神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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最終章

其々の未来(1)

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 都の魂が消え、その神核を持つラファエラと四聖獣が神体となった

グレース神は唯一神として神殿に入る事となり、その事は淀みによる

帝国襲撃の終息宣言と共に広く公布された。それから、帝国民は

復興に向けて歩み出していて、暗くどんよりとしている王侯貴族達とは

対照的に皆笑顔だった。


「陛下、明日の正午よりのご予定をお持ち致しました」


サリューンの執務室に侍従のカナムが書類と共に現れ、扉の外で

返事を待っている。



あれから二ヶ月が過ぎても、未だ城内に活気は戻っていない。

陛下を始め、貴族の方々は己の無力さを突きつけられたかの様に

屋敷や領地に引き篭もり、誰も何も言わない。陛下も、御覚悟は

されていたのでしょうが、神力を失ったグレース様との別れに大層

御心を痛めてらっしゃり、トルケン殿もどうすべきかと頭を抱えて

いる。

そして、私はというと…何も思わない。いや、実感が湧かないと

言った方が良い。至る所にグレース様の記憶が残るこの場所で

暮らしていると、分からなくなる。

本当にグレース様、都様は居なくなってしまったのだろうか?


「入れ」


暫くしてサリューンの低くガサついた声がして、カナムは扉を開けた。

そこには、酷くやつれて精気の抜け切ったサリューンが椅子に座り

公務をこなしていた。


「失礼致します。本日のご予定でございます」

「あぁ」


最近めっきりと食が細くなって、人が変わった。当初は荒れ狂った

陛下も、ようやく都様の死を受け入れ、グレース様の旅立ちをお認めに

なられた。

この日常がいつかは当たり前になる。そう、辛いのは今だけです。

陛下…苦しみは、いつかは癒える物です。


カナムは執務室の扉を閉じると、頭を上げて歩き出した。


「カナム殿」


通路から、ビクトラとアガット、リャーレがサリューンの執務室へ

向かう為に歩いていて、ビクトラがカナムに声をかけた。


「大隊長殿おはようございます」

「あぁ、おはよう。陛下のご様子は?」

「お変わりございません」

「そうか…」

「ご挨拶に?」

「あぁ。引き継ぎも終わったからな、俺はもう大隊長じゃ無くなった」

「ご苦労様でございました」

「カナム殿も、どうか体には気を付けて」

「はい。ですが…まだこの体から魔粒子が生まれなくなった事に慣れませんね」

「…そうだな」



天帝からの祝福の後、人々の身体から魔粒子が生み出される事は無く

なり、空と大地が循環させる魔粒子だけとなった。身体も変化したのか

魔粒子を取り込む事は出来ても、その魔粒子を力に変える事が出来なく

なった。しかし、そのお陰なのか魔粒子汚染は無くなり人々の健康状態

はとても良くなっていると言う。


「いつ御出立を?」

「来週にはな」

「そうですか…確か、オブテューレの方に居を構えたのでしたよね?」

「あぁ…グレースが…いや、今はカムイだな。あいつがまだ都の神力の残るあの場所に居たいと言ってな」

「左様でしたか。カムイ様はお元気ですか?」

「……もう少し、時間が必要だ」

「そうですか。御辛いですね…そう言えば、お聞きですか?」 

「何をだ?」

「ジジ様が見つかりましたよ」

「‼︎ 」

ビクトラ達は顔を見合わせ驚きながらも、カナムの肩を掴んだ。

「どこに居る!」

「ご遺体は教会に安置されています」

「…死んで…いたか…」

「はい」

「どこで死んでいた?」

「西の森です」

「…あいつ。何がしたかったんだ…あいつが力を使わなきゃ、こんな事にはならなかった」

「これも…全て、予言通りだったそうです」

「!予言はもう記されて無いはずだろ⁉︎」

「グレース様の持つ最後の予言書に、都様の消失後…文字が浮かんだ様です。その内容は都様の消失から黄龍様、ジジ様の死、テュルケット神やアマルマ様の消失まで…事細かに記されてあったそうです」

