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最終章
最終話 2 終わりの始まりへ
しおりを挟む『グレース神、何をやっている』
グレース神は顔を上げると、光の柱の中に立つ霞の様な誰かが
こちらを見ているのに気が付いた。
誰だ?大国主では無さそうだが…。
『私は天帝の命を受け参った。司命神君である』
司命神君?一体天帝の遣いが何の様だ。
『彼の身体を授けに参った』
‼︎
『天帝は悔いて居られる』
一体何故だ?天帝が何を悔いる
『カイリ様を、下界を見離していた事、神居都を助けられなかった事』
『天帝は神居都の子孫、東藤都の身体をこの世界に降ろす事を許された。しかし、人として降ろす事は理を歪める…故に神体としてこの身体に彼の魂を受肉させると良かろう』
それは…都様は受け入れては下さらぬかも知れぬな。
もう神として生きたくは無かろう…カムイともいずれは生き別れる
事になろうしなぁ。
それより、都様の魂はどこにある?
『既にこちらに向かっておる。あの神官に眠っていた記憶は魂が近付き引き寄せられ宇宙へと向かった』
『私は役目を終えた…天界へ戻る…ではな』
すぅっと光は消え、泉の台座には真っ白な肉体が横たわっている。
長い時、言葉を交わしていた様で、瞬く間であった時間は元の長さに
引き伸ばされて、動きを止めていたカムイ達をまた動かした。
「…都…起きて、起きて‼︎」
マルスの身体を必死に揺すり、カムイはオロオロと震えている。
サリザンドは慌ててペンダントやカフスを手にし、泉へと振り返った。
「…なん…だ、あれ…」
皆、サリザンドの言葉に振り返る。
差し込む光にキラキラと水は煌めき揺れていて、
神々しく光に包まれた肉体の、その細く白い手足を浮かべている。
「都様の依代として天帝が準備した様だ」
「グレース神…いつの間に…それにしても天帝?」
その一言で皆、怪訝な顔をしていたがカムイは立ち上がると
泉の中に入っていく。
都、帰ってくるの?
今度こそ本当だよね?
都…またさよならなんて事になったら、俺は次こそ皆を捨てて
側に行くよ。もう疲れたよ、都の居ない世界は虚しい。
また、一つになりたいな。
昔はこんな虚しさも、孤独も感じなかった。
皆んなが側にいてくれたからだと思っていたけど、違った。
俺は都の半分で、都の半分が俺だったんだ。分かっていたけど
やっぱりそうで、こんなにも寂しい事だなんて思わなかった。
「天…光…」
グレースの口を吐いて出た言葉は、その横たわる肉体の光を集め
細い光の筋となり、一直線になると天井を突き抜け空へと放たれた。
「「‼︎」」
グレース帝国、世界全体が一瞬の内に闇に呑まれ、皆息を飲んで
穴の空いた天井を見上た。すると、
闇の中でキラリと輝く小さな光に皆気が付いた。
光はカムイを目指して物凄いスピードで地上を目指して加速し、
横たわる肉体の上にふわりと降り立つとふよふよと浮いている。
「都様の魂のご帰還である!皆っ!跪けっ!」
グレース神は袖を払い、神力で皆の身体を床に押し付けると
首を垂れた。
だが、カムイはその光に近づき額を寄せ全てを委ねている。
グレース…
「都」
俺の強くて弱い欲望と執着。
「俺の主人、都…待ってた…ずっと」
一度帰っておいで。また一からやり直そう…3人で。
「あぁ!あぁ!勿論だ…ラファエラ!」
「都様、カムイ…共に」
カムイとグレース神の会話に、光がスッと消えて真っ暗になった
光の間に、何も見えないビクトラ達は声を上げた。
「カムイ‼︎何を喋ってる!どこだ‼︎」
「グレース神、おいっ!何をするつもりだ!」
「カムイ様?」
「「都⁉︎」」
「都様!どこだんべ?」
彼等の声に、カムイも、グレース神も反応しなかった。いや、
出来なかった。
魂と記憶、神と人、宇宙の様に無限に広がる心の海で3人は
向き合い手を繋いだ。
「俺等は三人で一人。また分つ事があっても心はいつも一つ」
神としての力、人としての本能、そして神居都の心が一つとなり、
この世界での記憶が魂に刻まれると、白くぼんやりとしていた
人形は、次第に輪郭を作った。
「俺はグレース。グレース•カムイ•クラリス…この世界の神として
生まれ変わる…さぁ、皆んなの元に帰ろう」
暗闇に、目が慣れてきた皆は泉に目を凝らした。
チャプチャプと音を立てる泉に近寄るべきか迷っていたが、
コルは立ち上がり手探りで泉の縁に近寄ると手を伸ばした。
「都、カムイ…我はお主らの導き手…心だ…さぁ、戻って来い」
すると、横たわっていた肉体が手を伸ばしコルの指先を掴んだ。
コルは微かな温もりと、都の神力を感じると昔の記憶が甦ってきた。
神核に口付けして姿を現したコルを見て気絶した姿。甘い声で囁き
