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12. 黒幕…?〜3年前〜

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 ~~~トーマスと出会って1週間後の会話に戻る~~~

 トーマスはヒルデの話しを聞いて思った。

「ちょっと待て、今なんでお前はここにいるんだ?今お前は王宮にいないといけないんじゃないのか?」

「ここにいるのは坊ちゃまに雇用されたからです。お前お前といくら使用人だとはいえレディに向かって失礼ですよ。モラハラ、パワハラですか?それと解雇されたのですからどこに行こうと私の自由です」

 めちゃくちゃ動揺して冷や汗が止まらないトーマスは叫んだ。

「いやいや。王様に後で話そうとか言われてたんだろ!?めっちゃやばいじゃねえか!追手とかは!?っていうかなんでお前ここにいるんだよ!?」

「ですから解雇された後、こちらで雇っていただいたので」

「いやいや、解雇されてるけど!雇ったけど!でもなんか違くないか?」

「違いません。新聞にも解雇って書いてあるでしょう、坊ちゃま」

「坊ちゃま呼ぶな。解雇されたけど、後々王宮に戻ることになってるじゃねえか!」

「いや~~~将軍まで上り詰めたのに~~~追放とか傷つきますわ~~~。ショックで……恥ずかしくて……王宮でどんな顔して歩けばよいのか……」

 指を目元に当て、くすんくすんと鼻をすすり泣いている。明らかに涙は出ていないが。

「思ってないだろ!いや、思ってるか……すまん」

 クビにされた人間が傷ついてないわけないと気づき、素直に謝るトーマス。

「私……坊ちゃまの素直なところがとても素敵だと思います」

「左様か……」

「左様です」

 トーマスが魂が抜けたようになっているかたわらで、ヒルデはどこか楽しそうにしている。

「坊ちゃま、解雇されたことには変わりなく、周囲のものからすれば責任を押し付けられて解雇され傷ついたんだろうと思われているから大丈夫ですよ」

「いや、大丈夫じゃないだろ。探してるだろう。それにお前がいなくなったら周辺国から攻め入られたり、お前をスカウトしようと探したりするんじゃないのか?」

「他国は大丈夫ですよ。キール大先生がいますからね。私が乗り換えるようなことはしない性格だと知ってますからスカウトなんか来ませんよ。坊ちゃま、ご心配なさらず」

「いや、でも……」

「置き手紙残してきましたから大丈夫ですよ。将軍まで上り詰めた私が解雇され、再度王宮に出仕となったとしてもどんな顔をして毎日すごせば良いのでしょうか?私にはそんな屈辱耐えられません。なので、探さないでください……と書いてきましたので。それよりも………………坊ちゃま、もう私はここに置いてもらえないんでしょうか?」

 今度はちゃんと目に涙を溜めて目をウルウルとして詰め寄ってくる。顔がお綺麗すぎて庇護欲はそそらないし、可哀想とも思えない。ただ、芸術的な美がそこにはあった。そして……置くといえ!と圧力があった。

