばかりの頃は、皇帝宮へ戻っても、カイリは体を

許してくれても決して心は開いてくれず、私は権能や淀み落ちした

神の神核の欠片を与える事で歓心を引こうと躍起になった。

だが、それも意味がない事に気付いたのはフェルファイヤが側妃と

なった頃だった。


「ティル…私の事に口を出すのをそろそろ辞めてくれないか?」

「君が後宮に彼等を迎えたんだ…なのに彼等と共寝するなだって?じゃあ彼等はどうなる?後宮からも出れず、ただ私が来るのを待つだけなんて…子供みたいな嫉妬はやめてくれ」


全てはお前の為だと伝えても、カイリは聞く耳も持た無かった。

愛憎に任せ未来視の権能を与えた。これで私のなす事の意味も分かるだ

ろうと思ったからだが、カイリは余計に私を避ける様になってしまっ

た。何度も殺しては蘇生し、権能を奪い返すがその多くは既にカイ

リの子等に受け継がれ、誰にどの権能が引き継がれたかも分からな

かった。何もかも上手くいかない日々は苦痛だったが、憎くてもカイリ

さえ居てくれたならどうでもよかった。

夏だったか、冬だったか…肉体の感覚が曖昧な身体でも感じた、肌に

刺すような痛みを与える季節だった。カイリにへばり付く忌々しい

侍従のジジがカイリの遺体に縋り付きながらボソボソと何かを言って

いる。



「カイリ様、本日未明…身罷られてございます」



とうとう、カイリは私の手の中からすり抜けて行ってしまった。

もう、何もかもがどうでも良い。そんな無気力な時間がどれ程続いた

か、そんな日々の中で私の唯一の楽しみはカイリの権能の多くを受け

継いだエルザードの未来予知を歪め崩す事になった。そんな只の暇つぶ

しに私は熱中した。策を練るエルザードとそれを崩す喜びは、カイリへ

の憎しみと執着を忘れさせてくれる。


「テュルケット様…異界の者が…この世界を狙っています」

「貴方様でも避けられぬかと」

「はっ、天帝以外に俺を消す事はできん」

「これは…確定した未来。早々にかの者を止めねばこの世界は終わります」

「珍しいな、お前が俺の心配か?」

「この世界の心配をしているのです」

「私がこの世界だ」

「…ならば、放置なさいますか?それでも私は構いませんよ。いい加減…この忌々しい呪いの様な世界を解放したくもありますからね」

「…誰がこの世界を滅ぼす」

「…神居双葉…天帝の加護を受けし者」


天帝、その言葉で私は怒りで我を失った。そこからの事はよく覚えて

いない。気が付けばこの淀みの中を漂い続けていた。

アマルマの金切声も聞こえなくなって、ついに私は一人きりになって

しまった。



「淀みか…成程な。カイリ…エルザード…やってくれたものだ」



どれ程の時間が過ぎたか分からないが、早く抜け出さなくては魔獣と

なるか、天界へと昇天するか…どちらにせよ長居は出来ない。

さて、どうするか神核があるかどうかも今は分からないがこの世界は

私の世界だ。全ての権能を失おうとも淀みだとて扱える筈。

まずは身体を取り戻すとしよう。


「神核よ、我に従え」


暗闇の奥、ぼわりと光が灯ったその場所へテュルケットの意識は

近づいた。そしてその光に手を伸ばす様に意識を集中させる。


「私の身体よ…私の元に!」


「…誰だ…私の身体を使うのは⁉︎誰だっ⁉︎」


その光は確かにテュルケットの神核であったが、他の神々の神核が

混じり合う様に戸愚呂を巻いている。そして、そこに浮かび上がった

身体はカイリの身体であった。


「カイ…リ…やめろ、私を飲み込むな‼︎やめろ‼︎」


カイリへの捨て切れぬ執着も、憎しみも全てがその日カイリに飲み

込まれ、そして淀みに蠢く堕天の神々と共にカイリと都の身体にテュル

ケットは眠る事となった。

次第に禍々しい程の魔粒子と淀みがその身体を包み一つの塊となって

出口へと向かい始めた。
















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