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第八部:遺跡と遺産

中継装置を仕掛ける

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考えてみるとヴィオデボラ島自体だってそうなんだけど、古代の魔道具はどれもこれも『やれるところまでやってみる』って軽いノリで、とんでもない代物が作られてたような気がしなくも無い。
魔力の消費量とか利用効率ってだけじゃなく、山を吹き飛ばした兵器だとか、火山を暴走させたとか、あらゆる魔導技術に対して限界にチャレンジしてたって感じがするよ・・・

「じゃあシンシア、後は送り込み先を地下牢なんかに設置すれば、ナニカが罠に掛かるまでは黙って寝て待てって感じかな?」

「ですね。もちろん本来なら、私たちがここを片付けて立ち去るまで、何も掛からないのが望ましいのですけれど」
「違いない」
「そのナニカが送り込まれてくるとしたら『誰』と言うか、『何』と言うか...御兄様は、フェリクス王子は今も生存してると思いますか?」
「思うよ」
「即答なんですね!」

「勘だけどね。ただ、実のところエルスカインにとってフェリクス王子がどう役に立つのかは分からない。そもそもバシュラール家の『マスターキー』みたいに血族のオーラが必要とか、そんな仕掛けは無いだろうと思うし」

「つまり、マディアルグ王は自分がホムンクルスになって永遠に生き続けるつもりだったから、子孫に相続させる気が無かったと?」

「いやいや。そもそもエルスカインが『血族のみしか使えない』なんて仕掛けを許さなかったんじゃ無いかって思うんだ。仮にあったとしてもエルスカインが自由に無効化できるモノだっただろう...それにマディアルグ王が気付いていたかどうかはともかく」
「それなら、マディアルグ王が粛正された時に無効化してますよね?」

「たぶん。最初からそんな仕掛けは無いか、あったとしても無効化されているか...だから『獅子の咆哮』を起動するためにフェリクス王子を必要とするって可能性は低いと思うな」
「なるほど」
「それでもなにか利用価値があって、フェリクス王子を流刑の島から救出しているだろうと思えるんだよ。あくまで使い捨ての駒としてだけど」

「そうですね...御兄様、フェリクス王子は庶子だったから、王宮内に居所を持っていなかったのでしょうか?」
「どうかな? パトリック王の考え方次第だから、あったかも知れない。聞いて見るかい?」
「ええ。もし、その部屋が王宮内に残っているのであれば見てみたいです」

「よし、地下牢のコトを聞くついでに、それもオブラン宰相に尋ねてみよう」

++++++++++

いったん慰霊碑の裏から部屋に戻って、廊下に顔を出す。
廊下に控えている家僕の人に、『オブラン宰相への相談事がある』と伝えると、すぐに本人がやって来てくれた。

「は? 地下牢ダンジョンでございますか勇者さま?」
「ええ、お城なら何かしらあるでしょう? そこを使わせて頂きたいんですよ」

オブラン宰相が、ちょっと驚いた表情で目をしばたたかせた。
俺がそんなモノを必要とするとか、想像してなかっただろう。

「あるにはあるのですが...」
「なにか問題でも?」
「ここの地下牢はマディアルグ王の時代に造られたモノでして、その、非常に環境がよろしくないと申しますか。とても勇者さまに足を踏み入れて頂きたいような場所ではなく...」
「まさか、『その頃の状態』が、そのまま手つかずで残っているとか?」

いくら何でも、ミイラや骸骨が転がっているような場所にシンシアを連れて行きたくは無いぞ・・・

「いえ、さすがにそれはございません。フェリクスも一時的に拘留されておりましたし、現在も使える状態です。まぁ実際に使われたのはフェリクスが数十年ぶりでしたが...よほど危険な相手を押し込める以外に地下牢の必要性はないかと思われますが、勇者さまはどのような用途をお考えで?」

「まさにフェリクス元王子...のホムンクルスを押し込めることになる可能性があるかもしれません」
「なんと!」
「可能性ですけどね。もし使うことになるとしたら、間違いなくエルスカインの手下を放り込むことになるでしょう。それは恐らくホムンクルスの魔法使いだし、場合によってはフェリクス元王子のホムンクルスかもしれない」

「なるほど。そういうことでございましたら地下牢でも無理はございませんな...いえ、地下牢が良いでしょう。勇者さまが自由に出入りできるように手配致しますが、これからすぐ見に行かれますか?」

