神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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SS 新しい家族

産前の不安

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「ふぅっ」

 検診から更に1ヶ月が経ち、都の腹部は目に見えて迫り出していた。既に臨月だろうと言われても疑わないその大きさに、皆ヒヤヒヤしていた。

「都、荷物は俺が持つ」

「兄さん。大丈夫、大丈夫」

「いいから」

 その腹に、サリューンの子が居る事が広く世界に公布され、産前産後は王宮で暮らす様に言われた都。流石にそれはと断ったが、サリューンの子に何かが起きては困ると言い含められ、渋々居を王宮に移す事になった。コルとソレス以外は王宮に部屋を取る事となり、家に残ると言った2人を都とカムイは何とも言えない気持ちで残したが、2人が検診後から微妙に都達と距離を置き始めている事に気がついていた。

「よいしょ。はぁ、あっついなー」

「流石に4人も腹に居ては暑かろう」

「うん。最近じゃボコボコ蹴られて寝れないし」

「ルーナの子か?」

「ふふ、だろうね。腹ん中でも飛び跳ねてんだよ」

 馬車に都とルーナ、アガットが乗り込んだ。既に馬車で待機していたサリューンが都を膝に乗せようとしたが、危ないと諭されてしまった。

「さぁ、都様。私が腰を摩ってさしあげますね」

「ありがとうサリューン」

 そっと空いた手を腹部に当てて、サリューンは嬉しそうに耳を当てた。ぽこぽこ、ぐるん。ぽこぽこ。

「子供達が遊んでいるのでしょうか」

「仲良く遊んでいるんでしょうね」

「そう言えば、残りの一体はどなたの子でしょうか」

「……多分、コルでしょうね」

 前回サリューンと睦あった翌日、都はコルの部屋で寝た。激しい夜を過ごすでも無く、ただ繋がっただけ。都を気遣ったコルは挿入した物の、ただ動かすじっと都の中に居た。都にはそれでコルが果てたかどうかは分からなかったが、繋がった体、ただその暖かい体で抱きしめてくれた彼が愛しかった。

「最近、ソレスとコルが辛そうで」

「……仕方ないよ。都とカムイ様は2人しか居ないんだから、全員平等に想うなんて出来ないだろ?」

「……そうでもないよ。みんな違った部分で唯一だ。ソレスと居ると、何にも考えずにただ笑顔でいれる。それってとっても得難い存在だし、コルは……導なんだ。いつだって彼の中には0か100しか無くて、心が迷う時、失敗するかもって不安になっても彼が離れないと言えばそうなんだと思えた。だからいつも安心してたし、信頼してるんだ。でもいつの間にかそこにいて当たり前だって思ってた」

「もし、2人が出て行くって言ったらどうするんだよ」

 俺にそれは止められない。でも嫌だ。
我儘なのは分かってる。

「そうだなぁ。一度手放して取り戻すかな……俺は優しいだけの神様じゃ無いんだって教えてあげる良い機会かもなぁ」

そう、離れても離さない。
いつの間にかサリーの思考が移った様だ。
コル、俺は君に返さないといけない物があるんだ。でも、それを返せば君は俺の側から離れて行くんだと思う。だから、悪いけど……俺が死なない内は俺の物でいて。今は好きにさせようと決めた。

「欲張りになったもんだな。俺も」

 これから先、俺は皆んなの死を看取っていく事になる。そんな事を想像する度に気が狂いそうになって、俺は体で繋がりを求めた。そう、それはまるでカイリの様で吐き気がした。

 またこの世界に生まれ変わった俺。でもそれに付随した役割は呪いの様にも思えてならない。

「ルーナ」

「何?」

「俺が人間になる方法ってあると思う?」

「え?どうしたの急に」

「……何だろう。空気の香りを感じたいのかな」

 本来俺に呼吸なんて必要ないし、食事やセックスだって必要ない。子供だって神魂から生み出せるんだ。だけど俺は受肉したこの肉体を使って生活しているし、これからもそうするつもり。でも、たまに分からなくなるんだ。今嗅いでいるこの香りが、口にしている物の味が本物なのか。

「ねぇ、コルはさ。神魂を返納してる。でも獣人として生きてる……ならそれも可能なんじゃないの?」

「四神と神とは違うんだ。そもそも四神は役割であって、存在では無かった。人々が迷わぬ様、運命の導として存在しているのが四神。彼等がその役割から逸れた場合、その神魂は次代に引き継がれ役目を終える。彼等はその中で番って子を成す事に成功したんだ。その子供らに役割は無いけど、神魂の欠片を引き継がせる事は出来た。コルはそれをする前に神魂を返納してるし、次代の朱雀はコルがこの世界に来た時には役目を引き継いでるから……俺は同じ様にこの世界の命として生ては行けない」

「ねぇ、そうなるとさ。子供達に……神魂が出来る事ってあると思う?」

 考えなかった訳じゃない。その可能性は大いにあるし、もしそうなったら俺はこの世界でカイリの二の舞になる。子を産めばその子は神の力を持った獣人として生ていく。寿命も無いかもしれない。

「……無くは無いよ。俺が恐れてるのはその一点だけだ」

「都…」

「そんな事を今心配して何になります。この世界に君主制が無くなった時、子供達が手を取りあって守って行くなら……悪い事では無いでしょう?」

「彼等には自分で人生を作って欲しい。義務や責任に囚われる人生は与えたく無い」

「都、それは酷と言う物ではないか?」

「兄さん?」

「一体どれ程の獣人が、己に義務があれば、責任があれば良いかと嘆いているかしっているか?」

「え?」

「自由と言う言葉は美しい。だが、その中で一体どれ程の命がその自由に悩んでいるかわかるか?己の進むべき道を見出せず、ただ消費するだけの日々に苦悩し、何故生まれたのか。そんな無意味な問い掛けに苦しむ。それを考えれば、成すべき事のある生程……羨ましい物は無いんだ」

 俺はいつの間にか忘れていた。
過去世の神居都としての人生で、やりたい様に生きていたつもりがそうでは無く、無意味な選択の連続で、それが人生だと諦め受け入れていた事。都度都度そこに幸福はあってそれに満足もしていたけれど、もしも歩むべき道があったなら。そしてそこに夢を抱けたなら……これ程有意義な人生は無いだろう。

「そうか。なら、もしかしたら俺は子供達に最高のプレゼントを用意してあげられるのかもしれないね」

 神魂の譲渡。それは神の死。その先で俺はまた人としての人生を歩めるのだろうか。

「都様、不安は母体に悪影響です。今はただ楽しい未来を考えましょう?」

 優しく、愛しい夫達。まるで草原に寝転ぶ様な清々しい気持ちで俺はサリューンの膝に頭を預けた。









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