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第三部:王都への道

フォーフェンからの返事

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みんな揃ってドラゴンを探しに行くことが決まった後、シンシアさんは家人全員に宣誓魔法をかけ直すために大忙しだったようで、その後は晩餐にも顔を出さず・・・
と言うか、そもそも顔を見かけない日が続いていた。

ヴァーニル隊長も、王都より先へ向かう『ドラゴン・キャラバン』の人員選抜に頭を悩ませているようで、しょっちゅう難しい顔をしている。

その間、俺たちは少しばかり細かい事柄や王都に向かうまでの段取りを話し合ったり、姫様の長旅の準備をダンガたちとこっそり手伝ったりしつつ、それなりにあれこれやって過ごしていると、フォーフェンにいるレビリスから手紙の返事が届いた。

・・・のだと思ったら、手紙ではなくレビリス自身が到着していた。

マジで?

「あー、レビリス久しぶりーっ!」
「えっ、そんな久しぶりだっけ? まあとにかくパルミュナちゃんも元気そうでなによりだよ」
「えっ? レビリスどうした?」
「どうしたじゃないだろ。お前の手紙を持ってきた伯爵家の使者の人さ、迎えの馬車まで用意してたぞ?」

「うっそぉ...」

「俺が『じゃあすぐに返事を書きますよ』って言ったら、『レビリス様は、この依頼をご承諾いただけるのでしょうか?』って聞いてきたからさ、『もちろんですよ!』って答えたら、『では馬車をご用意しておりますので』って...そのまま連れてこられたのさ」

「えーっ...」

「見当も付かない依頼でウェインスさんも泡食ってるし、寄り合い所は大騒ぎだよ」
「そんなに?」
「俺がウェインスさんに『でも次の採掘場の当番どうします?』って暢気に聞いたらさ、血相変えて『タウンドさんは伯爵様のご依頼優先で!』ってなんか怒られた」
「あー、スマン」
「まあ、あんな高級な馬車は生まれて初めて乗ったし、道中も飯からなにから至れり尽くせりで貴重な体験だったけどさ」

「いや、なんかごめんな。まずはレビリスの返事を聞いてから色々細かなことを相談して決めようってくらいに思ってたんだよ」
「なに言ってんだか。伯爵様直々のご指名であんな報酬を提示されて、断るバカが何処にいるのさ?」

「え、報酬? いや、実は聞いてないんだ」

「マジかい? 期間は伯爵が終了指定するまでの無期限でさ、日給が採掘場警備の十倍だぞ? いいか、週給じゃなくて日給比較で十倍だぜ? 断れる奴がいるもんか!」

「あー、まあレビリスが納得してきてくれたんなら有り難いんだけど、実はなあ...あの手紙を書いてたときよりちょっと深刻な状況になっちゃっててな」

「お? じゃあ、ただの調査じゃ終わりそうにないって感じかい?」

「もっと悪いな。実は俺たちは北部大山脈にドラゴンを探しに行かなきゃいけなくなったんだ」

その時のレビリスの顔は、なんと表現したらいいのだろう?
信じられないものを見たって感じの驚愕と、悪い冗談でも聞かされたときのような脱力と・・・後はアレだな、怪しいものを見かけたときの警戒感が、全部ゴッチャになったような表情だ。

こんな二枚目でも、これほど面白い顔が出来るのかって感心したよ。

「やれやれだ。相変わらず、とんでもないことに首を突っ込んでるなあライノは...とにかく、なにがどうなってるのか説明してくれよ勇者さま!」

「レビリスもお兄ちゃんも、お茶をどーぞ」
肩をすくめたレビリスに、パルミュナがお茶を注いだティーカップを押しやった。
「おっ、パルミュナちゃんが入れてくれたお茶か! 美味しそうって言うか、いい香りだな! ありがとう」
「ありがとうなパルミュナ」

いまのパルミュナはお茶がマイブームって奴だな。
考えてみれば、初めて美味しいお茶を飲んだのはレビリスと出会った破邪衆の寄り合い所だったっけ・・・

三人でお茶を啜りつつ、とりあえず俺はドラゴンを探す理由と、岩塩採掘場の麓で別れた後の出来事を順を追って話して聞かせた。

聞いてる最中のレビリスは、呆れたり感心したり、さっきの面白い表情を色々なパターンで繰り返していたんだけど、話がグリフォンの襲撃を受けた段階に至って、手の平をこちらに向けて俺の話を押し留めてきた。

「ライノちょいストップ。グリフォンが三匹ってか?」
「ああそうだ。三匹が一気に転移門で送り込まれてきたよ」
「で、そいつらをパルミュナちゃんと一緒に片付けたと」
「まあ、実質的にパルミュナのおかげだけどな。俺だけだったらみんなを守り切れた自信はないよ」