見上げた瞳、その全てで都は笑顔だった。
「…よく…戻ってきてくれた…ふぅっ…はぁ…ぐすっ…」
「コル…皆んな…ただいま」
その一歩を躊躇う程、穢れを、そして温も知らない真っ白な雪の
様な髪と肌。また、その銀世界を思わせる肌の中で全てを見通す
様に透き通った瞳は大地を覆う稲穂の様な黄金色だった。
呆然とその姿に見惚れる誰もがその瞳の中に生命の原風景を見る。
サリザンドの固く握りしめられた手からサラサラと神核は溶け出し
その身体に還ると、胸元で一つになりすっと消えて無くなった。
ブワリと七色の幕の様な魔粒子に身体は包まれ、失った権能、神力、
魔粒子核がその力を覚醒させた。
やはり人ではなく、神として復活したか。
そうサリザンドはがっかりしつつも立ち上がった。
「都…おか…えり」
サリザンドは、その力の入らない足を縺れさせながら駆け出し
ザブザブと泉に入ると真っ白なその身体を抱き締めた。
ひやりと冷たいその身体を温める様に、コルも羽を広げ二人纏めて
抱き締めながら焔を散らす。
「サリー、コル…皆んな…」
「都…カムイは何処だ…」
カムイの姿が見えない事に不安を覚えたアガットが闇の中から
声を上げた。
「心配しないで、アガット兄さん…ちゃんと返すよ。グレースは人間の身体と魂がちゃんと繋がってなかったんだ。だから魔粒子を取り込めなくてあんなにも身体が萎れてた。俺が受肉したらちゃんと人形に戻して3人に返すから、安心してね」
「本当か?」
「嘘なんか吐かないよ!…ありがとう。俺を今まで大事にしてくれて…だから寂しいけどちゃんと帰すよ。兄さん達の元にね」
コルに抱かれ、その熱波で冷えた身体に熱を浴びた都はぐんっと
背を伸ばし、赤い羽根を撫でる様に抱き締めた。
俺は不思議な感覚に戸惑ってる。
何故だかわからないけれど、身体が、魂がすごく馴染むんだ。
まるで日本にいた時の様に。
手をにぎにぎと開いては閉じ、その感覚の滑らかさに
都は驚きを隠せないでいる。以前の様に身体を激しく動かしても
意識や感覚が身体から一瞬離れるようなブレる感覚も無く、
ピッタリと意識と体が同調していた。
本当に意味が分からないけれど、俺だったと思えるほど俺なんだ。
この身体は一体?
まさか…いや、深く考えるのはよそう。
知って終えば俺は後悔する。
大切にしよう…諦めたり、手放したりはもうしない。
今は皆んなに会えた事を喜びたい。
「コル…ただいま。俺の愛しい小鳥」
「都、カムイ…よく戻った」
「ビクトラさん、リャーレさん…兄さん…俺…戻って良かった?」
3人はゆっくりと近寄ると、力一杯都を抱きしめ泣いている。
其々の懺悔したい程の後悔は泡の様に弾けて消えてゆく。
都に救われた命、リャーレとアガットはその場に跪くとその足に
口付けして平伏した。
「都様…私の命を救って下さった貴方にまたお会い出来た事を、何よりも喜ばしく思います。この命、都様の為にならいつでも差し出しましょう」
「都…俺は兄として失格だ…お前を守れなかった…毎夜己の愚かさにカムイにも、お前にも…申し訳無い気持ちが溢れて…」
「兄さん、リャーレさん。全ては俺の選択だったんだ…だからそんな気持ちは捨ててよ…それに」
「都様?」
「俺はこの世界の神様らしいしね…皆んなを守るのは俺の仕事だ」
「「‼︎」」
喜びの再会は一瞬の内にどよめきに変えた。
神としての復活。
それは俺達と生きてはいけないという事なのか?
ルーナやソレス、ビクトラは顔を見合わせ戸惑っていた。
「人としてこの世界に生まれる事は叶わなかった。もしかしたら神殿から出る事も叶わないかもしれない…でも、俺は皆んなを諦めないからね?側に居てくれるよね?」
都は今にも泣きそうなサリザンド、ルーナ、コルとソレスを抱き寄せ
皆の唇にそっとキスをした。
「はぁ…これまでの苦労はまた水の泡か…まぁ、それが人生だな…思い通りにならない」
「サリー…君が俺を諦めなかったから…総長になって、俺はマルスの中で目覚められた…ありがとう…だからさ、サリューと話をして神殿から出れるなら…一緒に暮らそう…ずっと側にいるから」
「ちょっと!俺だってこの生活力の無い男どもを支えてきたんだよ?それは全部都の為なんだけど⁉︎」
「ルーナ!当たり前じゃん…ルーナにも感謝してる…俺の心は…側にいる…ずっと」
「しかたないなぁ…ねぇ都…お帰り。俺の愛する都」
以前の姿とは似ても似付かぬ物であったが、ニコリと
涙ぐみながらも見せるその甘く柔らかな笑顔は都その物だった。
次話で本作は終わります。
ダラダラと続きましたが、残り一話。
最後までお付き合いのほど、宜しくお願いします。
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