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第一部:辺境伯の地

エルフの繋がり

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「ライノたち、ウォーベアを倒した後でラスティユの村に寄ったって言ってたろ?」

「ああ、熊肉で宴会になって、もの凄いごちそうをいっぱい食べさせて貰ったよ。思い出すと、いまでも涎が出てきそうだ」
「あそこの山菜料理は美味いからなあ...」
「やっぱり、あの山菜料理は有名なのか?」
「うん、まあまあね。地元って言うか、近くの街道筋の村人なんかには知られてるよ。ただ俺は、昔は時々あそこで食ってたのさ」
「おっ、そうなのか。それは羨ましいな!」

「俺もラスティユの村の出身なんだ」
「えっ!」

「俺もライノと同じで耳先は丸いけどハーフエルフなのさ。正確に言うと、あの村で生まれ育ったわけじゃないけど、親父があの村の出身でさ。で、お袋は旧街道沿いにある『ホーキン』って村出身の人間族」

そうだったのか・・・
ハンサムな男だとは思ってたけど、全く気がついてなかったぞ。

「まあ、俺は親父よりも祖父じいさんに似てるって言われてるぐらいだからさ、顔には母親の血の方が強く出てるけどね」

改めてマジマジと見ても、どっちかというと輪郭の四角い、カチッとした人間族系の顔立ちって感じだしなあ。
彫りは深くて、旅芸人の一座で『悪を倒してお姫様を救う英雄』の役とかやったら、もの凄く似合いそうだ。
それこそ勇者のイメージ?

パルミュナに教えて貰ってたように、瞳の奥をよく見れば分かったんだろうけど、そもそも相手をエルフ系だと思ってなけりゃ、覗き込む理由もないよな。
て言うか、男の目をいちいち覗き込んだりはせん!

「たまたま、俺のお袋の親父さん、つまり、俺の祖父さんだな。その祖父さんが腕のいい鍛冶職人でさ、噂を聞いた俺の親父が、自分の狩猟刀を作って貰いに尋ねて行ったのがきっかけで出会ってさ、で、互いに惚れ合うようになったらしいよ」

「狩猟刀が欲しいってことは、レビリスの親父さんはラスティユの狩人だったのかい?」

「そうさ。村で双子の狩人に会わなかったか?」
「会ったよ!」
「俺は昨日、ライノが『ラスティユの村でウォーベアに襲われてた二人の狩人を助けた』って聞いて、それはきっと、ラキエルとリンデルっていう、あの双子のことだろうって思ったんだけどさ」
「ああ、まさに、その二人だ!」
「だと思ったよ」

「でも、助けたとは思ってないよ。ちょうど襲われてるところに出くわしたってだけだ」

「いや。あの村にウォーベアと戦えるやつなんかいないさ。って言うか、ウォーベアとか見たことのある奴さえいないよ。ライノが助けてなけりゃ、きっとあの双子は死んでただろうさ」

「詳しく話すと、そういう訳でもないんだけどな...」

「そうかい? じゃあまあ、それは置いといてだ。あの双子はさ、俺の従兄弟なんだ。俺の親父は、あの双子の親父の弟なんだよ」

「えっ? まじか」
顔が全然違うじゃないか!
言わないけど。

「ほんとさ。だから俺にしてみれば、ライノは従兄弟たちの恩人だってわけ。別に借りを返すとか恩返しするとか、そんな大げさな気持ちじゃないよ? だけど、なにか力になれることがあるならやりたいなって思ったのさ」

パルミュナの可愛さにほだされて、わざわざ忠告に来てくれたのかとも思ったけど、それすらも誤解だったようだ。

なんて言うか・・・重ね重ね、すまん!!!

「親父はお袋と結婚してラスティユの村を出て、ホーキンの村に移り住んだんだ。そこでいまも一緒に暮らしてるんだけどさ...最近の化け物騒ぎで、それでなくても寂れ気味の旧街道に、ますます人が寄りつかなくなってきちまっただろ?」

「らしいなあ。けっこうみんな困ってるって話を聞いたよ」

「そうなのさ。親父はホーキンの村に移ってからは祖父さんの教えを受けて、鍛冶職人として働いてたんだ。最近は結構いいものを作れるようになって、遠くまで評判も届いてたらしいんだけど、すっかり村に人が来なくなちゃってさ、まとめて買い付けに来てくれてた行商人なんかも及び腰らしくて、売る方も買う方も困ってるんだ」

「ああ、それは商売あがったりって言うか、困るだろうな...」

「だから、俺も出来れば旧街道の騒ぎはなんとか解決してあげたいなって思ってたんだけどさ、自分で調査に行ってみてもなんにも見つからないし、でも化け物騒ぎはいつまで経っても収まらないしで、お手上げだったってわけ」

「そこに俺たちが来たから?」

「うん、ぶっちゃけて言っちゃうと、それがエルスカインかどうかは置いといて、ライノが一緒だったらウォーベアが出ても、変な奴らと対人戦になっても平気な気がするし、いいチャンスかな?ってさ」