「……エルザード様は何故そんな事を」

リャーレも、訝しげにカナムを見ながら溜息を吐いた。


「今更だ。もう何も返って来ない…皆、全てを失ったんだ…行こう。カムイが待っている、早くご挨拶を済ませよう」


アガットはそれ以上を聞く気が無いのか、一人サリューンの元へと

向かった。


「失礼しました。私もここで、お別れのご挨拶を」

「あぁ、これからも陛下をよろしく頼む」

「はい。お任せを。皆様のご多幸とご健勝をここからいつまでもお祈り申し上げます」

「あぁ、ありがとう」


挨拶を済ませ、三人はサリューンの元を訪れた。


「陛下、ビクトラ様方がお見えです」


トルケンがサリューンに声をかけ、扉を開けた。


「陛下、御暇のご挨拶に参りました」

「…」

「陛下?」

「グレース様は如何だ」

「カムイですか?」

「グレース様だ‼︎」


バンッと机に拳をぶつけたサリューンは、はぁはぁと息を荒げ机を

叩き続けた。


「陛下…」

「私が!私が愚かだったのだ!何も検証せず、過去の神などを信じた私が愚かだったのだ!上神だと?何の意味があった!ただ失っただけでは無いか!魔粒子を不要とするこの世界に神なんぞに意味があるのか?」

「……ですが…これで、都もグレースも…解放されたのです」


ビクトラの言葉に、サリューンは目を見開いたまま椅子にドサリと

座り込んだ。


「彼等に…私達はどう報いたら良い?神々に弄ばれ…身を削り…穢され…死んだ」


涙を零し、天を仰ぐサリューンは只管に自虐していた。

国の為にグレースに死地に追いやり、都を見捨てたに等しい選択を

何故あの時は出来ると、上手くいくと思っていたのか。ただその事を

悔やみ、眠れぬ日々をサリューンは過ごしていた。


「生きるんです…生きて、生きて、生き抜いて…都が守った世界はこんなにも美しいのだと…後世に伝える事が…報いでしょう」

「そんな物…報いではない…ただの自己満足だ!」

「えぇ…ですが。都はそれを望む筈です」

「私は…グレース様と都様のお側で、ずっと国を守れると思っていたんだ…」

「陛下…ならば。早く世継ぎをもうけ、退位された後…オブテューレにお越し下さい。我々もその日を心待ちにお待ちしますよ」

「…お前は…いつも軽いな」

「カイリが最近、やっと二時間眠れる様になりました。少しづつ、世界に馴染んでいくでしょう。ですから、未来でまたあの笑顔に会う為に私は変わらずにいると決めました」

「……そう…なのか」

「はい。やっとです、やっと眠れる様になってきました」

「そうか…」

「ですから陛下、カムイが笑顔でお迎えする時にはもう少しまともな御姿で居てくださいよ?今の御姿は酷過ぎます」


その言葉に、サリューンは笑って頷き椅子をくるりと回して三人に背を

向けた。


「では、これにて御暇のご挨拶と致します。陛下に神の御代が輝かしい物であります様、お祈り申し上げます」


三人は跪き礼をすると執務室から退出した。


「そうだ、いつか…グレース様に笑顔で会える様に…私も前を向かねばな…」



まだ癒えぬ傷を抱えて、其々の未来が動き出した。

カムイと名を改めたグレースは、オブテューレ山の麓の小屋を

改築して住む事になり、ビクトラ、リャーレ、アガットも騎士隊を

退団してビクトラは西の領主に戻り、リャーレは領主補佐、アガットは

管理官として働く事が決まった。ポータルを利用し、彼らは仕事を

終えると家であるオブテューレの小屋へと通う日々を送っている。


「ただいま、カムイ。今日はどんな一日だった?」

ビクトラは窓辺にへばり付くカムイの頭にキスをして頬をくっつけ、

カムイの視線の先に目をやった。


「…都が…そこの草むらで…大の字になって寝てるんだ。俺は今日一日、それを見てたよ…今だって…声を掛けなきゃ居てくれるんだ…酷い奴だよ…都は」

荷を下ろしたリャーレも、グレースの頬にキスをするとそっと抱きしめ

て懐から小さな包み紙を取り出した。


「カムイ様、ほら。これ、大好きなアプーのお菓子です。口を開けて下さい」


リャーレに言われるまま、カムイは外から目を離さず口を開けた。

その口に、リャーレは焼き菓子を少し入れてやった。


「都にも、分けてやってよ…あいつもこのお菓子好きだったから」

「はい。後程お渡ししておきますね」


にこりと窓の外に微笑みながら、窓辺から離れないカムイの側に

三人は腰掛けて、ビクトラは酒を飲み、アガットは編み物を始め、

リャーレは本を開いた。穏やかな夜が四人を包んでいった。


































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