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最終章
開戦
しおりを挟むもう俺には白虎の神核も無くなり、大隊長という肩書以外で
グレースと都の側にいられる理由を付ける事が出来なくなった。
何に執着して俺はグレースの側にいるのだろうとヤルダの姿を見て
考えた。執着する事に理由なんて物は必要ないのは分かっている。
だけど、俺は欲しかった。
『だから、俺にはグレースが必要なんだ』
理由という名の免罪符。
今のままで、俺が一体どう神の役に立てると言うのだろう…この命を
使う事以外にあいつの役には立てないだろう。
だが…グレースの側に居続ける為には死ねない。
グレースはこれから上神するらしい。
ホールで見たグレースの顔は、泣くでもなく、怒るでもない、
ただただ穏やかな顔だった。その時、俺は…俺達は悟った。
もう二度と誰かを愛する事は出来ない。
それ程に今もあいつの存在は俺達の人として、獣としての魂を縛り付け
ている。神となっても、もちろん俺達はあいつの夫としていつでも
その傍らに立つだろう。
しかし、権能であるらしいあいつが神となった場合、果たして俺達が
愛したグレースのままでグレースはいられるのだろうか?
不安と諦め、そんな感情が俺の中で渦巻いている。
「魔導隊総員配置に着きました」
「騎士隊同じく」
「特務同じく」
「近衛隊同じく」
皇城前の広場には、総勢三千の騎士達がビクトラの号令を待っていた。
そして、魔道具で通信を受けている各地の騎士達も同様だった。
「皆、聞いて欲しい。これより各地に淀みが出現すると思われる…その淀みを抑える為にグレース様は上神なさる。その祭祀と儀式が完了するまでは、淀みをこの帝都に近づけるな!我らが命、この機に懸ける!覚悟を決めろ!慄く者は隊服を脱ぎその場から立ち去れ…以上だ」
「「 応‼︎ 」」
ビクトラはそのまま手を空に翳し、獣体に換装すると咆哮した。
ビリビリと空気を震わす声に、各騎士達も換装してビクトラの後に
続いた。
西にはアガット、東は魔隊のザインカ、北はリャーレが指揮を執る
事となり皆既にポータルで各地に飛んでいた。
「ルーナ、良いのか?アガット隊長に着いていかないで」
新たに就任した魔導隊副隊長のザインカは、オブテューレの泉の前で
麒麟の記憶と話をしていたが、それも終わり教会の中で白剣を磨いて
いた。
「えぇ…なんだか予感がするんですよ」
「予感?」
「多分…ここで都と会えるって」
「…都様は…戻って来れると思うか?」
「取り戻します」
「そうか…」
ザインカは魔導銃に魔粒子を込めると、呪法を施しテーブルの上に
置いた。そして窓の外に目をやると、水面に佇む黄金色の麒麟。
麒麟はただ泉の底を見つめていて、ザインカにはこれから起こる事に
未だに危機感を持てずにいた。
ザー・・ザ・ザ…
「アイスより通信です」
魔導通信機から通信係の声が響いた。
「こちらホーン」
「アイス、マラエカです。戦闘に入りました。凡そ500体の腐敗獣が現れました。近く各地にも同等数の腐敗獣が出現すると思われます。警戒をしてください、オーバー」
「了解した。オーバー」
ザインカは魔導銃をホルスターに収めると、教会を出て待機している
騎士隊員を招集した。
「聞いての通り、時を置かずして戦闘となるだろう。後方魔導隊、背後の警戒を怠るな。腐敗獣を相手にしながらも泉は死守しろ!」
「応‼︎」
「散開‼︎」
腐敗獣が現れるとしたら山頂近くか泉と繋がる河川。
麒麟様がいる以上、この泉からは出てこれないだろう。
どこから来るか…ザインカは見張り台の騎士に目配せをした。
「隊長、東に700…黒煙です」
「来たか」
「ガット、防御結界を張れ」
「了解!」
ガット達が結界を張り終えた頃、腹に響く様な咆哮が隊員を包んだが、
隊員達は何故か冷静だった。
誰もが『必ず生きて帰れ』と言うグレースの言葉を思い出していた。
視界に腐敗獣が見えたが、その数は500を有に超えていた。
けれどなぜか皆笑っていた。
「戦闘を開始する!」
騎士隊が正面から対峙し、木々の上からは特務が援護する形でどんどん
腐敗獣を駆逐してゆく。隙間を縫って現れた腐敗獣は何故か山を降る
動きを見せた。
「?この先を降っても村や街、河川は無いはず…」
「そこの狐、彼奴らを追え」
泉の麒麟がザインカに声を掛けた。
「何故ですか…」
「彼奴らは神聖なる物を求めている…もしかすると淀みにあるテュルケット…いや、カイリの身体を求めているのかもしれん…彼奴の留まる場所からカイリは出てくるかもしれんぞ」
「⁉︎都様は淀みの浄化をなさるのでは?」
「さぁな。分からぬが…それが失敗したのであれば…出てくるぞ」
「‼︎」
ザインカは慌てて教会に入ると、通信係のピショットにビクトラと
繋ぐ様急かした。
「こちらホーン、アイスへ緊急」
「こちらアイス、どうしました?」
「大隊長へ繋げ!」
ザインカがピショットから通信具を奪うと叫んだ。
「こちらアイスどうした」
「腐敗獣を追え!その先に都様がいる可能性がある!本隊を襲わず移動する物はその可能性があると麒麟様からの言葉だ!」
「了解‼︎半分残して他は追うよう各地へ伝令!ホーンは麒麟様から情報を得てくれ!」
「了解!オーバー」
ザインカは部隊を編成し直すと、ガットを部隊長として腐敗獣を追わせる
事にした。
「隊長、俺はガットさんに着いていきます」
「ルーナ?どうするつもりだ」
「試したい事があるんです」
「試したい事?」
ルーナは都に貰ったペンダントを一撫ですると、ニコリと微笑んだ。
「都はここにも居たんです…だからこれを導に呼び戻します」
「どう言う事だ…」
「今の都には身体がない…魔粒子核も神核も無い…都の魂を縛っているカイリ様の身体は完全では無い。たった数本の髪と魔粒子核の欠片…それだけで出来てる」
「テュルケットの神体を奪っても乗り換える事はしないでしょう」
「それに、このペンダント…サリザンドに鑑定してもらったんですが、都の魔粒子と…神核の欠片が入っていました…俺とサリザンドの物だけにです…大丈夫…ちゃんと都の愛があるから…応えてくれると信じてるんです」
「分かった…必ず、御守りしろ。都様を」
「はい!」
ルーナは教会を出ると、ガットと合流して腐敗獣を追った。
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