「それは買い被りすぎだろう...」

「そうは思わないよ? それにやっぱり、妹ちゃんを連れて行くのには反対だってことに変わりは無いさ。もし、さっきの話で妹ちゃんをフォーフェンに残した方がいいって思うんだったら、俺が責任もって送っていってもいい。下心ナシで、ライノが戻ってくるまでちゃんとボディーガードもやるって約束する」

「気持ちはありがたく貰っておくよ。ただ、俺もパルミュナも大丈夫だと思ってる。レビリスが付き添ってくれるのも安心できるけど、パルミュナはちゃんと戦えるよ」

いや本当を言うと、パルミュナが危険な目に遭うずっと前に俺の方が死んでるはずだけどな。

「そっか。まあそこら辺はその人の考え方次第だから、しつこくは言わないさ」

でも、レビリスって本当にいい奴だな・・・

あの双子の従兄弟ってことは、この一族全体の気性として、こういう正義感というかまっすぐな感じが受け継がれてるんだろうな。

「それはそれとしてだ。さっきレビリスが『繋がりがあるかどうかは別として』とは言ってたけどさ、本当は何かがありそうな気がしてるんじゃないか?」

「まあなあ...これもウェインスさんみたいな人間族には分かって貰いにくい話なんだけどさ...」
「なんでだ?」
「ライノと妹ちゃんはエルフだから分かるだろうけどさ、二百年前ってギリギリだけど繋がっててもおかしくない年代差ではあるんだよなー」

ルーオンさんが『いくらなんでも時代が開き過ぎてますよ』と言ったことを思い出す。

そうだよな・・・
そりゃ人間族の感覚だと二百年って言うのは大昔になる。
紙や壁に記したことでも残ってなければ、伝承ですらきちんと伝わってるかどうか甚だ怪しいってくらい昔のことだ。

俺だって、あの時は『その通りだな』って思ったよ。
なにしろ自分がハーフエルフだって教えられたのは、その前日のことなんだからな!

でもエルフの感覚だと、当時の目撃者がまだ生きてるってのは厳しいとしても、『伝承』ってレベルなら、まだ一代目かせいぜい二代目だ。
身近な話として聞いた可能性で言えば、リアリティは比べようもない。

「そうは言ってもラスティユの村はリンスワルド領内だし、当時の村人たちは、それほどの大事件というか、自分たちに関係のある話だと思ってなかった感じらしいけどね」

「旧街道は山の向こう側だって言えばそうかもしれないけど、そんなもんかねえ」

「ラスティユの村って、ほとんど本街道側の村とやりとりしてるから、旧街道ってあんまり日常的な関わりがないしね。ガルシリス辺境伯の叛乱のことは親父や伯父さんから聞いたけど...まあ、人ごとっぽいな」

「それもそうか...」

「それに、ラスティユの村が出来たのはミルシュラント公国が出来てからすぐの頃らしいんだけど、エルフ族だけの里ってことで、隠れ里って言うか、治外法権みたいな扱いをされてたらしいからさ」

「へー、特別扱いだったんだ?」

「らしいよ。だからリンスワルド伯爵家とガルシリス辺境伯家の諍いとか、周辺の村から流れてくる話って捉え方だったっぽいね。それに、その頃ってまだキャプラ橋も出来たばかりで、いまみたいに本街道の脇にたくさんの村があったわけでもないからさあ」

「逆に言うと、まだそういう時代だったんだよなあ。フォーフェンだって街にすらなってなかったんだろうし」

「で、話を戻すとさ...仮にガルシリス辺境伯が本当に魔獣を手懐けてて、それで王都を混乱に陥れようと準備していたとすると、その時に手を貸した魔法使いがいたはずだよな?」

「ああ。いろんな人の話を聞いてる限りじゃ、辺境伯自身が魔法使いだったってことはなさそうだもんな。それだったら、もっとそっちの噂が出てるだろうし、実際に見てた人だっているだろうと思うね」

「だろ? で、もしもさ、その魔獣使いだか魔法使いだかがエルフ族だったとしたら、その弟子くらいはいまでも生きてて不思議はないんだよ」

「おおぅ!」

「しかも魔力の強いエルフの魔法使いなら寿命が長いかもしれないだろ? まだ本人が生きている可能性だってあるさ。ま、さすがに年寄りすぎて、自分であれこれやってる感じじゃないかもだけど」

言われてみれば、そうか・・・
レビリスの言うとおり、当時、辺境伯に手を貸していた魔法使いがエルフなら、その弟子や手下はもちろん、場合によっては本人さえ、まだ生きてる可能性があるのか!

改めてレビリスから指摘されて、俺は色々なことがストンと腑に落ちた気がした。

それがエルスカインと関係してるかは別として、エルフの視点からすると、二百年前の出来事って言うのは、いまでも繋がりを残している可能性のある年代差なんだな・・・
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