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第七部:古き者たちの都
人工島の内部へ
しおりを挟む「ともかく、ここが管理用通路だとしたら好都合かも知れないな」
「なんでー?」
「だってパルレア、さっきアクトロス号からの荷物が運び込まれていた建物は、ちょっと豪華な雰囲気じゃ無かったか?」
「そーね?」
「つまり連中が、この島の主達が使っていた建物から地下に入ってるんだとしたら、そこから普通の廊下を進むだろ? わざわざ管理用通路なんてグネグネ遠回りする道を選ぶ必要は無いと思う」
「なーるほど!」
「確かにそうですね御兄様。ここから『裏動線』を利用すれば、『表動線』にいる彼らに察知されずに行動できる可能性は高いと思います!」
よし、シンシアも賛成してくれたってコトは可能性も高いな。
あとはマリタンに壁の向こうや地面の下の『少し広くて長い隙間』、つまり地下通路をうまく辿ってくれることが出来れば最高なんだけど・・・
「シンシア様、ワタシはとにかく下へ下へと向かう通路を見つければ良いのかしら、ね?」
「はいマリタンさん」
「どうもこの島は下へ行くほど重要なモノがありそうな気がするんだよな・・・」
ぶっちゃけ『何』を探せばいいのか分からないんだし、地下の何処に行けばいいのかサッパリだけど、深く潜って中心部に近づくほど重要な設備が有るって言うのがお城の宝物庫の常識だ。
まあ、そんな場所に本当に入ったことは無いんだけど、人づてに聞いた話としてはね。
「ライノ、ここは敵といつ遭遇するか分からん場所だ。お前とシンシア殿はすぐに対応できるように備えてた方がいいだろうから、マリタンは俺が抱えておこう」
アプレイスの言う通りだな。
シンシアも頷いてマリタンをアプレイスに渡す。
「早速だけど兄者殿、この先の左手にかなり大きな隙間があるわね。それも縦に伸びてる感じよ?」
「お、そこから下に降りられそうかな」
「マリタンさん、その空間は完全に真っ直ぐですか? それともデコボコしてる感じがありますか?」
「ええっと...途中で何度か折れ曲がってる感じ、ね」
「だったら行けそうですね御兄様」
「なるほど、真っ直ぐな縦管だったら『昇降機』って可能性があるな」
「はい。いまは島を動かす魔力が全て停まっているので、昇降機は動かせないと思います。上下の移動は階段か梯子に限られるかと」
「仮にそこが昇降機でも、その縦穴にゆっくり飛び降りればいいんじゃ無いのかシンシア殿?」
「あ、そういう手もありますね!」
「うーん、垂直に距離を稼ぐにはいい手だと思うんだけど、それで中心部に行けるコースから外れると後がキツい気がする。しばらくは階段を使って様子を探りながら進みたいかな?」
「たしかにな。了解だライノ」
「兄者殿、その先左手の壁に扉が無いかしら、ね? きっとそこが階段空間に繋がると思うのだけど...」
マリタンが言うように、少し進んだところの左側に扉らしきモノがあった。
人が上り下りする階段のある空間なら扉もあって当然だ。
当然だけど・・・これを『扉らしきモノ』と言うのは、ドアと思える形状の切れ目が壁に入っているのに、そこにはノブもハンドルも付いてないからだ。
「コレはあれか? ウルベディヴィオラの倉庫の隠し扉みたいな感じなのかな?」
「魔法鍵の一種かも知れませんね」
「ちょっとドラゴン、ワタシにも見せて頂戴、な」
「はいはい」
アプレイスが『扉』の前にマリタンを差し出すが、マリタンはすぐに首を振った。
いや、首はないけど振ったような気配?
「ダメね。ワタシに開けられるタイプの魔法鍵じゃないわ。本人確認が必要なタイプ、かもね?」
「鍵かぁ...」
「お兄ちゃん。魔法鍵ってさー、呪文とは限らないじゃん?」
「うん? 魔法鍵があったら物理鍵を使う必要は無いだろ? って言うか、そもそもココには鍵穴なんて無いぞ?」
「だーから、この前エルダンで『魔道具の鍵』って話を散々したじゃーん!」
「お!?」
したよ、したした。
確かにしました、そういう話を!
もっとこう・・・宝物庫とか巨大な魔道具の鍵とかを想定してたから、まさか裏動線にある作業用通路の扉で試してみようとは思わなかったけどさあ!