「いや、そんなことはないが……」

「そんなことよりも坊ちゃま」

 そんなこととはなんだ。またここでもクビにされるかもしれない……自分の生活がかかっている問題だろうに。

「……なんだよ」

「まだ続きがあるので聞いてください」

「ドウゾオハナシクダサイ……」

 まだあるのか……どうしてこんな田舎貴族の自分が王宮の事情を知らねばならぬのか……気絶したい。


~~~~~~

 リカルドはヒルデとの会話を切り上げたあと、オハラとイバラのもとに急いだ。兵士の案内でオハラの部屋の前につくと何を言っているかはわからないが、言い争う声がする。リカルドはノックすると返事を待たずに室内に入った。

「失礼する」

 部屋に入ったリカルドが見たのは、床に座り込み泣きじゃくるイバラとその胸ぐらを掴み顔を真っ赤にしたオハラの姿だった。

「………………」

 見なかったことにして部屋を出てドアを閉めたい。が、そういうわけにはいかない。

「二人共、離れなさい。そしてとりあえずそちらに腰掛けなさい」

 リカルドが示したのは、室内にあったソファだった。はい……と小さい声で答えた二人は座ったものの、恐れ多くも王の方を見ようとしない。イバラは下を見て、オハラはイバラを睨みつけている。

「オハラ……」

 呼ばれたオハラはスッと王様に視線をやると、床に座り頭を床につけた。スカートがブワッと床に広がる。

「誠に申し訳ございませんでした」

「……そなたが悪いわけではない。祖国出身のものが犯人だっただけのことだ」

「いえ、私が昔からの情で雇ったものが至高たる陛下を傷つけたこと……それも決して許されぬ過ち。しかし……それだけではないともうおわかりでしょう?」

 オハラは床に座ったまま、まっすぐにリカルドと視線を合わせた。

「知っていたか……」

 王様の言葉に唇を噛みしめる。噛み締めすぎたのか、口の端から血が流れる。

「……情けないことですが、先程気づきました。今回の件は我が愚妹イバラの私情によるものだと……」

「そうか」

 王様は静かにそう言うと視線を下げたままのイバラに視線を向けた。鋭い視線を向けられたイバラは身体をビクッとさせると更に視線を下げた。

「イバラ」

「………………」

 イバラは恐怖からか身体が小刻みに震えている。

「今回の件、そなたの企みだったことはわかっている。そなたは頭が良い。私がオハラを王妃にすることは決定事項。バレたとしても自分が犯人だと公表されない、罰されないと考えた。なぜならそなたを罰せばオハラは犯罪者の身内となってしまうからな……かといって暗殺者に斬りつけられた以上誰かが責任を取らなければならない。もちろん、警護のものが対象となる。更にその上司もな。お前が一番の目的としたヒルデの排除ができるというわけだ。良かったな。たった今、ヒルデは解雇となった」

「なっ?!なぜですか?!わかっていながら何故!?」

 王の言葉に思わず声をあげてしまうオハラ。歴代最強の魔術の使い手を切り捨てるなど……。それにヒルデには王宮にて面倒を見てもらった恩もある。妹がしでかしたことで彼女が追放されるなどあってはならぬこと。その顔は気の毒なほど青ざめている。
 オハラと対象的にこんなときなのに口元が笑みの形になるのを止められないイバラ。

 そう。今回の事件は姉は王妃となり、自分はキール将軍と結ばれるのにヒルデが邪魔だとイバラが幼馴染に泣きついた……ヒルデ排除のための策略だった。イバラに淡い恋心を抱いていた幼馴染は愚かなこととわかっていながら愚行に走ってしまった。

「そなたとの婚姻は元ゼラム王国の民を我が民とするためのものだ。そなたとの婚姻、そしてそなたが私の子を産むことで元ゼラム王国のものたちが住みやすくなる。我が民たちは差別などしないと言いたいところだが……敗戦国の民が虐げられることは多々ある。それは防がなければならない。ヒルデは一旦解雇するがまた機を見て復帰させれば良いことだからな」

 復帰という言葉にイバラが顔を歪める。

「……あんなどこの馬ともしれない女がキール様の隣にいるなんておかしいのよ……」

「キールがそなたに靡かぬのをヒルデのせいにするとはな……お前に魅力がないせいだろうが」

「なっ?!私は美しいし、王女です」

 侮辱されたと思ったのか、顔を真っ赤にさせて王に食って掛かる。

「亡国の王女だ。さして価値はない。美しさもヒルデには遠く及ばんだろうが」

 あの美しさを越える美とはどんなものだろうか……。

「私がキール将軍と婚姻することで、ゼラムの民たちは安心します。それにキール将軍だって、王女が嫁げば更に尊い血筋となります」

「”元“ゼラム王国の民の安寧はオハラが担うものでそなたの役目ではない。そなたまで高位貴族と婚姻すればゼラム王国出身の者が反逆心を抱く恐れがある。ゼラム王国出身の者たちを冷遇してはならないが、頭に乗らせる必要はない。それにキール将軍は既に公爵家の高貴な血筋だし……そもそもそなたよりも後ろ盾になる高貴なものはいくらでもいる」

 それに、美しい令嬢も……

「そんな!では、どうやったって私はキール様と婚姻できぬではないですか!」

 せっかくヒルデの排除に成功したのに……顔を怒りに赤らめ、目を見開き叫ぶイバラに王は蔑む視線を投げかける。

「こう見えて私も忙しいのでな。そなたに処分を言い渡す」

「私を罰せば、オハラが王妃になるのが難しくなりますよ」

 これが彼女の本性か。祖国でも姉が妹を支えていたと聞いている。そんな姉の足枷となるばかりでなく、姉の立場を利用し悪巧みするなど許して良いものではない。

「……そなたはイース男爵のもとに嫁げ。嫌ならば修道院に行くと良い」

 イース男爵……イバラに好意を寄せる青年だった。夜会などでは必ずイバラにダンスを申し込み、毎日毎日ラブレターを寄越すほど惚れ込んでいた。見た目は平凡、中身も平凡。しかし、誠実で宮殿内の仕事を確実にこなす評判の良い青年。イバラにはもったいないくらいだと思うものの、評判の悪いものに嫁がせれば変な噂が立つ恐れがある。

「私が……男爵の嫁?……この高貴な私が?」

 怒りなのか、それとも屈辱感からなのかフルフルと震えている。もう用はないとばかりに立ち上がる王。罰にもならぬ処遇だと思うがイバラには罰になるようだ。暗殺者として使われた幼馴染やヒルデには申し訳ないが、これが政治というものだ。

「オハラ。そなたはこのまま王妃になってもらわねば困る。わかっていると思うが今回のことは他言無用だ」

 静かに頷くオハラ。部屋を出る直前、振り向かぬまま吐き捨てた。

「キールは伯爵家の令嬢と1年後に婚姻予定だ。勘違いされがちだが、キールとヒルデはお互いを認めているが仲は悪い。あれはなんというのか……育ちが違いすぎるんだろう」

 その言葉にイバラは泣き崩れた。そんな妹にかける言葉はオハラにはなかった。


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