「そんなことないってばー。アタシがいなくてもガオケルムだけで戦えたよー!」

お? 
パルミュナが『ガオケルム』ってちゃんと言ったのは珍しいな。
と言うか何気に名前を覚えてたか。
まあそれはともかく・・・

「ありがとなパルミュナ。でも、あんまりおだてないでくれ。正直俺にはそこまでの自信はまだないよ」
「そっかなー?」

「でさ、とにかくライノとパルミュナちゃんの名コンビでグリフォンを撃退できたわけだな。あとアンスロープの兄妹か? その連中が数十匹のブラディウルフを片付けてくれたと」
「まあな」
「...なあライノ?」
「ん?」
「仮に、その場に俺がいたとしてさ、なにか役に立ったと思うか?」
「んー...」
「即答できないよな? 俺自身だって、そこに居てなにか出来たのか想像も付かないさ」

「いや、まあ、だから本来レビリスに頼みたかったのは、そういう戦闘じゃなくってだな、手紙に書いてたような村の候補地探しの手伝いなんだよ」
「それは分かってるさ。だけど、そのアンスロープの兄妹もドラゴン探しに一緒に付いてくんだろ?」

「ああ。エルスカインがグリフォンを操れた以上は、ドラゴンだって操れるかもしれないからな。そうなる前に阻止する必要があるし、同時に姫様たちを守ることも考えて、みんな一緒に行動しようって話でまとまったんだ」

「了解だライノ」

「なのでレビリス、すまないがアンスロープの新しい村の場所決めは俺たちが戻ってくるまでしばらく中止だ。まあ、独自に調査を進めておいて貰うって手もあるけどな。それなら伯爵も約束通りに日当を払うと思うし」

「いやなに言ってんのさ? ドラゴンを探しに行くんだよな?」
「そうだ」
「なんで俺がここに残るって話になるのさ?」
「えっ? だって村探しの手伝いとはわけが違うだろ。下手したら死ぬかもって話だぞ?」
「そりゃ、さっきのグリフォンの話を聞いてりゃ俺が戦闘で役に立てるかどうか甚だ怪しいけどさ、だから一緒に行かないって手はないだろ?」

「本気かレビリス?」

「当然。だって友達なんだしさ。なんなら御者だって薬草採集だって食料調達だってやるさ。そんくらいなら俺だって役に立てるだろ?」

レビリスって・・・

採掘場でもしみじみ思ったけど、なんて言うか『侠気』おとこぎに溢れてる人物だよなあ。
こんな優しい顔をした二枚目なのに・・・って、それは俺の偏見か。

「分かったレビリス。じゃあ俺からも頼むよ。一緒に来てくれ」
「了解さ、ライノ」

レビリスと俺たちは真の友人なんだ。
お互いに、それほど沢山の言葉は必要ない。

++++++++++

それから細かな話を説明した後で、三人揃って離れにダンガたちを訪ねることにした。
レビリスのことは、デュソート村に居たときにダンガたちにも話してあるけど、実際に顔を合わせるのはこれが初めてだからな。

いつもの談話室に入ると、先触れを聞いて三人が待っていてくれたけど、すでにテーブルの上には人数分のお茶のセットと焼き菓子も綺麗に並んでいてね・・・
本当にリンスワルド家のメイドさんや家僕の方々の働きっぷりには頭が下がるよ!

「ダンガ、コイツが前に手紙を渡してくれって話してたレビリスだ」
「レビリス・タウンドだ。レビリスって呼んでくれ」
「ああ、初めましてレビリスさん、ルマント村から来たダンガです」
「さん付けなんていらないさ。お互いライノの友達同士だろ?」
「そ、そうだね。じゃあレビリス、こっちが俺の妹のレミンと弟のアサムだ、よろしく頼む」
「レミンです」
「アサムです」
「レビリスって呼んでくれな?」

とりあえずテーブルについてお茶を飲みながら六人で話していると、最初はぎこちなかったダンガたちもすぐに打ち解けてきた。

「なんだかレビリスさんって、ライノさんに聞いてたとおりの方でしたね!」
「え? ライノはなんて言ってたのさレミンちゃん? それきっと根も葉もない噂だからね?」
「まてレビリス、まるで俺が悪評を広めてるみたいだぞ?」
「ときどきライノは辛辣だからな。用心が必要さ」
「そんなわけないだろ」
「てゆーか、レビリスが身に覚えがあるってだけじゃなーい? 危ない『ぼうけん』とかー」
「ぐふぅっ、パルミュナちゃん裏切らないで!」

「あはっ、じゃあバラしちゃいますけど、ライノさんはレビリスさんのことを『俺が妹と同じくらいに信頼している奴だよ』って言ってました!」

「おおぅ...そういう直球で来られるとさ、正直照れるなあ」
「あー、わかるー!」
「おい、なんでパルミュナがそれを言う?」
「えー、アタシがなにを言われて照れたかここで喋っていいのー?」

「すいませんでした勘弁して下さい」

だって、それは俺が照れるじゃないか?
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