振り向くとシンシアは小さく頷いた。
確かに転移門の罠を張っておくのは早いほうがいいな。

「じゃあ、お願いできますか」
「承知致しました。それでは私めがご案内致しましょう」

と言うことでオブラン宰相が前に立って歩き始めてから改めて感じたのだけど、腰の低いオブラン卿も実は『宰相』なんだから、城内では王族に次いでくらいに偉い人だ。
大臣達の力関係は良く分からないけど、パトリック王の信任を得ているって点ではジャン=ジャック氏とオブラン卿がツートップと考えて間違いない。

だから彼が先頭に立って城内を歩いて行くと、廊下にいる人達が二つに割れて両脇に下がる。
深く頭を下げて絶対にこちらを見ようともしない。
そして俺たちが通り過ぎた後で、物珍しげにこちらを伺う視線をヒシヒシと背後から感じるのだ。
めっちゃ居心地が悪いよコレ!

ともかく長い廊下を歩き、幾つもの角を曲がって階段を降り、さらにまた薄暗い廊下を延々と歩いて幾つかの階段を降りたところに、ようやく鉄格子に囲まれた門番の部屋があった。
もちろん、ここに来るまでも要所要所に衛兵が立ってはいたけれど、オブラン宰相の姿を見た途端に直立不動になるので、後ろにくっ付いている俺とシンシアも誰何すいかなんか一度もされてない。

ここまで長い道のりだったな・・・精神的に。

オブラン卿が門番に指示して前後の鉄格子を開けさせる。
つまり、外から押し入ってきた賊がいても、中から脱獄しようとした囚人がいても、この部屋にいる門番をどうにかして部屋の両側の鉄格子を開けさせないと、行き来できないって構造だ。
門番は鉄扉の奥に立てこもれるから、脅して鍵を開けさせるのは難しいだろう。

「この奥が地下牢の並びです勇者さま。いま現在は収容されている罪人もおりませんので、特に危険なことや不衛生なこともございません」

地下牢に優れた衛生状態を求めるのは難しいだろうけど、さっきのオブラン宰相の言い様からも、もっと暗くてジメジメしていて、魂魄霊レイスでも漂っていそうな不気味な空間を予想していたので、ちょっと拍子抜けだ・・・通路や壁が乾燥しているだけでも上出来だな。
エドヴァルの警邏隊本部にある、捕縛した盗賊を放り込んでおくための牢獄とかの方がよっぽど汚らしい。

シンシアが物珍しそうに辺りを見回す。

「地下牢って、さほど広くはないのですね。私はもっと複雑というか、迷子にでもなりそうな空間を想像していました」

「いえ、そもそも地下牢に大勢を押し込めるような治政で有れば、なにかが間違っているという事でございます。為政者としては、牢が足りなくなる前にすべきことがありましょう」

シンシアのピュアな質問に対して予想外に真っ直ぐな返事が来た!
古い王国の地下牢って言うイメージで、もっとおどろおどろしい世界を想像していたのだけど、俺が間違っていたようだ。

「...とは言えマディアルグ王の時代には、ここは処刑を待つ囚人を一時的に留め置く場所という扱いだったようで、溢れる前に片っ端から処刑されていたという話も聞きましたが」

うん、やっぱり造られた当初の使われ方は、俺のイメージ通りで間違って無かったようだね・・・

「それはなんとも...」
「で、どこにするシンシア?」
「念のために、一番奥の部屋を使わせて頂きましょう」

幾つかの牢が並ぶ廊下を進み、一番奥の部屋の中に入ってからシンシアが『中継装置』を床にセットする。
オブラン卿はシンシアの手元を興味深そうに見ているけれど、質問して煩わす気は無いようだ。

「こちらの中継装置は対になったもう一方の出口となっていて、一度稼働した後には転移門としての機能が消滅します」
「消滅?」
「はい。なにをどうやっても後戻りは出来ません。中継装置が稼働すれば私たちには分かりますから、捕らえた獲物をココに見に来れば良いという訳です」

日頃のシンシアらしくない、物騒な物言いだな・・・

たぶんシンシアも、民を巻き添えにしたマディアルグ王や、血縁者を皆殺しにしようとしたフェリクス元王子の所業に、静かで深い憤りを覚えているのだろうけど。
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