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最終章
其々の未来(2)
しおりを挟むコルは一人、今はもう無いガーライドナイトの地に立っていた。
砂煙る丘で、コルは荒廃した元領地を見下ろし泉のあった場所を
探しながら思い出していた。
都の消失の後、発狂し荒れ狂ったカムイを宥めたのはコルだった。
「コル!都がっ!都が…お、俺が…俺が…死ねば良かったのに」
泣き続け髪を顔中はり付けているグレースに、以前の様な輝く
美しさは無く、ただ顔面蒼白で死人の様な顔をしていた。
グレースよ、それを言って何とする?都はとうに心を決めていたのだ
ろう…。都を思うのならば、生きてあの世の都に胸を張って会いに行け
るよう、前を向くしかあるまいよ。
しかしな…我とてお前の気持ちは分かる。完全に諦められる訳は無い。
我は朱雀…孤独には慣れている…筈だった…。
いつからか…都はグレースが言わぬ言葉を言ってくれる様になった。
『朱雀さん、大好きだよ』
『二人の子供が欲しいよ』
都がくれる言葉は我を孤独から解放した。
なのにまた孤独にするのか…都。
「グレース、我を待てるか」
「何言ってるんだ…どう言う意味だよ」
「我は、月読命が…八百万の神々がこんな事を許すとは思えぬ」
「‼︎」
「世界を回り、都を取り戻す術を探そうと思う」
「コル…」
「だから、それまで諦めず待てるか?」
グレースは溢れる涙目を拭うと、無理矢理に笑顔を作りコルを見て
頷き抱きしめた。
「コル…お前は心だ。俺達の心だ…諦めない。待つよ」
「ならば、良いか。希望を捨てず前を見ると…約束してくれ。ゆっくりでいい、決して自暴自棄などになるな」
迷いのないコルの眼差しに、グレースは『ああ、諦めない』そう言い
コルの腕から離れた。
「確か、屋敷はここらであったか?」
「いや…もっと奥だったか…ううむ。地図を貰ってくるべきであった」
コルは太陽を見上げ、方向を探り記憶にある領主館を探した。
「ここで合ってますよ」
コルはその言葉に振り向くと、そこには大荷物のサリザンドと
ルーナ、ソレスが立っていた。
「何だ?お主らも来たのか」
「えぇ…私達も都を黙って失うつもりはありませんからね」
「そうだよ、俺だって都を簡単に手放す程物分かりは良くないんだ!」
「おっ、オラもあんな別れ方は嫌だす!ちゃんとオラも都様に伝えたいんだす!」
ソレスは依代を纏っておらず、本体の身体で都を探すサリザンド達に
着いて来ていた。
「…お主、その口調。ソレスか?」
「んだ!オラの本体だす!これなら都様もオラの事…ペットじゃなく、お、男として見てくれる筈だで!」
それまで依代で活動していた為か、身長はコルと同じ程だが痩せて
筋肉も無く、金色の髪と緑の瞳が強調されたソレスはまるで病人の
様であった。コルはソレスを見て、こんな身体では都を探し出す前に
ソレスが死ぬのではないかと思った。
「…お主。養生して出直した方が良いのではないか?」
「酷いだね!オラも旅に出たら皆と同ず位にムキムキになるだよ!」
「「……」」
余りにもムキになって顔を赤くするソレスに、三人は思わず笑い
出した。そして、ルーナはふと我に返り呟いた。
「あ…どれ位振りかな…笑うなんて…」
色々ありすぎた。ガーライドナイトで都がグレース様と離れてから
4ヶ月…最後に都と笑い合ったのはいつだっか、もう忘れそうだ。
きっかけはラファエラとの出会い。それまでの都は柔和で甘やかしたい
のに、甘えてしまう。そんな優しさの塊の様な人だったけれど、
ラファエラとの融合からの都は…ふわふわとした雲の様に掴み所が
無く、追いかけなければ逃げられる。そんな狩猟本能や焦燥感を煽る
所があった。何を考えているのか、いつ突拍子のない事を言い出すかと
俺もサリザンドもヒヤヒヤしていたな。結局、こうやって俺達の手の中
からすり抜けて行ってしまった。
けれど、俺とサリザンドが都を忘れる事も、手放せる筈も無いんだ。
実らない筈の初恋が実ってしまったのだから。
ルーナは三人を見て、ニカっと笑い背負っている荷物を背負い直した。
「俺はさ、これがまた都へ導いてくれると思ってるからさ、笑って都を探そうと思ってるよ」
そう言うと、ルーナは首から下げていたネックレスのチェーンを
指に掛け、ペンダントトップを揺らして見せた。
「うむ。では我は泉の跡から都の残滓が無いかを探すとするか」
「俺は師匠の家跡を探す。それに、呪法も制約も使える魔粒子に制限がある以上無闇には使えないから、何とかして使えるような方法を探す」
サリザンドは眼鏡を外して服の裾でレンズを磨くと、アーティファクト
のレンズを上から嵌めた。
「俺は拠点に出来るような小屋でも作るかな…ソレス、手伝ってくれない?」
「分かっただ!オラまだ魔粒子に余裕あるだで、砂から石壁作るだよ!それさあれば家位なら作れるだ!」
ソレスはルーナと共に小屋を建てる場所探しに出ると言って二人と
分かれる事にした。
「なら、拠点予定地が決まったら信号弾上げるから」
「「分かった」」
こうして其々が都を取り戻すと言う目的を共にして動き出した。
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