神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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最終章

旅の終わり

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 二人がこの世界を任されたのはこの時の為だったのだと、

コルはその光景をぼんやりと眺めながら思った。

まるで全てがスローモーションの様で、コルの隣を

騎士隊員や瓦礫が飛んで行く。

何もかもを吹き飛ばしたグレースが、白いモヤの塊をその手に

救い上げ包み込むと頬擦りした。

コルは、グレースもまた都の消失を知ったのだろうと、重い瞼で

瞬きをしながら天を仰ぐ。

夜空には月が二つならび、教会の壊れた天井から光を注いでいる。


「コル!!」


背後から、ビクトラが足を踏みしめながらやって来た。


「どういう事だ!なんだこの風と光は!?」

「…グレースが力を使った…だが…都が逝った」

「なんだって?も一度言ってくれ!聞こえない!」


何度も言わせるな…

こんな言葉、口にするだけで心が、魂が消えて無くなりそうなのに。

無言のコルの肩を掴み近寄ると、ビクトラが顔を近づけた。


「逝くようだ」

「誰が!!どこに!」

「都だ」

「何…馬鹿な事を言ってるんだよ!グレースが上神したんだろ!?」

「間に合わなかった」


ビクトラも、視線をコルが見つめる先に視線を向けた。


グレースは黒い魔粒子を纏めると真っ白な都の魂を包み込んだ。

すると、白い魂はぼんやりと都の姿に変わっていった。


「俺は天光…蘇りの権能…そうだよな?都」

「グレース…ありがとう…でもその権能は一度切りの奇跡…使い所じゃないよ」


「いいよ、俺はもう良いんだよ」


その言葉に、悲し気に都は微笑んだ。


「グレース、来てよ」


グレースは都の広げた腕の中に飛び込んだ。

その光景をビクトラとコルは動けずただ見つめていた。



「都、俺やっとわかったんだよ!俺はただ、都に気付いて欲しかっただけなんだ」

「うん」

「俺はここにいるよって…都の一部なんだよって…ただ知って欲しかっただけだったのに。欲の塊の俺は望んじまったよ…誰かを愛せるんじゃないかって…でも、俺の愛は…自己愛だったんだ」

「グレース、それも大事な愛だよ。俺は自己愛の無い人間だったみたいだし…グレースが俺を大切にしてくれて、嬉しかったんだよ…そう。俺は俺を大切に出来る人間だったんだ…気付かせてくれてありがとう」


「俺の魂を使って良いから、もう一度二人で一人になろうぜ?」

「グレース…どんな世界にあっても、失った物は戻らないんだ…俺は、俺に戻れない」


その言葉に、グレースは泣き笑いしながら都の頬を両手で包んだ。


「そんな事、言うなよ」

「グレース…大丈夫だから」

「都が居なくて、俺はどう大丈夫だって言うんだよ」

「自分を信じてくれよ…俺はお前だろ?またいつか…会えるから」

「そんな気休め…ここで言う事じゃないだろ?」


次第に薄くなり始めた都の残像に、グレースは泣き叫んだ。


「ジジ!!!どこだ!嘘つき!嘘つき!俺はこんな事望んじゃいない!都を返せと望んだんだ!」

「ヴィク!コル!都がここに居るんだ!消えちまう!消えちまう!なんとかしてくれ!」



その言葉に、ビクトラとコルは慌てて近寄ってグレースの掴んでいる

魂に魔粒子を流しだした。

そして、外に吹き飛ばされたサリザンドとルーナ、神体が足を引き

ずり、教会に戻って来た。


「サリザンド!ルーナ!急げ!都の最後に間に合わない!」


ビクトラの言葉に、三人は顔を見合わせグレースの側に顔を歪ませ

ながらも走った。


「都様!私の中に早く!」

「ラファエラ?ごめんな…後を頼むよ…この世界を愛してやって?グレースを愛して守って…」


体は既に消え、ゆっくりとその微笑む顔が消えていく。


「都?都…俺だ…なぁ、側に居るって言ったじゃないか…」


サリザンドは呪法や制約を震える手で魂に施しながら、都を見つめて

いて、ルーナは言葉も無く笑顔の自分を覚えていてほしくてただただ

微笑んで都を見つめた。


「ルーナ…サリィ…俺…行くから…待ってて…ルーナとサリィの側に………」


静かに都の魂は消え、そして教会は暗闇に包まれた。


「グレース、この都の魂には…私の力を与え、輪廻の輪に戻そう」

「天帝…嫌だ!戻さなくていい!俺に返してくれ!頼むから!」


跪き涙でボロボロになったグレースの頭を天帝はそっと撫でた。


「すまなかった…獣人の子等よ。全ては私の所為だ…しかし理を崩す事は出来ない。代わりに世界を癒そう」


そう言うと、天帝は神力を世界に放った。

その力は奇跡だった。

枯れた大地は溢れる力で満たされ、水は清く世界を流れた。

傷ついた者は癒やされ、淀みの世界が完全に消え去った。


「いつかはこの星も命の灯を消すだろう…しかし、まだずっと先の事だ」


そういうと、天帝は都の魂を掌に乗せ天界へと帰って行った。



「天帝!俺はそんな事望んじゃいないんだ!この世界が消えようと、俺は…俺は…」


うずくまり、小さくなったグレースをコルは抱きしめた。


「グレースよ…都からの伝言だ」

「え…?」

「子を生せ…そう言っていた」


その言葉にグレースは目を瞑った。

「ひでー奴だよ…本当…お前のいない世界で生きて行けって?子供を産んでも…俺は愛してやれねぇよ!」





都のいなくなった世界はそれでも朝を迎え、人々は都の存在を

忘れたかの様に淀みの消えた世界を、魂の無い都の神核を受け継いだ

神体の存在を喜んで迎えた。








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