「まー、万が一でもって感じだけど、試してもソンは無いじゃん?」
「ですね御姉様!」
シンシアがそそくさと小箱からリリアちゃんのペンダントを出した。
扉に近づけて色々と動かしてみるが、なにも反応はない。
「次はオーラのメダルありで試しますね」
次は小箱からリリアちゃんのオーラメダルをセットしてある『銀箱くん改』を取り出して起動させた。
今度の銀箱くんはメダルを収めるポケットだけでなく、表面にペンダントをきちんとセットできるように改造されている。
それを近づけると、扉は音もなく横にスライドして開いた。
一瞬遅れて、真っ暗だった内部に明かりが点いていくのが見える。
「おおっ、開いたぞ!!!」
「やりました御兄様! 御姉様のお陰ですねっ!」
「えっへっー!」
「おお、偉いぞパルレア。よくぞ気が付いてくれた!」
「ほめてー」
「褒められて当然だよパルレア!」
肩に座っているパルレアの頭を指先でそっと撫でながら、開いた扉の向こう側を凝視するが、なにも動くモノの気配は無い。
「やっぱりヴィオデボラ島はリリアちゃんって言うかバシュラール家ゆかりの地だったんだな!」
「大正解でしたね御兄様!」
「シンシアにオーラの模倣メダルを作って貰っておいて本当に良かったよ。逆に言うと、コレがなかったらどうしようもなかったかもしれん」
「ですよね...」
「ところでシンシア様、この扉がオーラとペンダントの鍵で動いたと言うことは、この島の機能は完全に死んではいないと思いますの」
そうマリタンから言われて、シンシアは手にしている銀箱くんに目を落とした。
「この鍵で、また島全体を動かせる可能性があるわけですね?」
「ええ、扉が開いて、明かりも点いた訳でしょう? と言うことは、そのペンダントと持ち主のオーラを判別する機能は、ずっと生き続けていたはずだわ。それこそ何千年も、ね」
「すげえな...」
「だってドラゴン、さっきの兄者殿の話じゃないけれど、これほど大きな島を海の上で動かしていたほどの魔力があったのよ? 壊れておらずに待機状態なら、千年や万年もっても不思議はないわね」
「いや、それでも凄いぞ!」
「だよなアプレイス、壊れてないってのがマズ凄いよ!」
「あら? ワタシだって同じ期間を書棚の中で過ごしてきたハズなのだけど、ね?」
「あー...確かにそうだな...」
「うん、マリタンも凄いわ」
「ですよね!」
「そっかー、考えてみればマリタンちゃんって、現世ではアタシやアスワンよりも長生きしてるんだもんねー!」
「おおぅ、そうも言えるか」
大精霊アスワンやパルミュナが、いつ頃から現世の世界とそこで生きる人族に関わりを持ち始めたのかは定かじゃないけど、すくなくとも古代の世界戦争の時代の出来事についての知識は無かった。
精霊界を勘定に入れず、現世を認識している長さだけで言えばマリタンの方が年上か・・・いや待てよ、本棚の中で寝ていたのは年齢にカウントして良いのだろうか?
まあ意識云々は別としても、マリタンにせよエルダンの地下に置かれていたガラス箱やノート、それにあのドラ籠にしても、数千年前の魔道具が壊れずにいまも動いているって言うのは本当に凄いよな。
「で、マリタンの言うように、鍵を判別する機能が待機状態で生きてるなら、コレで俺たちは島の中を自由に動ける可能性があるよな?」
「はい御兄様。しかも舞台裏というか、客に見せられないモノがあるからこそ普通は入らせない保全用通路の扉が開くと言うことは、このペンダントがあれば島中のほとんどの扉が開く可能性がありますね!」
「ん? なあシンシア、それってつまり...」
「ええ、リリアーシャ殿は、このヴィオデボラ島の『持ち主』の血族である可能性が高いと思います」
「だよなあ」
「おいライノ、それってリリア嬢が闇エルフって言うかイークリプシャンの王族の子孫ってコトか?」
「いや子孫じゃなくって、当時の一族そのものだろ? ずっと眠ってただけで」
「おぉ、それもそうだな」
「三千年もの時を『眠ってただけ』と言い切るのも微妙な気はしますけど...これほどの規模の人工島を所有していたとなれば普通なら王族か、少なくとも上級貴族だということは間違いないでしょうね」
「しかしなぁ...それがどうしてエルダンのガラス箱に親子で閉じ込められるハメになったんだろうなあ?」
「分かりませんけれど、貴族家での内紛やお家騒動は良く有る話ですし、イークリプシャン陣営もエルスカインを筆頭にした一枚岩ではなかった、という可能性もあると思います」
「まあ可能性はあるよな」
「あ...」
「どうした?」
「ちょっと確認したいことが出てきました」
そう言ってシンシアは小箱から帳簿の魔帳を出した。
ここで魔獣の棚卸しを確認するのかシンシア?
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